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偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と輸血狩り その03
しおりを挟む呪詛剣[血涙]を収め、片付ける。
使用時のデメリットが担い手の血液吸収だけとはいえ、呪詛という単語はあまり使い続けたいとは思わせない。
今回使ったのは、あくまで取り込むという愚かな手段に出たからこそ。
普通に奪えるのであれば、そのまま回収するつもりなんだよ。
「ふぅ……回収完了っと」
「…………」
「ん? どうした、メィ。もう次の所に行こうぜ」
「……これ、生きてる?」
メィルドが心配そうに見ているのは、血を吸い上げた辺境伯の成れの果て。
呪詛剣に制御なんて存在せず、そもそもする気も無かった。
魔法で真祖返りの血を粗方集めておいたとはいえ、それもすべてではない。
お陰で分別の作業までやらされる羽目になり……少し、余分に血を吸ってしまった。
そのため、辺境伯はミイラと見間違うレベルで痩せこけている。
一時的にとはいえ、吸血鬼化していたので再生はできる……血は足りないままだが。
「造血ポーションもあるにはあるが、必要ないだろう。死にはしない、いずれ元に戻るから気にする必要は無いさ」
「でも」
「なら、報酬として一本追加しておく。ついでに先払いだ……これからも、しっかりと働いてくれよ」
「……分かった」
俺が差し出したポーションが、いったいどこに行ったのかは言うまでもない。
干からびた男をこの場に残し、俺とメィは次のターゲットの下へ向かうのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
一人ひとり挙げていったら切りがない。
それほどまでに、この帝国内部にペフリの血は散らばっていた。
幸いにも流出を避けたようで、帝国の外部には漏れていない。
それでも、数が多かった……一滴分を騎士たちにも、結構配っているようだ。
だがそれもこれでお仕舞い。
それを一気に解決するための手段が、今ここにやってくる。
「──見つけてきた」
「これがリストか……騎士の分だけでも、かなり多いな。爵位が与えられた騎士に限定しているようだが、それでも一日で回りきるのは難しそうだな」
「それまでずっと……こう?」
「演出的にはその方がいいが……さすがに常時起動していると、波動を特定されるだろうからな。まあ、襲撃に合わせて合図として出した方がいいだろう」
最初は一日の内に集められるだけ集めて、それで終わらせようとしていた。
だが、方針を変えた……時間を掛けても、魔具化した分だけでも回収しようと。
すでに実際の時刻は夜明けを過ぎている。
日の出が起きないこの状態は、帝国民たちの知るところ……今はまだ違和感程度だが、時間と共にそれは確信になるはずだ。
──なのでそれを、段階的に解除する。
「ふぅ……すぐにやると不味いからな。ゆっくりと通常の日の出っぽく、太陽が見えるようにしておいた」
「できるの?」
「陽光魔法、太陽の光を操る固有魔法も習得しているからな。できない、とは言わない」
陽光魔法はユウ、そしてフィレルの持つ魔法なので自分の物とは言い切れないけど。
今は“極夜”の影響が強いが、その力を少しずつ高めていけば程よい日の出になる。
重ねて、今は覆うように雲を漂わせているのでそれを原因と勝手に思い込んでくれるかもしれない……こちらは、雷雲生成スキルの応用だな。
「ペフリの血を、ようやく一割集めた。たった一割集めるのに、数十人は襲ったな」
「改めて、真祖の恐ろしさを知った」
「一滴の血で辺境伯級まで吸血鬼化を進行させて、地面に零せば強制的に魔物を地面から生みだす。おまけに血を持った者同士が集まると、相乗効果を生むとか……異常だろ」
「それが真祖……じゃない、あの人の能力」
血を他者に分け与え、己の力を付与できる固有スキル──【儀血団】。
今は絞るだけ絞られ、悪用されているが、分配者が強ければ強いほど効果を発揮する。
「まあ、一時解散だ。明日の夜、再び活動を再開しよう。その間に、このリストから分かることは全部洗い直しておく」
「……大丈夫?」
「俺自体に疲労は無い。偽善をやっている間は、何でもできるからな」
嘘ではない、客観的な事実だ。
正確には縛りで対応できなくなったら、すぐにあらゆる手段を許容する……つまり枷が緩いことを意味するわけだが。
メィは今回、結構頑張っていた。
歌でアンデッド化を鎮静化したり、暴れ狂う奴を安静に寝かせたり……ただの暴力ではできないことを。
その過程で、報酬をだいぶ先払いしていたが、それでもいいのだろう。
前に渡した金もあるし、それ自体を必要としていないのかもしれない。
彼女にとって大切なのは、これを始める前に行った会話のみ。
自分自身に関しては、そこまで執着していない……のかもしれないな。
「あんまり当たっていないと思うけど」
「……何のこと?」
「いいや、何でもないさ。それよりもほら、だんだんとそれっぽい日の出になってきた」
「……少し綺麗」
誤魔化すために、虹とかもいろいろやってみているからな。
分かる人が視れば分かってしまうが、魔力妨害という目的もある。
だが、大半の人々にとってはとても綺麗な光景となっていた。
……それが起きることを、せめて楽しく受け入れてもらえるといいのにな。
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