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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その01

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 特にその日、何か特別なことがあったわけではない……いや、過去において、と付け加えるべきだろうか。

 後世において、その日は特別な日となったからだ。
 貴族が、冒険者が、吸血鬼狩りが……ある犯罪者を相手に力を合わせたのだから。

 文字通り、『一血団結』した貴族のプライドは圧し折り、多くの経験を重ねた冒険者たちの虚を突き、その稼業を生業にしていた吸血鬼狩りたちを無意味なモノとする。


「──そう、すべては星の失われた夜……」

「……何を言っているの?」

「俺は詩人でもあるからな。こういうときにネタを作って、売っておくと儲かるんだ」

「そう。でもあんまり面白くない……かも」


 まあ、才能があるかどうかは別だしな。
 大抵のことは肯定してくれる眷属も、俺の才能が無いことに関しては曖昧な笑みを浮かべているし……そこは折り紙付きだ。

 実際には記憶を読む眷属たちのため、副音声としてモノローグをやっているだけ。
 全然使われていないけど、宣誓・・には意味があるので結局はやるんだよな。


「──メィ、絶対に救うぞ」

「! うん、手伝う」

「じゃあ始めるぞ──『極夜ポーラーナイト』」


 モノローグと違い、現在の帝国の上空には無数の星がいくつも鏤められている。
 だが作戦決行を告げるこの魔法が、偽りを現実へ書き換えていく。

 明けない夜は消え、決して終わることのない夜が訪れる。
 月も見えないその世界で、俺とメィは動き始めた。


「まずはどこに?」

「城は最後にするとして、それ以外の奴らでここの都に居る持ち主から狙うぞ。こっちにも別館がある奴なんて、貴族の中にはごまんと居るだろう」

「了解」


 帝国は広いため、血の持ち主でもここに居ない奴が居るのはとりあえず諦める。
 それはまた後日として、今は少しずつ血を集めていくつもりだ。

 貴族は白栄街の一区画に、自分の屋敷を建てていることが多い。
 何らかの事情でこちらに呼ばれた際、済むための場所としてだ。

 最初から城に行くのはつまらないし、まずはそちらから回収を試みる。
 そちらに誰も居ないと言うなら、改めて城に行けばいいだけさ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 最初に訪れたのは、貴族の中でもあまり爵位的にそれなりである辺境伯だ。
 記憶を洗い直し、該当する人物が実力はあるが疎まれてその地位になったことを確認。

 それからとある方法で血を得ている人物か判定し、黒だったため侵入することに。


「悪い。いっしょに影渡りさせてもらって」

「血ならさっき貰った。キツいけど、なんとかなる」


 半吸血鬼ハーフヴァンパイアであるメィの協力で、人族用の防犯魔道具は全部突破できた。
 今は日の出ない夜、吸血鬼の力がある程度高まっているため、彼女でもそれができる。

 もともとできていたかもしれないが、他者もとなると消耗も著しいはず。
 そこは先ほど飲ませた、俺の血によるブーストが入っていたのかもしれない。


「羅針盤は……こっちだな。メィ、付いてきてくれ」

「防衛は?」

「すぐに蹴りが付く。生かすも殺すも好きにしてくれ」


 俺が手にしているのは、ペフリの魔力波動に反応する小さな羅針盤型の魔道具。
 今もこの屋敷のどこかに居る、辺境伯に向けて針を示している。


「居たぞ! 全員、こっちに──」

「ふぅ……“静寂サイレント”」

「──! ッ……!?」

「“混乱コンフューズ”、“魅惑チャーム”」


 魔法を多用し、状態異常を大量に起こす。
 今回のターゲットたちはともかく、普通の衛兵や騎士程度じゃ防ぐことのできないレベルの威力で放っている。

 声を出せなくなり、思考をグチャグチャにされたうえで優先順位を書き換えた。
 この後彼は、俺たちの代わりにここで暴れ回ることになるだろう。


「せめてもの配慮だ──“幻光ミラージュ”」


 体を光で包み、他者の視覚からは異なる光景が映るようにしておく。
 要は周囲の者たちは、彼が暴れ回っているとは思えなくなるわけだ。

 そもそも俺たちが来なければ、彼が暴れることは無かった……が、それを言ってしまうとペフリから血を抜かなければ、そもそもこれが無かったと、鼬ごっこ論になる。

 不毛な話はこれで切り上げ、俺たちは目的の場所へ向かう。
 夜ではあるが、どうやらまだ寝る準備はしていなかったようで……執務室に居た。


「おじゃましますよーっと」

「な、何者だ!」


 扉を蹴り破り、上がり込んだそこに目的の辺境伯が立っている。
 気配に気づかなかったため、この登場の仕方に驚いて椅子から離れたようだ。


「単刀直入に行こう。『義結団』、この言葉に聞き覚えは?」

「……知らないな。それよりもお前たち、このような蛮行が許されるとでも?」

「知らないな。そもそもだ、許すも許さないも……それを帝国が、世界が知る機会があるとでも?」

「くっ……」


 いかにも悪役っぽい台詞を告げていると、メィの視線がだいぶ冷ややかになっている。
 さっさと本題に移れと……まあ、そう言いたいのだろう。


「貴様が例の証を持っているのは承知の上。故にそれを頂く……抵抗しないのであれば、見逃してやるが?」

「ふざけるな! 貴様は不遜にも、偉大なる皇帝様のお膝元でこのような蛮行を行ったのだ! その罪は万死に値する──この裁きを以って、忠誠を捧げよう!」


 辺境伯が取りだしたのは、赤褐色の刃が薄暗く輝く剣。
 ……反応はアレからか、ならそれを奪えばここでの目的は果たせるな。


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