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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と他世界見学 その15

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 村に辿り着いた俺たちは、さっそく依頼を済ませることに。
 ギルドが無い場所なので、荷物は村長に渡せば受領印を押してくれる。


「そして、チェインクエストもな……なんだか久しぶりに、[クエスト]を見たよ」


 受領印を押した後、ポツリと何かを呟いた村長に驚いてしまった。
 なんせ祈念者用のシステムが作動し、俺に頼み事を抱えていると教えてくれたからな。

 その内容を見て、ドゥルと念話で相談してから村長に話しかけると、その[クエスト]に関する話をポツポツと話しだした。


「ある意味お使いクエストだな。ドゥル、頑張って集めようか」

「仰せのままに、我が王マイロード

「それじゃあ、薬草を採取しに行こうか」


 揚羽の森には多くの魔物が存在するが、その最奥には貴重な薬草が生えているらしい。
 ただいかに村人とはいえ、森を自由に歩くことができる者は居ないそうだ。

 なので白羽の矢が立ったのは、俺とドゥルの実績がある二人組。
 特殊な薬に必要となるらしく、相応の価格で買い取ってもらえるらしい。

 ちなみに基本報酬は、そのアイテムを用いた秘薬だ。
 ついでに生産過程も少々見せてもらえるように交渉したので、そちらも期待できる。


「薬草と蝶の鱗粉で作る秘薬か……どんな物か楽しみだよ。でも、それはまず依頼を完遂してからにしないとな。今回は確実に接敵するらしいから、戦闘行為を許可しよう」

「畏まりました。では、すべて私にお任せください」

「少しだけ遊びたいから、残しておいてくれないか? 俺もいろいろやってみたいし。九割ぐらい狩ってくれていいから」

「……出過ぎた真似をいたしました。仰せのままに、我が王。望むままに、敵を討つことにしましょう」


 ドゥルは胸に手を当て、略式ではあるが忠誠のポーズを取る。
 そして空間を捻じ曲げ、夢現空間に存在する武具庫から剣を引き抜く。

 金と銀に輝く、青色の鎧を纏う彼女に相応しい二振りの剣。
 それらを手にドゥルは、勢いよく魔物たちの下へ向かう。


「俺もやるか──[花日]、[水月]」


 ドゥルのように空間を繋げる必要は無い。
 銘を呼ぶ、それだけで二振りの剣は俺に応じるため次元すら超えて両手に収まる。

 虹色の剣と透明な剣をその手に、ドゥルが意図して残してくれた魔物を屠りに向かう。
 武技やスキルは使わず、ただティル師匠に鍛えられた技術だけで切り裂いていく。

 まあ、理由はもちろん鈍った腕をある程度取り戻すため。
 その気になれば瞬時にできるが、いつも可能なことでもないと考えて控えている。

 ドゥルが双剣で戦っているので、お揃いでと用意した神器だが……やり過ぎたな。
 耐久度が減らないことと何でも斬れてしまう二点だけで、それらは証明可能だ。


「相手は人じゃなく、魔物。しかも動物型の魔物じゃない分、剣は当てづらい。だからこそ、修行の甲斐があるんだけどな」


 この森には多くの蝶型の魔物が生息しているので、それを的確に斬れるようになればいいと思っていた。

 実際、鈍った腕だと核の部分だけを斬るならまだしも、的確に翅に走る線──翅脈の一本だけを斬るなんて芸当はできなかった。

 ちなみにティル師匠の場合、眷属最小であるミントの指定した部分に剣を当てることができる……ミリサイズかつ光速で動ける相手に、よくもまあそんなことができるよな。

 そんな芸当は、いくらティルに習ってもできないことだと最初から割り切っている。
 彼女自身も、それは上級者編と言っていたな……上級者って、何なんだろうか?


「初級編受講者の俺には、分からないことだなっと。まあ、だいぶできるようになった」

「我が王」

「ああ、そろそろいいぞ。悪かったな、待たせてしまって」

「そのようなことは。ですが……すぐに実行いたしましょう──“武具射出ウェポンレディエート”」


 ドゥルの一言で、彼女を中心に至る所から大量の武器が出現する。
 そのすべてが、俺の創り上げた武具──の複製品。

 本物は俺の【傲慢】と【強欲】で使う気が無かったので、その複製品を利用している。
 まあ、成長しないだけで性能自体はそっくりそのままなので、魔物たちに効果覿面だ。

 彼女の魔法である武具魔法は、俺がノリでよく使う剣製魔法同様に、武具を生みだす。
 有り体に言ってしまえば上位互換だが、彼女は創造ではなく召喚を選んでいる。

 指定するのは夢現空間の武具庫、その中でも複製品だけを収めた場所。
 創造でも可能なのだが、コスパ的にも彼女の種族性質的にもこちらの方が良かった。


「使ったら全部一瞬か……本当、俺って必要なかったな。焼けたり焦げたり凍ったり、いろんな死に方をしてるよ」


 俺の創り上げた武具は、どれもこれもが超一流の逸品。
 それらを複製した品もまた、それに準じた名品……その分、性能も高い。

 魔物たちはそんな武器によって、次々と死滅していったのだ。
 放出する際、装備スキルが発動することもあるため、周囲には爆発痕ができていた。


「いえ、我が王の御力によって敵を精確に捕捉する時間を得ることができましたので」

「……まあ、これに関してはあんまり考えないでおこう。それじゃあ、奥地に向かうぞ」

「仰せのままに、我が王」


 いつものフレーズを聞いてから、俺たちは再び揚羽の森を歩いていく。
 すでにドローンが場所を把握しており、迷うことはない。

 ──ここでだいぶ時間を取ったので、残りはさっさと済ませないといけないしな。


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