上 下
1,781 / 2,519
偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と他世界見学 その06

しおりを挟む


 ガーと港町を歩いていく。
 外交が上手くいっているのだろう、見たことも無いような品や見世物を広げて盛り上がる店などをいくつか発見している。


「香辛料か……いやまあ、ユラルの作るヤツがあるから要らないけど」

「普通の祈念者の方からすると、なかなか貴重な品ですね」


 地球でも海洋貿易が成立するまで、香辛料は輸送距離の影響もあって高かった。
 この世界でも、香辛料は確保が難しいため初期の大陸では高値で取引されている。


「そうだな。植物系の迷宮から稀に発見されるらしいが、狙った物を出せるわけじゃないみたいだし。うちでも出してみたけど、そもそもポイント交換で手に入るからな……」

「さすがはメルス様。彼らのことを思いやった素晴らしい配慮かと」

「……そういうものでもないけどな。あくまでも、迷宮のポイント還元が主目的だし」


 初心者応援セットとして、味付け用にいくつか調味料を提供してあるのだ。
 迷宮の宝箱で出す香辛料は、少なくともうちの世界では比較的お安めである。

 なので探索者たちが潜って生まれたポイントで、初心者たちが楽にできるような新設アイテムをいくつか提供しているのだ。


「海産物はもともとあったけど、それも少し増えてるな……遠海まで行くようになって、獲れる量が上がったお陰だな」

「メルス様はこれらを見て、どのようにお考えなのでしょうか?」

「と言ってもな。自分で振った話題ではあるが、料理としてどう扱うかぐらいしか話すことは無いと思うぞ」


 一部、深海魚が混ざったレパートリー。
 少々お高めな魚や魔物として格が高いモノだったり、調理すれば美味しくなる魚をいくつか見つけられた。

 眷属たちの食欲を満たす、料理係を担う者として魚を吟味してみる。
 煮付けに刺身にアクアパッツァ……他にもいろいろとあるな。


「で、こっちは例の大陸から外交で得たアイテムか。珍しいアイテム、視たことのないアイテムだったり……いろいろあるな」

「たしかに、そのようですね。ただ、少しばかり品質が欠けておりますね」

「一通り購入して、複製するか。眷属に増やしてもらえば、より品質の良い物で試すことができそうだし」


 優れた品は自国で使い、残り物をこうした形で外部に放出するつもりなのだろう。
 特殊な手段でしか増やすことができない、そんな品なら別大陸で増殖させられないか。

 自分で決めた通り、町にある外来のアイテムを至る所で買い集める。
 必要経費ということで、金はある場所からとことん引っ張り出して購入していく。


「あとは[アイテムボックス]に入れておけばっと……。よし、次に行こうか」

「畏まりました。では、どちらに参りましょうか?」

「なんか、ゲームの選択肢みたいだな……」


 ただ違うのは、おそらくどこを選んだとしてもガーの好感度が上がることか。
 なのでそこまで悩む必要はないが……たまには、頭をフル回転させるとしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 サルワス 近海


 船に乗り、港の外へ出た。
 すでに祈念者も製造に成功している、いわゆるクルーザーのような船だ。

 ロマンティックな状況をイメージして、定番の夕日が沈む時間帯である。
 船の方は自動で航行しておいて、俺とガーは二人で夕日を眺めていた。


「綺麗ですね……」

「うーん…………」

「どう、されたのですか?」

「いやなに。こういうとき、普通に夕日が綺麗だというのと、君の方が綺麗だというのはどちらが正解なのかなって」


 視界いっぱいに広がる夕焼けは、海をも照らして橙色に染め上げている。
 たしかにそれはそれとして綺麗だが……これもまた、事実だし。


「ガーの眼は太陽を模している。だからわざわざ夕日を観ずとも、お前の眼を見るだけで文字通り陽の目を見ることができる」

「まぁ……!」

「なあ、ガーはどっちだと思う?」

「……その、あの……」


 なかなかない、ガーの照れ顔。
 彼女の【慈愛】っぷりは普段、俺をそうさせるだが……たまには、やり返すことができたのかもしれない。

 先ほども言ったがこれはすべて事実。
 ガーの受肉体である熾天使にはそういう逸話があったからか、眼はそういう神眼のような状態になっていた。

 そのせいか、彼女の眼を見た者の大半は安定を覚える。
 人は日差しを浴びて、温かくなる……肉体的にも、精神的にもな。


「ガーは俺と眷属たちを、いつも褒めてくれるよな。そりゃあ、多少恥ずかしくはあるんだが……それでも、自分をしっかりと見てくれるのは嬉しい」

「メルス様……!」

「それに、国民たちも。前に言われたんだよな、お前に話を聞いてもらって心が温かくなれたって。ガーは誰にでも優しいさ、少なくとも俺や国民はそう思っている」


 彼女自身は自分のことを、一部の者にしか優しくないと語る。
 だがその一部という範囲に、全国民が含まれている時点で【慈愛】の持ち主だろう。


「まあ、最近のガーはちょっとだけクラーレに『いぢわる』だから、それはそれで変わった一面を見られて嬉しいぞ」

「もう、そのように言われましても……」

「はははっ、ともかくだ。改めて聞く、俺が綺麗だと思っているのはどっちだと思う? 綺麗な夕焼けか、それとも綺麗な上に心優しいガーか」

「ッ~~!」


 先ほど以上に、そして夕焼け以上に真っ赤に染まった彼女の相貌。
 その後はもちろん……朗らかな笑みを浮かべる彼女は、やはり夕焼けより綺麗だった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー
ファンタジー
俺はテレパシーの専門家、通信魔術師。王宮で地味な裏方として冷遇されてきた俺は、ある日突然クビになった。俺にできるのは通信魔術だけ。攻撃魔術も格闘も何もできない。途方に暮れていた俺が出会ったのは、頭のネジがぶっ飛んだ魔導具職人の女。その時は知らなかったんだ。まさか俺の通信魔術が世界を変えるレベルのチート能力だったなんて。でも俺は超絶ブラックな労働環境ですっかり運動不足だし、生来の出不精かつ臆病者なので、冒険とか戦闘とか戦争とか、絶対に嫌なんだ。俺は何度もそう言ってるのに、新しく集まった仲間たちはいつも俺を危険なほうへ危険なほうへと連れて行こうとする。頼む。誰か助けてくれ。帰って酒飲んでのんびり寝たいんだ俺は。嫌だ嫌だって言ってんのに仲間たちにズルズル引っ張り回されて世界を変えていくこの俺の腰の引けた勇姿、とくとご覧あれ!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~

平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、王太子は彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。 途方に暮れるリクを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。 ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。 そんな中、弱体化した王太子がついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フレアと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

処理中です...