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偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と他世界見学 その06
しおりを挟むガーと港町を歩いていく。
外交が上手くいっているのだろう、見たことも無いような品や見世物を広げて盛り上がる店などをいくつか発見している。
「香辛料か……いやまあ、ユラルの作るヤツがあるから要らないけど」
「普通の祈念者の方からすると、なかなか貴重な品ですね」
地球でも海洋貿易が成立するまで、香辛料は輸送距離の影響もあって高かった。
この世界でも、香辛料は確保が難しいため初期の大陸では高値で取引されている。
「そうだな。植物系の迷宮から稀に発見されるらしいが、狙った物を出せるわけじゃないみたいだし。うちでも出してみたけど、そもそもポイント交換で手に入るからな……」
「さすがはメルス様。彼らのことを思いやった素晴らしい配慮かと」
「……そういうものでもないけどな。あくまでも、迷宮のポイント還元が主目的だし」
初心者応援セットとして、味付け用にいくつか調味料を提供してあるのだ。
迷宮の宝箱で出す香辛料は、少なくともうちの世界では比較的お安めである。
なので探索者たちが潜って生まれたポイントで、初心者たちが楽にできるような新設アイテムをいくつか提供しているのだ。
「海産物はもともとあったけど、それも少し増えてるな……遠海まで行くようになって、獲れる量が上がったお陰だな」
「メルス様はこれらを見て、どのようにお考えなのでしょうか?」
「と言ってもな。自分で振った話題ではあるが、料理としてどう扱うかぐらいしか話すことは無いと思うぞ」
一部、深海魚が混ざったレパートリー。
少々お高めな魚や魔物として格が高いモノだったり、調理すれば美味しくなる魚をいくつか見つけられた。
眷属たちの食欲を満たす、料理係を担う者として魚を吟味してみる。
煮付けに刺身にアクアパッツァ……他にもいろいろとあるな。
「で、こっちは例の大陸から外交で得たアイテムか。珍しいアイテム、視たことのないアイテムだったり……いろいろあるな」
「たしかに、そのようですね。ただ、少しばかり品質が欠けておりますね」
「一通り購入して、複製するか。眷属に増やしてもらえば、より品質の良い物で試すことができそうだし」
優れた品は自国で使い、残り物をこうした形で外部に放出するつもりなのだろう。
特殊な手段でしか増やすことができない、そんな品なら別大陸で増殖させられないか。
自分で決めた通り、町にある外来のアイテムを至る所で買い集める。
必要経費ということで、金はある場所からとことん引っ張り出して購入していく。
「あとは[アイテムボックス]に入れておけばっと……。よし、次に行こうか」
「畏まりました。では、どちらに参りましょうか?」
「なんか、ゲームの選択肢みたいだな……」
ただ違うのは、おそらくどこを選んだとしてもガーの好感度が上がることか。
なのでそこまで悩む必要はないが……たまには、頭をフル回転させるとしよう。
◆ □ ◆ □ ◆
サルワス 近海
船に乗り、港の外へ出た。
すでに祈念者も製造に成功している、いわゆるクルーザーのような船だ。
ロマンティックな状況をイメージして、定番の夕日が沈む時間帯である。
船の方は自動で航行しておいて、俺とガーは二人で夕日を眺めていた。
「綺麗ですね……」
「うーん…………」
「どう、されたのですか?」
「いやなに。こういうとき、普通に夕日が綺麗だというのと、君の方が綺麗だというのはどちらが正解なのかなって」
視界いっぱいに広がる夕焼けは、海をも照らして橙色に染め上げている。
たしかにそれはそれとして綺麗だが……これもまた、事実だし。
「ガーの眼は太陽を模している。だからわざわざ夕日を観ずとも、お前の眼を見るだけで文字通り陽の目を見ることができる」
「まぁ……!」
「なあ、ガーはどっちだと思う?」
「……その、あの……」
なかなかない、ガーの照れ顔。
彼女の【慈愛】っぷりは普段、俺をそうさせるだが……たまには、やり返すことができたのかもしれない。
先ほども言ったがこれはすべて事実。
ガーの受肉体である熾天使にはそういう逸話があったからか、眼はそういう神眼のような状態になっていた。
そのせいか、彼女の眼を見た者の大半は安定を覚える。
人は日差しを浴びて、温かくなる……肉体的にも、精神的にもな。
「ガーは俺と眷属たちを、いつも褒めてくれるよな。そりゃあ、多少恥ずかしくはあるんだが……それでも、自分をしっかりと見てくれるのは嬉しい」
「メルス様……!」
「それに、国民たちも。前に言われたんだよな、お前に話を聞いてもらって心が温かくなれたって。ガーは誰にでも優しいさ、少なくとも俺や国民はそう思っている」
彼女自身は自分のことを、一部の者にしか優しくないと語る。
だがその一部という範囲に、全国民が含まれている時点で【慈愛】の持ち主だろう。
「まあ、最近のガーはちょっとだけクラーレに『いぢわる』だから、それはそれで変わった一面を見られて嬉しいぞ」
「もう、そのように言われましても……」
「はははっ、ともかくだ。改めて聞く、俺が綺麗だと思っているのはどっちだと思う? 綺麗な夕焼けか、それとも綺麗な上に心優しいガーか」
「ッ~~!」
先ほど以上に、そして夕焼け以上に真っ赤に染まった彼女の相貌。
その後はもちろん……朗らかな笑みを浮かべる彼女は、やはり夕焼けより綺麗だった。
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