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偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と他世界見学 その05
しおりを挟むサルワス
割と長く居た、初期地点のある大陸から外へ向かうための港エリア。
今では祈念者を載せて向かう定期便が誕生したここを、散策してみることにした。
今回共に活動してくれる武具っ娘に、俺は過去の思い出話をしている。
少し曖昧な部分は、[世界書館]から当時の記憶を再ダウンロードしながら。
「昔は載せてもらえないからって、荷物に扮して紛れようとかそういう奴も居たのにな」
「そう、なのですか?」
「誰よりも早く新しい場所へ、その欲望に負けたのかもしれないな。まあ、もともと逃亡者とかが隠れていないように、徹底的に探す領だったからすぐに見つかったけど」
脱入国者が現れないよう、行った先でも向かう前でも念入りに調べている。
祈念者たちがどれだけ優秀なスキルを所持していても、必ず捕まっていたっけ?
前にここの領主に聞いたのだが、たしか正式な方法で船に乗っていないと、強制的に追い出せるとかなんとか……自由民でも、追い出せるようにしておいたんだとか。
「なあ、ガー。俺の世界にも海と船って、両方をセットで用意した方がいいのかな?」
「船、でしょうか?」
「迷宮の中で安全に魚を確保できている現状だが、漁師職の中には物足りないっていう意見も出ている。職業能力を十全に扱える、漁業がやりたいってな」
「なるほど……」
今回の武具っ娘ガーは、眷属の中でも特に【慈愛】に満ちた眷属だ。
彼女曰くそれは俺の周囲に限定しているようだが、そうじゃない者にもかなり優しい。
そんな彼女に問うのは、自分の世界における船の必要性についてだ。
無くてもいい、だが欲している者もいるという話なのだが……。
「メルス様にとって、それを行うのは苦になるのでしょうか?」
「いや。設計図は用意してあるし、試作品も何隻か用意してある。初期はそれを使って様子を窺って、人気次第じゃそれを増やしてみればいいだろう」
「メルス様にとって、それが日常生活に支障が無いのであれば……ぜひとも、やってみると良いのではないかと。求める民も、きっとメルス様に感謝されますよ」
「まあ、そうかもな……海自体は結構広めに展開していたし。レジャー目的でも、楽しめるようにしたいな。そこは海の魔物たちと、要相談と言ったところか」
俺の有する世界の内、海と言える大規模な水源が存在するのは二ヶ所。
片方は第一世界の海洋フィールドで、もう片方は第四世界の迷宮内部。
どちらにも魔物が生息しているため、言い含めておく必要がある。
……特に前者は、しっかりと交渉をしておかないといけない場所があるんだよな。
「それじゃあ、とりあえずこの話は終わりにしようか。今は二人で、この港の散策をやってみるとしますか」
「はい、とても楽しみです」
クラン『ユニーク』の祈念者たちにより、無数の大陸との外交が成立している。
彼らによると、特定のクエストをクリアすることで開国されるらしい。
まだ開通したのは一大陸だけだが、それでも祈念者からすれば未知で溢れた宝の山。
こちらの大陸で行えることをだいたい済ましたら、新大陸へ向かう者も少なくない。
「ちなみに井島に関しては、まだまだ開国できていない。東都の問題をどうにかしない限り、永遠にだろうな」
「メルス様にならば、きっとできますよ」
「できると思うぞ。一つの場所で、働きかけ続ければ。だが、偽善者としていろんな場所で働いていたいからな。そういうことは、他の誰かに任せることにしよう」
「……あの娘たちに、でしょうか?」
少々目を細めたガーが言うのは、【慈愛】の祈念者眷属であるクラーレと、そのクランである『月の乙女』のメンバーたちだ。
すでにレベルは200を超えているし、とりあえず充分な力を身に着けている。
クラーレはまだ固有スキルを使いこなせていないが……まあ、それは追々。
彼女たちは俺を除けば、唯一井島に行ったことのある祈念者たちだ。
なので、そちらへ向かうこともできるし、最近決まった目的が無いと愚痴っていた。
ならば、それを頼んでみるのも案外悪くないアイデアかもしれない。
緊急時には俺もメルとして参加するし、彼女たちも冒険を経験できるわけだしな。
「絶対じゃないけどな。彼女たち自身が、特別な経験をしたいって言うなら勧めてみようと思う。あそこならいい経験も積めるし、もしかしたらクラーレもある程度制御できるようになるかもな」
「それはそう、ですが……」
「別に、ガーにどうこうしてほしいってお願いしているわけじゃないんだ。ガーはガーの望むままに、好きなことをしてほしい。ただその選択肢の中に、ほんの少しでいいからあの娘のことを入れてほしいけどな」
「……分かりました」
渋々といった感じではあるが、了承は得られたようだ。
いずれ、クラーレが彼女からナニカを授かる時もそう遠くは無いかもしれないな。
「悪い悪い。だいぶ話が反れちゃったみたいだ。ガーはどこに行ってみたい?」
「メルス様が案内してくださる場所であればどこへでも。私はメルス様の供をできるだけで、満ち足りておりますので」
「そういうものか? なら、退屈させないように精いっぱいエスコートしないとな」
彼女の手を握り、港を歩く。
そうして二人で、喧騒の中に紛れていくのだった。
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