上 下
1,778 / 2,518
偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と他世界見学 その03

しおりを挟む


 街には表向き、四つのギルドが存在する。
 北には冒険ギルド、東には生産ギルド、南には商人ギルド、西には傭兵ギルド。

 祈念者たちは自分に相応しいギルドを選んで、そこに所属している。
 まあ、別に重複してはいけないという決まりはないので、一部の者はそうしているが。


「ギルドごと、定期的に何かしらの依頼をやらないとランクを下げられたり除籍されるんだけどな。そういうのが面倒ならそもそも所属しなければいいだけだし」

「けど、結構所属しているんだよね?」

「それが祈念者って言う人種だよ。ギルドという単語を耳にすると、自分に有益かどうか判断した時点で所属する。もちろん、不利益に関しては目を逸らして」

「そんな風に理解してたんだ」


 まあ、俺は冒険ギルドで上から二番目までランクを上げているので、その権限を振りかざせば他のギルドでも多少は強気で出れる。

 わざわざ他のギルドに所属せずとも、自分がその分野に干渉できると証明すればいい。
 ……まあその分、冒険ギルドのカードは三枚所持しているけどな。


「他にもあるにはあるんだぞ? 影から世界に害を及ぼす候補者を殺す暗殺ギルド、カジノや娼館の元締めである歓楽ギルド、非合法なことをなんでもやる闇クラン……最後のはクランだが、どのギルドにも非所属だしな」

「公式じゃないんだよね? じゃあ、ギルドカードとかは無いの?」

「公式だぞ。現実の電子カードと同じで、最初に手に入れた場所が違っても、同期させたり更新していると、いつの間にやら別の場所でも使えるようになっているものだ。要するに、だいたいどこでも使える」


 ギルドカード自体は、神代の産物なのですべてを弄るのは難しい。
 だが時代を経て研究が繰り返され、同期といったシステムが使えるようになっていた。

 たとえば歓楽ギルドは、あくまで商人ギルドのカードを基盤として作成される。
 そこに追加でアレやコレを足した結果、完成するのが歓楽ギルドのカードだ。


「シーもどこかに所属してみるか? 実験は成功しているから、別に俺たちの正体がバレるわけじゃない。入ってみたい場所があるなら、行ってみてもいいぞ」

「うーん……私はいいかな? 何かやりたいわけじゃないし、ノルマがあるんだよね? それを満たすのも面倒だし」

「まあ、シーがそう言うならいいけど。冒険ギルドでランクが高いと、多少レアなアイテムや情報を集められるだけだし。他も似たようなものだろう」

「あー、うん。それはそうかもね」


 ちなみにだが、俺と祈念者眷属たちで作ったクランは非合法の闇クランだ。
 公表できないことも多いし、眷属に隠しているメンバーには暗殺者も居るからな。

 理由は単純、ギルドに所属すればそちらもクランとしてのノルマが要求されるから。
 特に『ユニーク』所属である眷属たちに、面倒を掛けないという配慮もある。

 ……もちろん、行動自体は眷属たちの自由で好きな通りにしてもらっている。
 偽善っていうのは、他者に任せるのではなく基本的には自分でやることだからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの草原


 ギルドには寄らず、俺たちは東へ。
 祈念者たちが初めて、魔物との戦闘を経験するフィールドだ。


「ここには基本、動物型ばっかりなんだよ。それで戦闘に慣れてから、奥で人型の魔小鬼デミゴブリンと戦わせようって考えだと思う」

「メルス君はいきなり亜竜だったけどね」

「そうなんだよな。だから感覚が狂った、レベルも上がりまくったしな……精神状態を随時平常にしてもらえなかったら、たぶん俺は耐えられなかっただろうな」


 そりゃあ時間さえ掛ければ、いずれは目の前で殺戮の限りを尽くす祈念者たちのように魔物を討伐することもできただろう。

 だが根は小市民。
 精神だけは殺人鬼ということもないので、血を見ただけで嘔吐感に襲われるだろうし、殺したときの感覚で気持ち悪くなったはず。


「ちょっと、やってみるか。いやまあ、シーに恥ずかしい所は見せたくないから、普通にこの状態だけど」

「私は別に構わないけど……」

「俺がそうはいかないんだよ。男心、女心みたいにあるんじゃないか?」


 そう言って、無詠唱でスキルを発動する。
 縛り中に得た扇誘体質スキルは、魔物を周りから引き寄せることができる……そこに邪縛を加えると、そのヘイト値は固定だ。

 居るのはまだフィールドの入り口辺りなので、動物型の魔物しか出てこない。
 やって来るウサギや犬たちを相手に、俺は手をかざす。


「──“光槍ライトランス”」


 初期の種族は天使だった俺なので、使うのは光魔法。
 他の属性より操作性が悪く、消費魔力量が多いのが難点だが……魔力は充分ある。

 属性の中でも、一、二を争う威力を叩き出せる光魔法が、無詠唱で発動して瞬時に魔物たちに向けて飛んでいく。

 初心者用のフィールドなので、それを防いだり躱せたりする魔物はいない。
 構築していた槍すべてが、魔物へ命中してその命を奪っていった。


「どう、変化はあった?」

「……本当に今さらだけど、もう慣れたな。そりゃそうか、何年ここに居るんだか。もしかして、最初から分かっていたのか?」

「うん、もちろん。メルス君は、みんなのためにいろんなことをしてきたからね」

「……いやまあ、それと倫理観を変えることとは別と思うけどな」


 これに関しては、だいぶ昔に解決したことなんだよな。
 眷属のためならば、そう覚悟して命を奪うことにした……多くの意味を含めて。

 ──俺は眷属に、依存してばっかりなんだよな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

女神様にスキルを貰って自由に生きていいよと異世界転生させてもらった……けれども、まわりが放っておいてくれません

剣伎 竜星
ファンタジー
不幸が重なって失職した契約社員だった俺はトラックに轢き殺されそうになった子供の身代わりとなって死んでしまった……らしい。助けた子供が実は世界管理のための視察に来ていた異世界の女神様。俺の死は神様にとって予定外の死亡であったため、俺は地球世界の輪廻から外れてしまい、地球世界に転生できなくなってしまったとか。しかし、女神様の暗殺を防いだ俺はファンタジーRPGじみた剣と魔法とスキルのある彼女が管理している異世界に転生することになった。女神様から8つのスキルを貰って、俺は転生した。それから、17年。いろいろあったけれども俺は王立学園を卒業して、王立魔術大学に進学。卒業資格を得てから、腐れ縁に引きずられる形で王宮魔術師の試験を受けたのだが……。 現在、ストック切れるまで毎日12時更新予定です。

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな

こうやさい
ファンタジー
 わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。  これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。  義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。  とりあえずお兄さま頑張れ。  PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。  やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

処理中です...