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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と他世界見学 その02

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 噴水で起きる定番イベントの数々を、俺とシーは眺めることにした。
 人の数だけ物語ドラマがある……要するに、退屈はしないのだ。


「知人との初遭遇、想定外のアバター、さっきみたいな運命の出会い……いろんな形で物語は始まるんだな」

「メルス君はどんな感じだったんだっけ?」

「……スタート地点じゃ何も無かったな。誰も彼もがチュートリアルをさっさと済ませ、一番乗りを目指していたからな」

「そういえばそんな感じだったかな? メルス君は、別の場所に行ってたけど」


 今では東にしか出ることができなくなっており、初回戦闘の経験値ボーナスでカンストというやり方はできなくなっている。

 別にそれぐらいいいと思うんだがな……差別を生まないようにするためだろうか?
 自分がそれをやった張本人なので、そこら辺は肯定派です。


「珍しい[ログイン]には、座標バグってのがあってな。初期位置がおかしかった結果、チート級の力を得るんだよ」

「メルス君と少し似ているね」

「……まあ、たしかに。唯一違うのは、俺が意図してその死地に足を踏み入れ、経験値をがっぽり手に入れた辺りだが」

「あー、うん。そもそもそこが違うと、根本から変わってきちゃうね」


 意図せぬ偶然と意図した必然。
 そこには絶対的な差があるからな。
 だが当時の俺は、まさかその行動でここまで今後が変わるとは思ってもいないだろう。


「そのお陰でみんなに会えたから、何も後悔はしていないけどな。たぶん、他の選択をしていたら絶対にこの出会いは無かった……ある意味、これこそが奇跡なんだろう」

「……恥ずかしくないの?」

「いや、物凄く恥ずかしいな。でも、変わらない事実だ。運命なんてものがあるなら、まさにそれだろう」


 武具っ娘たちと出会うためには、大前提としてそれぞれの罪と徳へ繋がるスキルを習得していなければならない。

 だが、ただの凡人がそこに至るために足りないモノが多く……。
 当時の周囲と同じことをしているだけだったら、間違いなく得られなかっただろう。

 故に彼女たちが、俺と共に居るこの世界は本来無かったかもしれないもの。
 そう考えると、彼女たちのことをより深く感じてしまうのだよ。


「そっかぁ……メルス君は、私たちと出会えてよかっ──」

「良かった、最高だ」

「食い気味だね」

「大切なことだしな。お前らのいない生活を俺は考えられない……考えることはできるけど、少なくとも今のような充実したものじゃないんだろうな」


 彼女たちは、俺の理想を体現した存在だ。
 一人ひとりが異なる形で、存在するだけで俺を支えてくれている……だからこそ、誰一人として欠けてはならないと思っているさ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 冒険ギルド


 テンプレ関係で訪れたのは、祈念者たちが「いかにも」を求めてやってくる場所。
 ほぼ無限に増える祈念者という需要側に応える、供給側の支部である。


「……えっと、メルス君が何を言っているのかよく分からないんだけど」

「テンプレ屋ってのがあってな、今じゃ悪役も商売なんだよ。たとえばほら、あそこに居る肩に棘付きのパットが付いているヤツ……あんなの普通に居るわけないだろ?」

「たしかに、なんていうか物凄い分かりやすい悪役冒険者って感じだよね」

「で、有望そうな新人を見つけたら、当たり構わず絡む。相手からイイ反応が出たら、観衆からチップが入る」


 仕事というより、通行人を巻き込んだ芸と言った方が正しいのだろうか。
 祈念者からするとちゃんとした商売で、今も需要を成しているお仕事である。


「巻き込まれた祈念者はテンプレを満喫できるし、周りも期待の新人がどれぐらいの戦闘能力を有しているか把握できる。おまけに自分も参加すれば、その祈念者と接点を持てるときた……意外と意味があるだろう?」

「……あれ、本当だ。いろいろと考えられているんだね」

「そうでもないんだけどな。要するに、楽しいからやっているだけだし。自分がやりたいからやっている、むしろ新人を揶揄からかうためにやっていますって奴もいるからな」

「うわー、最悪の考えだね」


 巻き込まれた側からすれば、いい迷惑かもしれない。
 それでも祈念者の大半は、それが当たり前と認識しているので需要は消えないのだ。


「あっ、メルス君……」

「始まったな。彼らもプロだからな、内容は短くはっきりと。頭の悪そうな言葉を選んで使い、挑発を仕掛ける。ただし、ギルドに怒られないギリギリを狙ってな。まあ、ギルド側も多少は配慮しているだろうけど」

「どうして? やっぱりそういう人って、罰則とかが入るんじゃ……」

「祈念者同士だからな。どうせ死なないし、これまでの経験からもう慣れている。あと、挑発している側がちゃんとギルドに貢献しているから大目に見ているって感じだな」


 悪役も自分が迷惑なことをやっているという自覚はあるので、ギルドに貢献している。
 新人たちがすぐに自分を抜ける階級、要は低めにしたまま依頼を受けているのだ。

 ギルド側からすれば、すぐに強くなる祈念者は低い階級の依頼を受け続けてくれない。
 なので彼らのような存在が、必然的に必要となるのだ。


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