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偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と自世界見学 その13
しおりを挟む童話世界 セントラルターミナル
自分の世界ではない、が部分的に自分の世界でもある番外みたいな世界。
それらを繫ぐ中央結節点、俺はそこを訪れていた。
童話世界は必要最低限な干渉しかしておらず、主に手を加えたのは他世界との橋渡しとして用意したここだけだ。
だからこそ、自分の世界かどうか正直微妙なところなわけで……決して、忘れていたわけではないのである。
「世界間の接続にも問題なし。異常が出てきたって報告も無いから、順調にやってきているな……あっちは全然変化ないけど」
動力室であるこの施設の最深部には、魔本がいくつか設置されている。
中には、とある事情で使用不可な擬似魔本もあるのだが。変化は見受けられなかった。
「しかしまあ、あんまり使われてないからここは平和だな。それぞれ自分の世界に愛着があるからこそ、わざわざ出る必要も無いってことなのか? 商人たちが出るには出るが、基本的に世界一つで満足しているわけだな」
各童話世界は、それぞれ主人公であった者たちの行動範囲しか再現されていない。
お陰で『かぐや姫』の帝など、帰るべき場所が無くて大変だった思い出がある。
そういった部分のみは拡張し、皆で力を合わせて生産をしたわけだが。
前にも話し合ったが、それ以外はできるだけ何もしないで迷宮を配置する予定だ。
だからこそ、他の世界へ向かわねばならない理由というものが存在しないのだろう。
大人たちが外国の存在は知っていても、向かったことが無いのと同じようにな。
「海外旅行か……俺は経験したことが無いからよく分からないけど、普通の人からすれば行った方がいいのか悪いのか。行かせるならそれはそれで、キャンペーンでもやって人々の流れを作らないといけないのか」
なんてことを考えるが、結局アイデアに関してはサッパリである。
金には困っていないので、旅行の支援ぐらいならしてもいいんだけどな。
「機械ばっかりのリアの童話、緑豊かな自然溢れるシャルの童話、実は温泉が湧いたリラの童話、そして……ジャパニーズなカグヤの童話と結構あるんだよな。PVとか作れば、案外来てもらえそうだ」
一番最初の世界はともかく、結構思い返せば宣伝に使えそうな場所も多い。
童話の世界なので、それこそファンタジーな場所が一つぐらいはあるのだろう。
「……って、なんでこういう話をすることになったんだっけ? ああ、そうか全然人が通らないでいる現状か」
考えるのはもういいや。
各童話世界と交渉を進め、世界外からの観光客を受け入れるために何かをやってもらうだけでも効果的なはずだ。
「何かこう……盛り上がるためにできることはないんだろうか? いや、ここ自体が」
日本チックを追求し、ファンタジー成分を配合したレンガで築かれた場所。
迷宮のように自動修復するので、崩れる心配などは無い。
「うーん、いったいどうすれば…………。無理だな眷属に任せよっと」
俺がどれだけ頭を捻っても、結局何も出てこないのは当然のことだ。
代わりに眷属任せにして、実行だけを丹とすれば確実に成果が出る。
こういうやり方でも、なんだかんだ上手くいっているからな。
◆ □ ◆ □ ◆
夢現空間 修練場
自分の世界と言えば、やはりここだ。
もう本当にやることが無くなったので、最後の最後に来ることにした。
「ここって何でもあるよな」
「──メルス様がそれを望まれたのです。眷属たちに不自由を感じさせず、好きなことができる環境を」
「アンか……そりゃあな。言い方を変えればこの世界は、幽閉しているのと同じだ。そう思われないようにするなら、可能な限り何かしてあげたいって思うモノだろう」
部屋は神の祝福や所有するスキルで増えているが、自分でも創りだせている。
修練場もその一つ、かつて第二世界だった場所がそのまま移動していた。
「この世界の見学は行われないのですか?」
「スキルの詳細に載っているしな。それに、全部巡ろうとしたらどれくらい掛かる?」
「一国の視察を行うよりは、お時間が掛かるでしょう。メルス様の徹底ぶりによって、さまざまな場所が創られましたので」
「……今さらながら、結構作ったもんな。映写室とか、必要だったかな?」
眷属がすべての部屋を使っているわけではない……むしろ、どこに何があるのか知られていない部分もある。
転移陣で指定した場所に行けるので、把握していなくとも移動は簡単なんだよな。
いちおう廊下に地図などは貼ってあるが、それが自動更新型じゃなかったら詰んでた。
「ちなみにどこが人気なんだ?」
「修練場と食堂、そして浴室ですね。普段使いしないものであれば、図書室や礼拝堂などがよく利用されております」
「釣堀とか牧場、植物園なんかはなかなか使われないわけだ。特定の眷属が使っていることはあっても、全員で行ったりするようなことは無いからな。今度、暇なヤツだけでも集めて巡ってみようか」
ネタっぽい部屋も在るが、基本的には実用的な場所ばかり。
それが眷属たちの過ごす空間、夢現空間のありようなのだ。
「メルス様、次は何を? やはり、彼女に伝えた通りに?」
「……もう少し後だな。せっかくこういう時間を用意したんだ、今度は少し別の場所にも足を向けてみよう」
自分の世界を巡り終わったんだ。
じゃあ今度は、別の場所に行ってみよう。
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