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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と自世界見学 その11

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 第四世界 迷宮学校


「これはメルス様、ようこそおいでくださいました」

「元気そうだな、サージュ。学生たちも元気にやっているか?」

「はい。メルス様、それに眷属の皆さま方のご助力もあって、彼らは立派に学を修めております」

「立派にねぇ……たぶん、俺なんかよりも優秀なんだろうな。スキルが有ろうと無かろうと、頑張る意思は基本的に報われる。勉強に関しては、特に。同率一位なら、究極的に言えば誰でもなれるからな」


 世界を巡る順番に関しては、もう気にしないで好き勝手にする。
 なので再び無数の迷宮が存在する世界を訪れて、目的を果たす。

 今回やって来たのは、各世界の子供たちを集めて開いている大規模な学校。
 幼、小、中、高、そして大学まで現在では開かれているマンモス級の学校である。


「……まあ、お前の立場でそれを否定するのは無理か。それはいいとして、さっそく本題に移ろう」

「はい、お聞きしましょう」

「眷属が……というより、年少組が聞いてきたらしいが、人数が多くなってきていろいろと大変らしいな」

「そう……ですね。私個人に関しては、迷宮からの恩恵もございますので平気ですが、やはり人族の方々は苦労しているようです」


 彼女はこの学校の理事長であり、迷宮のフロアマスターを兼任している。
 それ以外の人員に関しては、各世界から教えるのが上手い者たちを雇っていた。

 しかし奴隷だったり赤色の世界だったり。
 いろんな場所から子供たちを連れてきて、彼らに知識を与えている……その方が、彼らのためにも俺のためにもなるからな。

 だが、人員不足が問題になってきた。
 いやまあ、教えることに関しては問題ないけどな……一度に教えられる人数とか、そういう観点から限界に達したわけだ。


「オンライン授業……ああ、魔道具を介して授業をやるって方法はどうだ?」

「すでに一部の授業で試していますが、やはり実技が問題ですね。メルス様の世界とは異なり、実際に魔力や武器を使って試す必要がありますので」

「うーん……そういう問題があったか。アイリスのアレも使えるには使えるけど、根本的な解決にはならないか。一機作るのにも時間が掛かるし、それを使うことに慣れ過ぎても問題になるだろうから」


 アレ、とはオークションで最後に出品した仮想世界へダイブするアイテムだ。
 それを使えば誰もが、こことは違う世界で自由を謳歌することができる。

 ……祈念者からすれば、ゲームの中でゲームをやるような者だ。
 しかしこの世界の者にとっては、AFOを始める前の彼らと同じ感想だろう。

 そして、より高位の存在も同様の感想を抱くのだろうか……創作物でもよくある、人への干渉はそういうものかもしれないな。


 閑話休題テンプレてんせい


 仮想世界ではレベルも上げられるので、決して使えないわけではない。
 だが学生全員分を用意するのは困難だし、いくつかの問題を生んでしまう。

 それだけ便利な仮想世界だからこそ、自分の居るべき世界よりもそちらへ没頭してしまう……祈念者にもありがちな問題だ。

 さすがに俺の提供した物で、そういったことになってしまうのは嫌だからな。
 何か別のアイデアを、考えなければならないだろう。


「人員を増やせば、それは解決するよな? だが、それだけでも難しいと」

「場所に関しては、メルス様が許可を出してくださればすぐにでも。必要な教室を創造して、生徒たちが使えるようにしましょう。しかし、それでは今後増えるであろう生徒たちに対応することができません」

「今後も増える、か。確信しているんだな」

「これから生まれる子供もいるのですから、当然ではありませんか」


 あっ、そっちの方か。
 これまでも、そしてこれからも奴隷やらを連れていくことを言っているのかと。


「とりあえず考えてみたが、レベルを上げればいいんじゃないか? 強くなれば体も丈夫になるし、酷使すればそういう耐性スキルも身につくと思うぞ」

「さ、さすがにそれは……」

「いやまあ、俺もどうかとは思うけどな。今の人員のまま、なんとかするにはこれが一番な気がするんだよな」


 この世界なら、そんなごり押しみたいな方法でも通用する。
 実際、精神的な疲労はともかく、肉体は連日働いても平気な感じになるからな。


「魔道具でそれを補強することもできるし、可能と言えば可能なんだよな。まあ、これは最終手段にしよう。普通に外部から雇うっていうのはできないか?」

「すでにそれを行ったうえで、現状に行きついておりますので……」

「皆まで言うな。応急で補うだけなら、俺と眷属が協力すればいいんだがな。ふむ……となると、やっぱりアレか」


 元からやっていたが、全然やっていなかった方法だ。
 もともとは教職が無くならないよう、抑えていたが……余っているならいいだろう。


「魔物を追加で教員にするか。防衛にも使えるし、サージュが統率すればいい。懸念していた魔物への忌避感はとっくに無いし、今は猫の手も借りたい状態だからな。事前了承を得たうえで、非常勤扱いにすればいいさ」

「すぐに教員として、使えますか?」

「安心しろ。眷属に頼んで、必要な情報を纏めてもらおう。教える物に関してはそれで補うとして、それ以外を人族の教員にだな。ああ、最初は副担任とか副講師みたいな役職にしておけばいい」

「それであれば、可能になるでしょう……分かりました、こちらでも手配を行います」


 どうせなら、多様な魔物を先生にしてみるのも一興だろう。
 学校にはサージュ以外にも魔物は居るが、目立った役職では無いからな。

 ──そうして、大規模な学校改革が始まるのだった。


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