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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と自世界見学 その09

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 静寂の黄金畑


 旅館から出た俺とセイが訪れたのは、色鮮やかに光り輝く畑だ。
 ここには大人は誰一人として存在せず、居るのは全員が子供となっている。


「ポイント稼ぎやレベリング、大人には内緒の何かをするのにはちょうどいい場所だ。魔物も子供たちを相手にするべく、結構弱めに設定してあるから安心だぞ」

「どうやって大人かどうか、判別しているのでしょうか?」

「国民に配った魔道具だな。子供として扱われたいなら、それを使い続ければ良い。無いなら大人として判断してやるが、恩恵は失われる……期限は三年、それだけあればここを使う必要も無くなるだろう」


 三年、すでにAFOとして地球とこの世界が接続されてから一年は経過している。
 地球からすれば三倍の速度で時が経っているので、ある意味三年が経っていた。

 それだけの間に、俺はいったい何をしたのだろうか……うん、全然である。
 なぁなぁで、行き当たりばったりのことばかりをやってきたからな。

 上手くやってこれたのは、あくまでも眷属たちのお陰だろう。
 まあ、だからこそ頑張ろうという意味もあり三年という制限にしておいた。


「本当は学校に所属している間、みたいな制限でも良かったんだけどな……なんだか最近は、大人の中にも学び直したいって奴らも多くなっているからな。そっちじゃ制限もしづらいし、こっちの方がいいだろう」

「あっ、でも長命種の子供たちは……」

「そこは共存と思って諦めてもらうか、いずれルールを変えるかだな。そもそも、迷宮は他にもたくさんあるんだ。わざわざここに固執するというのも、問題だと思うぞ」

「それもそうですね。でも、そう考えるのも悪いことじゃないと思います。だってそれって、ご主人様が創ったこの場所がとってもいい場所だってことなんですから」


 セイの言葉は俺を慰めてくれる。
 純粋だからこそ、その想いはスッと胸に入るというか……まあ、気恥ずかしいな。


「……一ヶ月に数回、一般開放とかをしてみるのもいいかもしれないな」

「はい、ご主人様がそうお考えならば!」

「うん……じゃあ、次に行こう」


 迷宮はたくさん存在する。
 個人主催のイベントでも、何ヶ所か出店したが……まだまだ隠してある、国民にも非公開な迷宮がいくつもあるのだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 流転の虹橋


 俺が創り上げた──【節制】用の迷宮だ。
 虹の橋が掛けられた空飛ぶ小島を股に掛けて、中央の島に辿り着く形になっている。

 今はセイ──【節制】の武具っ娘と共に居るので、ここを選んだ。
 一般には公開していない、難易度が極めて高い場所ではあるが。


「看板ですね……『陰と陽を調和せよ』、これはどういう意味ですか?」

「そのまんまだな。陰陽を調和、要するに何らかの形で不釣り合いの魔物が出てくる。普通に戦うと強敵だから、そのバランスを戻すことで簡単に倒せるってわけだ」

「な、なるほど……さすがご主人様です」


 もちろん、これはアイデアだけ出して全部眷属に任せていました。
 意図的にバランスを崩すって……いや、どうやったらできるんだよ。

 ある時、迷宮担当者にして迷宮自身であるレンに訊いたら分かったのだが──分かったからと言って、俺自身が理解できたわけではない、そんな知的なものだった。


「基本的にここで出現するのは、聖か邪に特化した種族だ。あとは水か気体でできた生物とか、術式で動く魔力生物なんかも混ざっているそうだ」

「それらのバランスが、不釣り合いなんですか? あの、どうやって倒せば……」

「属性が不釣り合いなら、対となる属性を注げばいい。形として不釣り合いなら、それを固体に戻せばいい。術式で動くなら、欠点を見つけて直せばいい。要するにこの迷宮は、知識と適性の多さを求められるわけだ」


 概念として【節制】には、相反する力を調和する『仲介者』である。
 相反する同士を、属性概念を結びつけるといった現象を象徴しているのだ。


「ボクが攻略するなら、どうやって挑戦すればいいのでしょうか? やっぱり、グラから食べたモノを借りた方がいいのですか?」

「うーん、割り込んで悪いが、それよりは普通に【節制】の能力を使った方がいいな。用意した迷宮は全部、それぞれに対応するスキルがあれば踏破できるようにしたからな」


 いくつか<大罪>や<美徳>スキルの能力を使用しているが、その数は膨大だ。
 本来は一人につき一つしか与えられない、チート級のスキル……当然とも言えよう。

 その中には、この迷宮をあっさりと攻略し得る能力も存在している。
 SP関連の便利なスキルと思われがちかもしれないが……ちゃんとチート級なんだぞ。


「ご主人様、この迷宮を攻略したら何かあるのですか?」

「いや、俺は何も用意していない。ただただ難易度が高く、各迷宮ごとに求められるナニカの適性が上がるだけだ」

「適性……ですか?」

「そう、適性。それ自体にそういう効果があるわけじゃないから、あくまでこの迷宮の捉え方次第だけどな。攻略者がどう受け止めるのかも見物ではある」


 虹の橋、そして不釣り合いな魔物たち。
 それらの意味は……俺もまた知り得ない。


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