1,771 / 2,518
偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と自世界見学 その09
しおりを挟む静寂の黄金畑
旅館から出た俺とセイが訪れたのは、色鮮やかに光り輝く畑だ。
ここには大人は誰一人として存在せず、居るのは全員が子供となっている。
「ポイント稼ぎやレベリング、大人には内緒の何かをするのにはちょうどいい場所だ。魔物も子供たちを相手にするべく、結構弱めに設定してあるから安心だぞ」
「どうやって大人かどうか、判別しているのでしょうか?」
「国民に配った魔道具だな。子供として扱われたいなら、それを使い続ければ良い。無いなら大人として判断してやるが、恩恵は失われる……期限は三年、それだけあればここを使う必要も無くなるだろう」
三年、すでにAFOとして地球とこの世界が接続されてから一年は経過している。
地球からすれば三倍の速度で時が経っているので、ある意味三年が経っていた。
それだけの間に、俺はいったい何をしたのだろうか……うん、全然である。
なぁなぁで、行き当たりばったりのことばかりをやってきたからな。
上手くやってこれたのは、あくまでも眷属たちのお陰だろう。
まあ、だからこそ頑張ろうという意味もあり三年という制限にしておいた。
「本当は学校に所属している間、みたいな制限でも良かったんだけどな……なんだか最近は、大人の中にも学び直したいって奴らも多くなっているからな。そっちじゃ制限もしづらいし、こっちの方がいいだろう」
「あっ、でも長命種の子供たちは……」
「そこは共存と思って諦めてもらうか、いずれルールを変えるかだな。そもそも、迷宮は他にもたくさんあるんだ。わざわざここに固執するというのも、問題だと思うぞ」
「それもそうですね。でも、そう考えるのも悪いことじゃないと思います。だってそれって、ご主人様が創ったこの場所がとってもいい場所だってことなんですから」
セイの言葉は俺を慰めてくれる。
純粋だからこそ、その想いはスッと胸に入るというか……まあ、気恥ずかしいな。
「……一ヶ月に数回、一般開放とかをしてみるのもいいかもしれないな」
「はい、ご主人様がそうお考えならば!」
「うん……じゃあ、次に行こう」
迷宮はたくさん存在する。
個人主催のイベントでも、何ヶ所か出店したが……まだまだ隠してある、国民にも非公開な迷宮がいくつもあるのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
流転の虹橋
俺が創り上げた──【節制】用の迷宮だ。
虹の橋が掛けられた空飛ぶ小島を股に掛けて、中央の島に辿り着く形になっている。
今はセイ──【節制】の武具っ娘と共に居るので、ここを選んだ。
一般には公開していない、難易度が極めて高い場所ではあるが。
「看板ですね……『陰と陽を調和せよ』、これはどういう意味ですか?」
「そのまんまだな。陰陽を調和、要するに何らかの形で不釣り合いの魔物が出てくる。普通に戦うと強敵だから、そのバランスを戻すことで簡単に倒せるってわけだ」
「な、なるほど……さすがご主人様です」
もちろん、これはアイデアだけ出して全部眷属に任せていました。
意図的にバランスを崩すって……いや、どうやったらできるんだよ。
ある時、迷宮担当者にして迷宮自身であるレンに訊いたら分かったのだが──分かったからと言って、俺自身が理解できたわけではない、そんな知的なものだった。
「基本的にここで出現するのは、聖か邪に特化した種族だ。あとは水か気体でできた生物とか、術式で動く魔力生物なんかも混ざっているそうだ」
「それらのバランスが、不釣り合いなんですか? あの、どうやって倒せば……」
「属性が不釣り合いなら、対となる属性を注げばいい。形として不釣り合いなら、それを固体に戻せばいい。術式で動くなら、欠点を見つけて直せばいい。要するにこの迷宮は、知識と適性の多さを求められるわけだ」
概念として【節制】には、相反する力を調和する『仲介者』である。
相反する同士を、属性概念を結びつけるといった現象を象徴しているのだ。
「ボクが攻略するなら、どうやって挑戦すればいいのでしょうか? やっぱり、グラから食べたモノを借りた方がいいのですか?」
「うーん、割り込んで悪いが、それよりは普通に【節制】の能力を使った方がいいな。用意した迷宮は全部、それぞれに対応するスキルがあれば踏破できるようにしたからな」
いくつか<大罪>や<美徳>スキルの能力を使用しているが、その数は膨大だ。
本来は一人につき一つしか与えられない、チート級のスキル……当然とも言えよう。
その中には、この迷宮をあっさりと攻略し得る能力も存在している。
SP関連の便利なスキルと思われがちかもしれないが……ちゃんとチート級なんだぞ。
「ご主人様、この迷宮を攻略したら何かあるのですか?」
「いや、俺は何も用意していない。ただただ難易度が高く、各迷宮ごとに求められるナニカの適性が上がるだけだ」
「適性……ですか?」
「そう、適性。それ自体にそういう効果があるわけじゃないから、あくまでこの迷宮の捉え方次第だけどな。攻略者がどう受け止めるのかも見物ではある」
虹の橋、そして不釣り合いな魔物たち。
それらの意味は……俺もまた知り得ない。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる