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偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と自世界見学 その05
しおりを挟む他の世界に存在する神殿ならば、ただ転職や進化を行う便利な施設として扱える。
だがしかし、俺の世界の神殿だけは……いろんな意味で、行くのが躊躇われるのだ。
「──さぁ、祈るのです! 世界はあなたを見守り、主の威光を示します。世界を創り上げた者こそが神であり、そしてこの世界は主によって創り上げれました。主こそが、メルス様こそが神なのです!」
修道女はこの場に集う人々に語る。
その背には、凡庸さの欠片も無い誰かの容姿が描かれたステンドグラスが配置され、光が差し込み神聖さを醸し出していた。
《同朋よ、アレはいったい……》
《言うな》
《し、しかし……あれは、同朋では?》
《言うな……何も、言わないでくれ》
無論、というか残念ながら、そこに描かれていたのは美化された俺だ。
八頭身ぐらいあって、顔立ちも極級のイケメンなんだが……ありえないレベルだよ。
ちなみに修道女はクロワ──かつてフィレルを封じていた十字架の武具っ娘だ。
なぜか俺と邪神であるリオンを崇め、こうした布教活動を行っている。
なのに神聖魔法の使い手なんだよな。
リオンは邪神だし、俺は神聖さの欠片も無い現人神……いったいどこから、神聖な力を出しているのやら。
「祈りましょう。主はその声に……気のせいですか。主はその声に応えます。先ほど行われた訓練も、民への被害はいっさいございませんでした。すべては糧となり、よりいっそう主への祈りを高めるためなのです」
「やはりそうだったのか」「さすがはメルス様です!」「俺も早く街の外で、魔物たちと戦えるようになりたいぜ」「なら、メルス様の加護が貰えるように頑張らないとな」
『メルス様に祈りを!』
一瞬クロワに気配を感づかれたかと思ったが、気のせいとして発覚は免れた。
だがその分、説法を聞かされる羽目に……嗚呼、穴が有ったら入りたい!
ちなみに加護は、条件を満たせば自動的に付与されるよう世界に仕込んである。
こういうことにも使える神代魔法には、本当頭が上がらないです。
《ゴー、そろそろ行こうか》
《うむ、最奥にて待っているのだろう?》
《クロワにバレたら羞恥心で死ぬかもしれないが、きっと温かな目で迎え入れてくれるだろう。さっ、早く行こう》
《我はもう少し、同朋へ向けられる賛辞を浴びるのも……ど、同朋、何をする!?》
俺とゴーは隠れているだけで、異なる場所に居るわけではない。
つまり、先ほどのように発見される可能性がある……それだけは、避けたいのだ。
ゴーの手を握り、神殿の奥へ向かう。
その際クロワが再度辺りに視線を向けていたが、祈りも終わりに近いのでそちらを優先したようだ。
終わってしまえば追いつかれる……その前になんとてしても、辿り着かなければ。
◆ □ ◆ □ ◆
あれからすぐ、騒がしくなった神殿内部。
俺を呼ぶ声を背に、奥へ奥へと突き進む。
そうして辿り着いたのは、無数の神像が配置された空間。
それは眷属に居る神でも、眷属たちが崇める神でもない。
故に誰も居ないこの場所で、彼女は時折祈りを捧げていた。
「──あら、このような場所に。何か御用でも、メルス君?」
「いや、今は視察の真っ最中なんだ。それより、今日も祈ってるのか?」
「ええ。たとえ今は眠っておられても、いずれ神々はその御姿を現します。この身に宿る神気が、少しでもその御力になれば……ところでメルス君、その娘はいったい?」
「ふっ、初めましてと言っておこう。我が名はゴー、同朋が生みだせし【傲慢】の業を背負うモノである!」
なんだか背景に『ドドドドドド』とか、そういう文字が浮かんできそうなポーズを取りながら挨拶を行うゴー。
少し戸惑った様子だったが、すぐにニコリと笑みを浮かべる……ただし、時折視線がこちらに向いているが。
「まあ、名乗った通りゴーだ。前に説明した武具っ娘の一人で、上位者としてのイメージが具現化している。その結果が……」
「むふー!」
「そういうことなのですね。ふふっ、メルス君も男の子ということですか」
「……まあ、そうだな」
決して否定はできないので、渋々ながらそこは肯定した。
どや顔のゴーとさらに温和な笑みを浮かべる彼女に見られながら、精神を元に戻す。
「それでだ、ゴー。彼女は──」
「初めまして、ゴーちゃん。私はアイドロプラズム、気軽にアイちゃんって呼んでね」
「うむ、アイよ。同じく主を支える身、共に励もうではないか」
「そうですね。よろしくお願いします、ゴーちゃん」
アイは基本的に、誰に対しても朗らかな態度を取る……荒れ狂う邪霊を成仏させるような、とても清らかな心の持ち主だからな。
なので尊大な態度で呼び捨てをしようと、その心根が分かれば優しく接せられる。
……武具っ娘は俺の理想の体現、元より悪い奴はいないからな。
「さて、二人の顔合わせも済んだし、お祈りしたら俺たちは出るよ」
「では、その間に非常口の起動をしておきましょうか」
「頼む。ゴー、何でもいいから祈ろう」
「八百万の神か……なるほど、いいだろう」
名も知らぬ神や身内の神など、知り合いに神がいっぱいいるからな。
だからそんな全員に届くよう、いろんなものに祈る……運営神のヤツは当然例外だ。
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