1,764 / 2,518
偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と自世界見学 その02
しおりを挟む第一世界は方位ごとに、異なるフィールドが築かれている。
それぞれの地帯は自然型迷宮、つまり天然の迷宮になっていて、魔物を勝手に生む。
普段から魔物を間引いてはいるが、今回の企画だとそれが一気に溢れ出る。
当然、魔物の数はフィールドの許容範囲を超えて──空いている中央へ向かうことに。
「まあ、東の方角は魔物と言っても比較的安全な植物系だから問題ないだろうけど。俺たちが行くのはその反対側──西だ」
「山脈」
「そう、あそこは多種多様な魔物が海の次に生息してるからな。空を飛ぶ種族も多いし、かなり苦戦することになるだろう」
「分かった、最初は観てる」
外壁の上……では邪魔になるので、今回もお空の上から見ることに。
雷雲生成スキルを調整し、ふかふかな雲のクッションを用意することを忘れない。
西に集まっているのは、古参の者たち。
構成するのは、俺がリーンと国名を決める前から集まっていた住民である。
「うん、来たな。最初は位階の低い魔物たちだ。ここら辺はギーが魔力を出すだけで、全部死ぬだろうな」
「当たり前、メルスの武具っ娘」
「だな。それは国民たちも同じこと、威圧でだいぶ弱めることができる」
斥候職たちが魔物を見つけると、強者が威圧で弱体化させた。
何をしているかと言うと、それをあまり強くない者たちに倒させている。
「レベルアップは大切だからな。マニュアルにも、どういう魔物が相手の時にレベル上げすべきか書いておいたんだ」
「それ、大丈夫?」
「普通は魔法で殲滅した方がいいのかもしれないけど、それだとソイツが大半を持っていくからな。どんな職業だって、レベルを上げれば意味を成す。その可能性を、高めておいた方がいいだろう」
「さすがメルス、ちゃんと考えてる」
もちろん、自分の考えが穴だらけなことは分かっているので、眷属たちと相談したうえで認められたアイデアだ。
予め防御系の魔道具を配布し、砕けた者は退場しなければならない。
まあ、これはこの企画を通しての参加条件であるけど。
擬似的に死んだという扱いにするのだ。
魔道具は回復魔法やポーションが有効な特別品なので、壊れたときは正真正銘死んだも同然ということになる。
そこまで安全策を準備しているので、非戦闘職でも魔物を倒せていた。
属性攻撃を使える魔道具を用いて、スキルレベリングをしながらやっている。
「僅かだが、何もしないよりはマシだしな。とはいえ……難易度が上がると、さらにその安全度も下がるけど」
「進化してる」
「フィールドは基本、放置だからな。特に西は鉱脈もあるし、供給しているエネルギーが多い。だから魔物が出てくる量も多いし、淘汰されて勝者が強くなるんだよな」
なんせウチの鉱脈では、神鉄鉱まで掘りだせますから。
その分使われているエネルギーの量も、漏れ出す分もかなり増えていた。
魔物が現れては喰らい合い、それらを糧として成長していく。
その成果は現在、進化という形で俺たちの目の前に現れている。
「けど、負けてない」
「種族として進化して、加えて職業もちゃんと就いているからな。うちの大部分を占める国民は、ちゃんと戦えているわけだ」
魔物は職業に就けない……というわけではなく、辿り着けないだけだ。
そして、知性が無いと職業を選べないし、そもそも置かれているのは基本神聖な場所。
魔物が入ろうとすれば拒絶され、そのまま殺される可能性が高い。
だが、うちの就職装置である水晶がある場所は、誰でも入れるので問題ないのだ。
そうして魔物としての成長の速さ、職業による各スキルへの補正が加わり、魔小鬼たちは一気に成長した。
上位種族へ進化する者、人族に近しい姿を得た者、そして……成長が止まっても抗った者などが居る。
「けど、魔小鬼のままもいるよ」
「職業付きの種族に就いた個体も居るには居るんだがな。でも、進化をする才能が無かったのか、そこまで行かなかった奴もいる」
祈念者は別として、すべての生命がこの世界では有する問題──適性。
スキルを得る適性、レベルの限界を超える適性、種族の格を高める適性。
そういったものを有していないと、強くなることができない。
ギーの見つけた者たちは、その中でも種族の格を高める方法──進化への適性がない。
「それでも頑張ったんだ。俺も全力で導いたからな……うん、やり過ぎた」
「凄い無双。メルスクオリティ」
「どういう意味だ? まあ、なんとなく分かるけど。進化の適性が無いなら、それ以外で補えばいいだけのこと。見ての通り、それ以外は完璧になったからな」
進化の適性はゼロではない、だが壁を超える域まで達していなかった。
ならばと導きで干渉することで、その進化に対する適性を絶無にしたのだ。
代わりに余った分の適性値(仮)を、その他の優れた部分に注ぐ。
その結果生まれたのが、見た目は雑魚なのに異様に強い者たち。
大量のスキルを使ったり、単純に能力値が異様だったり……やり方はバラバラだが、いずれにせよ無双している。
「スキルが多く手に入る、レベルが普通よりも上がる。これだけでも本当は、充分な強さが得られるからな」
「……私、必要?」
「ああ、そろそろな。実戦ならともかく、これは企画の範疇。そろそろ勝てなくなる相手も出てくるだろう」
「うん、ならもう少し待つ」
ギーの頭を撫で、改めて眼下を見下ろす。
遠くで激しい地響きが起きている……我ながら、よくぞ生みだしてしまったものだ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる