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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と自世界見学 その02

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 第一世界は方位ごとに、異なるフィールドが築かれている。
 それぞれの地帯は自然型迷宮、つまり天然の迷宮になっていて、魔物を勝手に生む。

 普段から魔物を間引いてはいるが、今回の企画だとそれが一気に溢れ出る。
 当然、魔物の数はフィールドの許容範囲を超えて──空いている中央へ向かうことに。


「まあ、東の方角は魔物と言っても比較的安全な植物系だから問題ないだろうけど。俺たちが行くのはその反対側──西だ」

「山脈」

「そう、あそこは多種多様な魔物が海の次に生息してるからな。空を飛ぶ種族も多いし、かなり苦戦することになるだろう」

「分かった、最初は観てる」


 外壁の上……では邪魔になるので、今回もお空の上から見ることに。
 雷雲生成スキルを調整し、ふかふかな雲のクッションを用意することを忘れない。

 西に集まっているのは、古参の者たち。
 構成するのは、俺がリーンと国名を決める前から集まっていた住民である。


「うん、来たな。最初は位階ランクの低い魔物たちだ。ここら辺はギーが魔力を出すだけで、全部死ぬだろうな」

「当たり前、メルスの武具っ娘」

「だな。それは国民たちも同じこと、威圧でだいぶ弱めることができる」


 斥候職たちが魔物を見つけると、強者が威圧で弱体化させた。
 何をしているかと言うと、それをあまり強くない者たちに倒させている。


「レベルアップは大切だからな。マニュアルにも、どういう魔物が相手の時にレベル上げすべきか書いておいたんだ」

「それ、大丈夫?」

「普通は魔法で殲滅した方がいいのかもしれないけど、それだとソイツが大半を持っていくからな。どんな職業だって、レベルを上げれば意味を成す。その可能性を、高めておいた方がいいだろう」

「さすがメルス、ちゃんと考えてる」


 もちろん、自分の考えが穴だらけなことは分かっているので、眷属たちと相談したうえで認められたアイデアだ。

 予め防御系の魔道具を配布し、砕けた者は退場しなければならない。
 まあ、これはこの企画を通しての参加条件であるけど。

 擬似的に死んだという扱いにするのだ。
 魔道具は回復魔法やポーションが有効な特別品なので、壊れたときは正真正銘死んだも同然ということになる。

 そこまで安全策を準備しているので、非戦闘職でも魔物を倒せていた。
 属性攻撃を使える魔道具を用いて、スキルレベリングをしながらやっている。


「僅かだが、何もしないよりはマシだしな。とはいえ……難易度が上がると、さらにその安全度も下がるけど」

「進化してる」

「フィールドは基本、放置だからな。特に西は鉱脈もあるし、供給しているエネルギーが多い。だから魔物が出てくる量も多いし、淘汰されて勝者が強くなるんだよな」


 なんせウチの鉱脈では、神鉄鉱オリハルコンまで掘りだせますから。
 その分使われているエネルギーの量も、漏れ出す分もかなり増えていた。

 魔物が現れては喰らい合い、それらを糧として成長していく。
 その成果は現在、進化という形で俺たちの目の前に現れている。


「けど、負けてない」

「種族として進化して、加えて職業もちゃんと就いているからな。うちの大部分を占める国民は、ちゃんと戦えているわけだ」


 魔物は職業に就けない……というわけではなく、辿り着けないだけだ。
 そして、知性が無いと職業を選べないし、そもそも置かれているのは基本神聖な場所。

 魔物が入ろうとすれば拒絶され、そのまま殺される可能性が高い。
 だが、うちの就職装置である水晶がある場所は、誰でも入れるので問題ないのだ。

 そうして魔物としての成長の速さ、職業による各スキルへの補正が加わり、魔小鬼デミゴブリンたちは一気に成長した。

 上位種族へ進化する者、人族に近しい姿を得た者、そして……成長が止まっても抗った者などが居る。


「けど、魔小鬼のままもいるよ」

「職業付きの種族に就いた個体も居るには居るんだがな。でも、進化をする才能が無かったのか、そこまで行かなかった奴もいる」


 祈念者は別として、すべての生命がこの世界では有する問題──適性。
 スキルを得る適性、レベルの限界を超える適性、種族の格を高める適性。

 そういったものを有していないと、強くなることができない。
 ギーの見つけた者たちは、その中でも種族の格を高める方法──進化への適性がない。


「それでも頑張ったんだ。俺も全力で導いたからな……うん、やり過ぎた」

「凄い無双。メルスクオリティ」

「どういう意味だ? まあ、なんとなく分かるけど。進化の適性が無いなら、それ以外で補えばいいだけのこと。見ての通り、それ以外は完璧になったからな」


 進化の適性はゼロではない、だが壁を超える域まで達していなかった。
 ならばと導きで干渉することで、その進化に対する適性を絶無にしたのだ。

 代わりに余った分の適性値(仮)を、その他の優れた部分に注ぐ。
 その結果生まれたのが、見た目は雑魚なのに異様に強い者たち。

 大量のスキルを使ったり、単純に能力値が異様だったり……やり方はバラバラだが、いずれにせよ無双している。


「スキルが多く手に入る、レベルが普通よりも上がる。これだけでも本当は、充分な強さが得られるからな」

「……私、必要?」

「ああ、そろそろな。実戦ならともかく・・・・・・・・、これは企画の範疇。そろそろ勝てなくなる相手も出てくるだろう」

「うん、ならもう少し待つ」


 ギーの頭を撫で、改めて眼下を見下ろす。
 遠くで激しい地響きが起きている……我ながら、よくぞ生みだしてしまったものだ。


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