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偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と自世界見学 その01
しおりを挟む第一世界 リーン
最近は闘争に明け暮れていたので、結局は休むことを選んだ。
少し前に祭りを開いて盛り上がったので、しばらくは落ち着いているだろう。
だからこそ、休息を過ごすにはちょうどいいと思っていたのだが──
「活気溢れているな、この国」
「メルスの国だから、当然」
さすがに築地のような騒がしさは無いが、少なくとも先日祭りで苛烈に盛り上がった後のテンションではない。
賑やかで、子供たちも楽しそうに街の中を駆けている。
やせ細った者も活力の無い者も居ない、誰もが笑顔を浮かべている。
そんな国造りをしたいと願い……かといってその才も無いため、眷属や住まう国民たちに委ねた結果、出来上がったのがリーン。
奴隷や放浪者、誰であろうと受け入れる。
俺という絶対者が存在することで、強引な法を制定することができた──いわゆる強制王政国家だ。
だがまあ、強制と言う割に俺自身の介入も王の代理者も国の行方を左右するような指示はしたことがない。
そりゃあそうだ、敵対国家も土地に困ることも無い……一種の楽園なのだから。
閑話休題
さて、そんな国の創造者である俺は、現在姿を偽ったうえで見学に来ていた。
俺としては偽善的なことばかりしかしていないはずだが、国民の好感度が高いのだ。
俺を崇める宗教があるし、国民の大半が所属しているし、俺への信仰がスキルに認められているし……いろいろと頭痛が痛くなりそうな、国でもあるからだな。
そして、ここにはもう一人。
俺の警護役、水晶のようにキラキラした紫色の髪をした幼い少女が──はち切れんばかりの胸を張っていた。
「ギーさんや……そんなに胸を張ることですか? ほら、観てるから止めなさい」
「む。メルス以外に見られるのは……嫌」
「よろしい。さすがにその兵器は、認識偽装でも完全に抑え込めないぞ」
「通りで。メルスみたく、隠しているわけでもないし。姿まで変えるのは……私じゃない私が、メルスと居るのは嫌」
なら、俺が偽っているのはいいのか? とかそういう野暮な質問は今さらだろう。
散々メルとかノゾムとか、いろんな姿でやりたい放題してきたわけだし。
彼女にとって重要なのは、俺の知るギーが今の姿だけであること。
いろいろと危うい姿なんですけど……本当にいいんだろうか?
「この姿はメルスの理想、だからこのままがいい。メルスが、気に入ってくれるから、私はこのままでいる」
「ああ、そこは否定しない。俺はロリ巨乳もいける口だ。ただまあ、一つだけ言うなら、この後ギーがどんな風に成長しても、ギーはギーだから最高に可愛いぞ」
「嬉しい……」
「っと、いける口とは言ったけど、マジでいかないからな。うん、そんなに強調しなくてもいいから」
残念、とか言わないでほしいです。
ギーと手を繋ぎ、街を巡っていく。
買い物や食事を楽しむでもなく、ただひたすら歩いて周りを見ているだけなんだが。
「退屈じゃないか?」
「全然。メルスが、いっしょにいるから」
「そうか……」
「うん、そう」
会話は短くとも、お互いに心は伝わる。
何をするでもなく歩いているだけ、なのにギーから伝わってくるのは喜びの想い。
それは今まで、俺が彼女たち一人ひとりと接する時間が短かったのが悪いのか。
それとも……かつてアンやアイリスが語ったように、カンスト超えというヤツかもな。
「ところで、何をしているの」
「……物凄く今さらだな。結構歩いたけど、気にしてなかったのか?」
「メルスと居ることが、一番」
「…………。まあ、見学だよ。普段の国はどういう姿をしていて、どんな風に過ごしているのか見ておきたかったんだ」
実は何度もやっていた。
だがその都度、この国は異なる姿を見せてくれている。
俺が他所から国民を連れているからでもあり、国が変わろうと意識してくれているからでもあるだろう。
「それにさ、今日はちょうどアレもあるし、ある意味ピッタリだったというのもあるな。彼女もどういう風に働いているか、気になったんだ」
「参加して、いい?」
「やり過ぎないようにしてほしいけどな。あくまでも、国民の自主性を重んじてやっていることなわけだし」
「うん、分かった」
会話をしていると、突然リーンを囲う壁の上から警報が鳴り響く。
そしてしばらくすると、若干ノイズが入った後に女性の声が聞こえるように。
≪た、ただいま、全方位からの魔物たちの侵攻が確認されました。皆さん、被害マニュアルに従って行動してください!≫
「……おっと、始まったみたいだな」
「私はどうすれば?」
「最初は俺と観戦してくれ。もし、対応し切れない場所があったら、そこの支援に行ってもらうのが一番かな?」
最初から参加していると、間違いなくギー無双ですべてが解決してしまう。
そうならないように、少し間を空けてから参加してもらう予定だ。
「メルスは見ていてくれる?」
「おう、見ているぞ。ただ、いっしょに何かするのもいいかもしれないな」
「嬉しい。いっしょにやろう」
「そうだな。ただ、あんまり頑張り過ぎない程度にだけど」
気配探知を行い、もっとも敵が厄介そうな場所へ向かう。
……まずは、国民の対応を見てからだな。
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