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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と飽くなき徒労 その14

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 死の淵から蘇った魔物たちは、【暴食】の能力で餓鬼と化した。
 弱肉強食の闘争を繰り広げ、少しずつ弱者の数を減らし……狙うのは、強者のみ。


「ははっ、まさか俺様を狙うとはな」


 ゲンブと俺、どちらを先に食べようとするか気になっていたが……俺になるなんて。
 まあ、威圧をしているわけでもないし、偽装された力に気づけないなら仕方ないか。

 どれだけ食べても満たされない、深淵に近しい飢餓感を覚えているであろう魔物たち。
 それでも刻まれた恐怖には叶わない、とでも言いたいのだろうか。

 お陰でゲンブもだいぶ冷静さを取り戻したようで、余裕綽々な表情だ。
 チッ、やっぱりイケメンフェイスだ……壊してやりてぇな。


「ふぅ……悪かったな、少々苛立って。侵入者よ、改めて名を問おう」

「餓王。それが貴様を、この大陸のすべてを喰らう王の名だ。糧となる前に覚えておけ」

「ずいぶんと余裕だな。貴様に、貴様自身が仕組んだ罠が超えられるのか!」

「はっ、何を言うかと思えば。能力を解除するだけで、それができるんだぞ?」


 結局、俺がくれてやった満腹度を回収すれば、元に戻るからな。
 だがまあ、それはやらない……なんか負けた気分になるから。

 もちろんそんな思考、ゲンブは理解できるわけもない。
 何やら高笑いをしながら、周囲に魔力を解放していた。


「ふははははっ! そんなこと、させるわけないだろう! すでに、貴様に操られた私の配下は掌握済みだ!」

「なるほど、それがゲンブの……いや、玄冥の力なのか」

「貴様も例の関係者か? いや、違うな……知り得るだけの存在か。まあいい、ならば話も早くて済む。私は水と闇、そして命の力を操ることができる。この大陸でも最強は私、奴らはそのお零れにあやかっているのだ!」


 玄武の本来の表記は玄冥。
 冥界との中継役みたいな在り方も関しているので、そこら辺が関わっているのだろう。

 実際、赤色の世界で迷宮の転生姉弟が召喚していた玄武はそんな感じだったらしいし。
 戦闘自体はしなかったらしいが、知ったからには情報は調べてあったのだ。

 水は聖獣としての性質、闇と命はその本来の名前が関わる部分だな。
 そして玄武の『武』は武神、つまりそこが属性適性以外の戦闘センスを高めている。

 おまけに赤色の世界の方の玄武と同じ在り方なら、まだ隠している札が多い。
 そのうえ、俺はまだ餓えた魔物の相手もしないといけない……先にそっちは消そうか。


「まあ、どんな事情があろうと貴様は潰す。その秘密を外に漏らされるのはごめんだ」

「潰されてたまるかよ。俺様の飢えは、そこいら奴らとは比べ物にならん。ほら、すぐに貴様も喰らってやる──“万喰の牙オールイーター”」


 何でも喰らえる透明な牙。
 それを防ごうとする干渉すら拒むため、それを阻めるモノは存在しない。

 餓鬼状態の魔物を止めるためには、彼らの飢えを奪えばいい。
 しかし、たとえそれをしても玄冥の力で死から這い上がってくる。

 ならば、全部喰ってしまえばいいだろう。
 飢えも体も干渉も、無くなってしまえばすべてが機能しなくなる。


「ついでだ──“死霊槍ゴーストランス”」


 殺した数が多いほど、威力を上げることができる物理透過の槍。
 余すことなく魂魄は喰らってあるので、それらを触媒として威力を高める。

 だが、それはゲンブが掌を前に突き出すだけで無効化された。
 詠唱などはまったくしていない、だがたしかに霊による攻撃は無いものにされている。


「無駄だ!」

「なら、仕方がない……直接戦えばいい」

「ほぉう、ならば受けて立とう」

「──“剣器創造クリエイトソード・《・》吸収剣アブソーブ対滅剣ニュートライズ”」


 ゲンブは両手に、亀の甲羅の形をした巨大な盾を装備する。
 対する俺は魔法で剣を──とあるマニアが振るっていた二振りの魔剣を創り上げた。

 そのうちの一振り、属性を吸収できる剣は常に反応している。
 光る色は青色と黒色、つまり周囲は水属性と闇属性の魔力で覆われているということ。


「行くぞ」

「掛かってくるがいい」

「「──ッ!」」


 突貫して剣を振るえば、片方の盾だけでその攻撃を防ぐ。
 そして空いた方の盾を構えて、突っ込んでくるカウンタースタイル。

 もう一振りの剣、対消滅の剣から吸い取った水属性の力を解放。
 魔力を注いで勢いよく水を噴射し、目晦ましと後退を同時に行う。


「曲芸か……だが、いつまで持つかな?」

「死ぬときだろうな、無論貴様がだがな──“十剣網操ソードダンシング転移剣テレポート”」


 十本の剣を宙に展開、それらを制御化において戦う。
 その剣はすべて転移を行える代物、砕かれぬ限り俺はその剣と場所を入れ替えられる。

 とはいえ、それだけでは倒せないだろう。
 あの盾の防御性能の他にも、ゲンブ自身の防御力も越えなければならない。


「──“光械ライトウェポン”、“闇械ダークウェポン”」

「光と闇……なんのつもりだ」

「別に、ただの下拵えだ」

「…………“阻物防盾アタックガード”、“阻魔防盾マジックガード”」


 俺の言動に警戒をしたのか、盾に一定時間無敵状態を施した。
 あながち間違いじゃない、盾に当たりさえすれば攻撃は防げるからな。

 それでも俺は、攻撃を続ける。
 転移を何度も何度も繰り返し、いずれ生まれるであろう隙を狙って。


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