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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と飽くなき徒労 その08

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 狗妖獣クー・シーの巫女につれられて、本殿の中を歩いていく。
 やがて最奥の部屋、その扉の前に立つとこちらに振り返った。


「では、儀式を始める前にご確認を」

「ああ? 何をだ」

「神は仰りました、王を招くようにと。しかし、それ以外のことは何も。ですので、神が何かご不快な思いをさせてしまうかもしれません……それでも、お入りになりますか?」


 神とは基本、人族とは違う価値観を持って存在している。
 故に人族が求める理想に、神が応えないこともまたしばしば。


「構わない。が、一つ聞きたいことがある」

「なんでしょうか?」

「お前らは俺と神、どっちに従うんだ? 相反する主張をした場合……どうする」


 神様が言いましたから反乱します! なんてことになっても困る。
 その点、うちの国はある意味困ることがないよな……ハァ。


「私は……神を信じます」

「ほぉ、理由は?」

「私たちを王の下へ導いてくださったのは、神です。王が私たちを受け入れてくださりましたが、すべては出会いがあったからこそ。事実、この地はかつて荒廃していました」

「ふむ……一理あるな。貴様らは等しく俺様の糧。育てるための場所は用意するが、わざわざ外部から捕まえてこようとは思わん」


 偽善をしたいと思っているが、人為的に引き起こすことではない。
 あくまでも、それは偶然の出会いから始まるからこそ面白いのだから。


「ならば、貴様らは俺様を殺せと命じられれば殺すのか?」

「いえ、そうはならないかと。あくまでこれは、私の主張。神の声を聴き、伝えてきたからこその考えです。誰に訊いても、真に信じるのは王の方です」

「……面白いな。いずれにせよ、中の神とやら次第の話だ。神の下僕になるのも、貴様の自由にするがよい。ただ一つ、その意を俺様に伝えることを欠かさないのであれば」

「はい、理解しております」


 内密にされても、ロクなことにならないだろうし。
 自分で言った通り、すべては会ってから決まることだ……神もずいぶんと身近にだな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 巫女が祈りを捧げる。
 それはもう真摯なもので、周囲からは何やら神聖な力を感じ取れた。

 最奥にあったのは小さな木彫りの人形。
 彼らの種族『狗妖獣』の姿の代物で、神らしい特殊な姿はしていない。

 台座の上に置かれたそれに向けて、延々と祈り続けている。
 俺はスキルを全力で起動させて、いつ来るか分からないその瞬間を待った。


「──来たか」

「!」


 ビクンッと体を震わす巫女。
 急に虚脱したかと思うと、何やらぶつぶつと呟き始める。

 俺はそんな光景を、また別の観点から考察していく。
 先ほど降りてきたソレは、間違いなく神気の力を感じ取れた。

 少なくとも、神を自称する偽物という線はここで無くなる。
 間違いなく相手は神、しかし……。


「神はこうお告げです。触れろ、と」

「人形かお前か、どっちなんだ?」

「おそらくは人形の方かと──」

「いや、お前だな──“神祈降臨ディヴァインディスセンズ”」


 巫女が俺の真意を問う前に、その解がこの場に現れる。
 神託用に降ろしていた御霊みたまが、ふわりと彼女の肉体から飛び出す。


《感謝。王》

「伝わらねぇよ。やっぱり加護持ちを介したとはいえ、足りないか──“次元隔話スピーク”」

「お、王よ、いったい何を?」

「お前がどう聞き取っているかは知らんが、俺様には俺様なりのやり方がある。これで回路は繋がった、しっかりと話せよ」


 加護を媒介に神は神託を下ろすので、その経路を通じた召喚。
 そして意思の伝達をするために、次元を超えて話せるように施した魔法。

 その二つの影響か、御霊の伝えたいことが分かるようになる。
 ……どうやらこれまでは鮮明ではなかったようで、巫女も驚いた様子だ。


《ありがとうございます、狗妖獣の王よ》

「さっきのは、そういう意味だったのか。まあいい、単刀直入に聞こう。貴様は俺様の敵か? それとも配下か?」

《敵ではございません。ですが、配下というのも……観測者、今の私にできるのはそれだけでございます》

「観ているだけ、か。その割にはずいぶんと大胆な干渉をしたものだな」


 自称観測者は俺の居場所を伝え、そこに向かうよう巫女へ伝えた。
 その結果狩りごっこをする奴らから逃れ、俺の配下に加わることになる。

 だがそれは、観ているだけの奴がすることではない。
 テレビを観ているだけのヤツが、番組に指図するぐらいの暴挙ではないか。


《私を構成するのは、彼らの祈り。この地にあってもなお、純粋に感謝を籠める彼らへの返礼のようなものです》

「……ここがどういう場所なのか、教えてくれるってことか?」

《申し訳ございません。上級神より制約が施されております》

「チッ、抜け目ねぇな……」


 ここで暴けるなら、全部聞き出しておきたかったんだが。
 俺はネタバレでも何でも、必要な情報は可能な限り集めるタイプだし。


《ただ一つ、神らしいことを。──王よ、貴方の飢えは浅い。そのまま時が経とうと、変わることはありません》

「……なんで知ってやがる」

《真の意味で染め上げたいのであれば、その戒めは無意味です。喰らい続けなさい、そして大切にしなさい。貴方と共に、卓を囲むことのできる者たちを》

「…………何者だ、テメェは」


 俺の問いに答えないまま、御霊はこの場所から消えた。
 ずいぶんと意味深な発言だったが、要はアレだな──食事制限は解除ってことで。


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