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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と飽くなき徒労 その07

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 俺の国ができてから数日……そう、すでに数日が経過していた。
 未だに『侵化』現象で瞳が青く染まっている俺だが、髪の色は変わっていない。

 しかし飢餓感だけは相も変わらず、俺を蝕み続けている。
 具体的には、満腹度が底を尽きた際に起きる現象──生命力の減少が起きた。

 普通の減少なら回復すればいいだけの話だが、これが減らすのは最大値そのもの。
 状態異常でも無いので解消できず、あれからずっと減り続けている。

 ……のだが、俺の生命力は国家予算レベルの桁になっているので、【暴食】を乱用しない限り問題ない。

 何もしないなら延々と、一年ぐらいは平然としていられるだろう。
 ──偽善をやっていれば、それがどうなるかは不明になるんだけど。


「……何度も言ったが、別に要らん。俺様は俺様の目的を果たすまで、何も食わんと決めている。何を寄越してもそれは同じだ」


 従属した『犬妖獣クー・シー』の族長は、自ら大量の食糧を欠かさず持ち込んでいる。
 だが縛りで食べられない俺なので、それを全部拒んでいた。

 寄越せと言ったヤツがそれを言うのって、結構クソな気もするけどな。
 まあ、最終的には命令という形で、全部返して食わせているが。

 ……するとその分、その次の日には美味しい魔物が出てくる。
 今では軽い調理までできるようになり、それも出すようになっていた。


「で、ですが……」

「くどい。この問答も何度目だと思う、もううんざりだ……それよりも、用意してやった儀式場はもういいのか?」

「そ、それはもちろんでございます。わざわざ餓王様・・・にご足労を願い、用意していただいた地。すぐに準備できるよう、私たちも全身全霊を尽くしました」


 餓王、俺は彼らにそう呼ばせている。
 二つ名が欲しいのもそうだが、今の俺に相応しい呼び名だろう?

 王として振る舞う常に餓えた怪物。
 どれだけ人のように振る舞おうと、生き物としての本質を果たしていない現状において俺は、獣にも劣るナニカなんだろうな。

 そんな俺が現在興味を示しているのは、彼らを俺の下に導いた能力の持ち主。
 すぐに顔を合わせたのだが、力を使うためには場が必要とのことだった。

 なのでそれを用意し、儀式の準備ができたら会うということに。
 そして今日、ようやくその準備が終わったらしい。


「すぐに行くぞ、そう伝えておけ」

「は、ハッ、畏まりました!」


 王としての威厳など、自分にあるか分からないが、それっぽく振る舞えただろうか?
 武具っ娘であり、覚醒したゴーを纏えば完璧だろうが……今は縛り中だからな。

 彼らが俺に尽くそうとするように、俺もまた彼らの期待に応えねばなるまい。
 最悪、食事をすればすべての問題が解決するので、せめてらしさ・・・は保っておこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 神社


 もともとはただの木像を置いていたらしいが、古臭いとか景観に合わないとか適当なことを嘯いて神殿を造ろうとした……のだが、なぜか目の前には神社が存在する。

 いやまあ、やったのは俺だから理由は知っているけどさ。
 軽く呟いたらそれを聞き取られて、神社にしてくれと懇願されたからだな。


「神、か……運営神や別世界の神を除けば、初めて意思を確認できる個体だ」


 神には二パターン、意志ある神とそうでない神が存在する。
 前者のほぼすべてが沈黙させられ、後者は運営神に従属させれているのが現状だ。

 リオン曰く、人から神になった奴が基本的に前者なんだとか。
 また、神が眷属として用意したり、その配下として用意した使徒が進化したのが後者。

 彼ら狗妖獣たちを救ったのは、そんな神様なのだ。
 もっとも適性のあった者に神託を下し、俺に押し付けた張本人(神)。


「しかしまあ、どうして他の誰でもないこいつらを救ったのかが謎だ。種族の神はそのすべてが代理になっていて、運営神の望むように種族をコントロールしている。だから、こういう地味なことには関わらないはずだ」


 地味、少なくとも超常的な存在である神の中には、生物の生き死にをそう捉える者も。
 だからこそどんな神であれ、今回の一件を行った理由が分からないのだ。

 それまで特段、何かを信仰していたわけではないという。
 ただ当てもなく日々に感謝していたら、ふと下りてきたんだとか。


「けど実際に、救われている。それが偽物であろうと、やったことに変わりはない。俺の存在を知ったうえで、そこに行くように伝えた。死地に向かわせたつもりなのか、それとも救われると確信したうえで伝えたのか」


 どちらとも取れる、その選択。
 仮に神だった場合は、神社という場所の効果で詳細を聞くぐらいはできるだろう。

 そうでなかったとしても、現人神である俺より格下なら強引に聞き出せる。
 そのために、更なる飢餓感が俺を襲うことになるだろうけどさ。

 鳥居を躱し、境内を歩いて本殿へ。
 そこで待つのは、犬妖獣の中でその神らしき存在の声を聴いた者。


「──お待ちしておりました」

「ああ、腹を空かせて待っていた。どうかその神とやらが、俺を満たしてくれるナニカをくれればいいんだがな」


 巫女服姿で立つワンコ。
 なんともシュールな光景だが、今はそれよりも気にするべきものがある。

 ……さて、俺に偽善をやる機会をくれたのは、いったいどんな奴なんだか。


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