1,752 / 2,518
偽善者と獣たち 二十七月目
偽善者と飽くなき徒労 その07
しおりを挟む俺の国ができてから数日……そう、すでに数日が経過していた。
未だに『侵化』現象で瞳が青く染まっている俺だが、髪の色は変わっていない。
しかし飢餓感だけは相も変わらず、俺を蝕み続けている。
具体的には、満腹度が底を尽きた際に起きる現象──生命力の減少が起きた。
普通の減少なら回復すればいいだけの話だが、これが減らすのは最大値そのもの。
状態異常でも無いので解消できず、あれからずっと減り続けている。
……のだが、俺の生命力は国家予算レベルの桁になっているので、【暴食】を乱用しない限り問題ない。
何もしないなら延々と、一年ぐらいは平然としていられるだろう。
──偽善をやっていれば、それがどうなるかは不明になるんだけど。
「……何度も言ったが、別に要らん。俺様は俺様の目的を果たすまで、何も食わんと決めている。何を寄越してもそれは同じだ」
従属した『犬妖獣』の族長は、自ら大量の食糧を欠かさず持ち込んでいる。
だが縛りで食べられない俺なので、それを全部拒んでいた。
寄越せと言ったヤツがそれを言うのって、結構クソな気もするけどな。
まあ、最終的には命令という形で、全部返して食わせているが。
……するとその分、その次の日には美味しい魔物が出てくる。
今では軽い調理までできるようになり、それも出すようになっていた。
「で、ですが……」
「くどい。この問答も何度目だと思う、もううんざりだ……それよりも、用意してやった儀式場はもういいのか?」
「そ、それはもちろんでございます。わざわざ餓王様にご足労を願い、用意していただいた地。すぐに準備できるよう、私たちも全身全霊を尽くしました」
餓王、俺は彼らにそう呼ばせている。
二つ名が欲しいのもそうだが、今の俺に相応しい呼び名だろう?
王として振る舞う常に餓えた怪物。
どれだけ人のように振る舞おうと、生き物としての本質を果たしていない現状において俺は、獣にも劣るナニカなんだろうな。
そんな俺が現在興味を示しているのは、彼らを俺の下に導いた能力の持ち主。
すぐに顔を合わせたのだが、力を使うためには場が必要とのことだった。
なのでそれを用意し、儀式の準備ができたら会うということに。
そして今日、ようやくその準備が終わったらしい。
「すぐに行くぞ、そう伝えておけ」
「は、ハッ、畏まりました!」
王としての威厳など、自分にあるか分からないが、それっぽく振る舞えただろうか?
武具っ娘であり、覚醒したゴーを纏えば完璧だろうが……今は縛り中だからな。
彼らが俺に尽くそうとするように、俺もまた彼らの期待に応えねばなるまい。
最悪、食事をすればすべての問題が解決するので、せめてらしさは保っておこう。
◆ □ ◆ □ ◆
神社
もともとはただの木像を置いていたらしいが、古臭いとか景観に合わないとか適当なことを嘯いて神殿を造ろうとした……のだが、なぜか目の前には神社が存在する。
いやまあ、やったのは俺だから理由は知っているけどさ。
軽く呟いたらそれを聞き取られて、神社にしてくれと懇願されたからだな。
「神、か……運営神や別世界の神を除けば、初めて意思を確認できる個体だ」
神には二パターン、意志ある神とそうでない神が存在する。
前者のほぼすべてが沈黙させられ、後者は運営神に従属させれているのが現状だ。
リオン曰く、人から神になった奴が基本的に前者なんだとか。
また、神が眷属として用意したり、その配下として用意した使徒が進化したのが後者。
彼ら狗妖獣たちを救ったのは、そんな神様なのだ。
もっとも適性のあった者に神託を下し、俺に押し付けた張本人(神)。
「しかしまあ、どうして他の誰でもないこいつらを救ったのかが謎だ。種族の神はそのすべてが代理になっていて、運営神の望むように種族をコントロールしている。だから、こういう地味なことには関わらないはずだ」
地味、少なくとも超常的な存在である神の中には、生物の生き死にをそう捉える者も。
だからこそどんな神であれ、今回の一件を行った理由が分からないのだ。
それまで特段、何かを信仰していたわけではないという。
ただ当てもなく日々に感謝していたら、ふと下りてきたんだとか。
「けど実際に、救われている。それが偽物であろうと、やったことに変わりはない。俺の存在を知ったうえで、そこに行くように伝えた。死地に向かわせたつもりなのか、それとも救われると確信したうえで伝えたのか」
どちらとも取れる、その選択。
仮に神だった場合は、神社という場所の効果で詳細を聞くぐらいはできるだろう。
そうでなかったとしても、現人神である俺より格下なら強引に聞き出せる。
そのために、更なる飢餓感が俺を襲うことになるだろうけどさ。
鳥居を躱し、境内を歩いて本殿へ。
そこで待つのは、犬妖獣の中でその神らしき存在の声を聴いた者。
「──お待ちしておりました」
「ああ、腹を空かせて待っていた。どうかその神とやらが、俺を満たしてくれるナニカをくれればいいんだがな」
巫女服姿で立つワンコ。
なんともシュールな光景だが、今はそれよりも気にするべきものがある。
……さて、俺に偽善をやる機会をくれたのは、いったいどんな奴なんだか。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
秘宝を集めし領主~異世界から始める領地再建~
りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とした平凡なサラリーマン・タカミが目を覚ますと、そこは荒廃した異世界リューザリアの小さな領地「アルテリア領」だった。突然、底辺貴族アルテリア家の跡取りとして転生した彼は、何もかもが荒れ果てた領地と困窮する領民たちを目の当たりにし、彼らのために立ち上がることを決意する。
頼れるのは前世で得た知識と、伝説の秘宝の力。仲間と共に試練を乗り越え、秘宝を集めながら荒廃した領地を再建していくタカミ。やがて貴族社会の権力争いにも巻き込まれ、孤立無援となりながらも、領主として成長し、リューザリアで成り上がりを目指す。新しい世界で、タカミは仲間と共に領地を守り抜き、繁栄を築けるのか?
異世界での冒険と成長が交錯するファンタジーストーリー、ここに開幕!
卸商が異世界で密貿易をしています。
ITSUKI
ファンタジー
主人公、真崎隼人。
平凡ながらも上等なレールを進んできた彼。仕事思う所が出てきたところだったが転機が訪れ実家の卸商を継ぐことに。
その際、ふと異世界への扉を見つけ、異世界と現代両方での商売を考え始める。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる