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偽善者と獣たち 二十七月目
偽善者と飽くなき徒労 その06
しおりを挟む「……つまらん。要はアレか、貴様らの主が狩りをするために適当な場所を狙ったと。そして、それはここも含まっていたわけだ」
『…………』
「だがここに来れば殺される。ならば、一つの場所に固執させたい。それゆえに、普段よりも徹底して血祭りに上げることで、自分たちが派遣されることを防ごうとしたと……つまらぬな、本当に」
「……なんだ──ッ!」
事情を聞いたが、その時間を無駄にしたと思えるほどにつまらなかった。
なんというテンプレ、なんという茶番……そして、なんという偽善の甲斐がある展開!
今だけは【暴食】の飢餓感も忘れ、没頭することができる!
嗚呼、いったい何をしようか……血湧き肉躍るじゃないか!
「まずは、処刑を始めよう。俺様の領地を踏み込もうとした、愚かな輩へ」
「ま、待って──」
「死ね──“暴喰の牙”」
指定をせず、ありとあらゆる物を喰らう牙の虚像を生みだす。
大きく顎を開いたときのみたく、上下に展開し──無慈悲にそれらで挟み込む。
漏れ出す物は何もない。
すべてを喰らう、そこには血や肉片だけでなく存在そのものも含まれる。
その生のすべてが、俺の糧となった。
「……はずなのにな。今は、全部隔離されて糧にできない。はぁ……腹が減る」
そもそも発動に満腹度を消耗するのも、発動すればほぼ確実に満腹度が上がるから。
なのに、今の縛りではそれが封じられている……ただ減るだけだからな、少しヤバい。
発動前は偽善スイッチ的なモノが入っていたから、ノリノリで発動できた。
しかし、ある程度テンションが戻れば……また飢餓感が襲ってくる。
「あ、あの……」
「ああ、貴様らはどうする? 俺様はもう領地に帰るが」
「ぜ、ぜひお供を!」
「好きにしろ。だが、例の奴には話をしてもらうからな」
彼らが俺の場所に来たのは、視覚系の能力で何かを視たから。
千里眼系の視力拡張ならまだしも、それが未来視系なら……魔物でもスカウトしたい。
まあ、先にいろいろとやらなきゃいけないことがあるんだがな。
……これで二度目だ、サクッと準備を済ませようじゃないか。
◆ □ ◆ □ ◆
「魔導解放──“一夜の夢なる大国家”」
ほぼ枯渇しきっている満腹度を消耗し、発動するのは創造の魔導。
俺の支配地として確保した、海沿いの何も無い大地を魔力で覆う。
すると、地面が流動し始める。
支配地の至る所で建物が……この大陸には無い技術の結晶が、突如として生まれた。
それだけではない。
この魔導は先にも語ったように、創造が元となっている……建築や建造ではなく、生みだすことが本質にあるのだ。
魔物たちは驚愕している。
まあ、使われた魔力の量や、そもそも理解できない事象に戸惑っている、という感じがするんだけど。
「こ、これはいったい……どうして、この地に森林や大河が!?」
国とはただ建物だけが並べば良い、というわけでもないだろう。
なのでこの魔導は、国としてある程度よく回るための環境も整えられる。
地脈などに干渉するため、魔導の中でも消費する魔力量は割と多い方だ。
どんな魔法初心者でも、その魔力を一発の魔力に籠めれば一度だけ最強になれる。
「俺様の力だ。貴様らが俺に従属するのであれば、ある物を除いてすべてを与えよう。溢れる自然、温かな寝床、そして……安全な住処。健やかに生きるための環境、それらはある物を除いて貴様らの自由だ」
「あ、ある物とはいったい……」
「飯だ。その日に得たすべてを俺様に捧げ、貴様らはその食べかすだけ。それが無い日もあるかもしれないが、仕方ないと割り切れ」
『っ……!』
特に……というか、まったく意味の無い条件で彼らを脅す。
俺は食べないから、実際には捧げた分は自分たちで食べられるんだけど。
まあ、別にそんな覚悟が欲しいというわけじゃない。
それでも彼らは真剣に悩む……その光景こそ、俺が観たかったモノ。
「本当に、私たちは自由なのでしょうか?」
「俺様というルールの下にな。力が欲しいな力を、財宝が欲しいなら財宝を、従属させたいヤツが欲しいならそれもくれてやる。だが飯だけは、俺様の物だ。それでも良いのあれば、貴様らを受け入れよう」
「…………分かり、ました。やはり貴方様こそ、祈祷師の視たお方。どうかその御力で、私たちを……導いてください」
導きかぁ……。
もしかして、とも思うが今はいいだろう。
俺の予想以上の展開を、彼らは魅せてくれた……普通拒否するぞ、この提案って。
「よろしい。ならば受け入れよう、この地は俺様の統べる場所。何人たりとも犯すこと叶わず、何人たりとも不自由になることもない楽園──貴様らを俺様の配下と認め、忠誠を誓うことを許そう!」
『ありがたきお言葉!』
「俺様は腹が減った、何も食わねばいずれ死ぬ。そうなれば、貴様らの楽園はすぐに費えるだろう。そうならぬためにも、俺様に飯を捧げ続けるのだな」
「忘れませぬ。何があろうと、貴方様に最上の食糧をお捧げ致します」
……魔物って、いい環境に居れば食料は不要なんだよな。
そしてこの国は、すべてがよりよい環境でできていた。
うん、つまりそういうことである。
彼らは普通に生きる分には、餓死することもなくやっていけるのだ。
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