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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と飽くなき徒労 その02

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「……っと、消費はするからなー。あんまり力は使わない方がいいのか」


 斧で海をち割り、終焉の島からの脱出を図った俺。
 その目的は……正直特に無いのだが、モノのついでとばかりに行っていた。


「眷属の大陸を見つけるのもいいか。まあ、俺の運じゃ無理だろうけど……全部探せば、必ずどこかは該当するよな?」


 この世界での俺の運は、邪縛によって最低値な上に凶運認定されている。
 実際、確率系の事象において、手を加えなかった場合の成功率は極端に低い。

 探し物をしたとしても、見つけづらくなくとも見つからないだろう。
 スキルを使えばどうにかなるが……現在は縛り中、多大な消費は抑えておきたい。


「……やっぱりあのスキルって便利だったんだな。わざわざ補給しなくても、無限に回収できたわけだし」


 今の俺は、とある数値が常に減少する状態にある。
 それは人として至極真っ当なのだが、これまではその機能を停止させていた。

 あるスキルで封じ、また異なるスキルで補い、それとは違うスキルで満たす。
 そんな三段構えをすべて取っ払った今、だいぶ限界に近づいていた。


「けど、耐えないとな……解除できなかった分は、自分で消費しないといけないし」


 これまで停止させていた分、その余剰がかなり残っている。
 今回の縛りの目的は、それを一度枯渇させることにあった。

 特に意味は無い、意味は無いが……ローベのヒントから実行したいと思ったのだ。
 仮に何もなかったとしても、スキル習得のヒントになるかもしれないからな。


「──ん? 終焉の島の海域はもうすぐ超えられるか。しかしまあ、結界をちゃんと張っているとは……なんと念入り」


 終焉の島から出た時点で障害を用意しているというのに、さらに外側にも妨害を。
 ただ、こちらは脱出よりも侵入を防ぐ用の仕掛け……救出されないようにか?


「こんな場所まで救いに来てもらえる奴、誰かいたっけ? いや、運営神が何もしてないなら結構いるかも」


 奪われたリア、魔獣化を強制されたクエラム、守り切れなかったフィレル。
 彼女たち自身に罪がないので、救いたいと思う奴らはいたかもしれない。


「けど、結果は全員俺が総取り……隠蔽が凄いのか、それとも俺が行ったのはまだ想定外だったのかのどっちかだな」


 すでに終わった話、もし生きているならば彼女たちと会わせるつもりだ。
 クエラムに関しては一悶着ありそうだが、そこは……うん、責任を取ろうか。


「今は先に、結界を突破しないと。破壊するとバレるし、転移系は不可能となると……魔導解放──“神ずり鬼没する”」


 膨大な魔力を対価に、望むイメージを現実のものとする魔導。
 確実に一回で成功させるため、魔力の量を増やすことで実現に挑む。

 今回のモチーフは神出鬼没。
 効果は──存在隠蔽と自在転移。


「できないからこそ、やればいい。幸い、魔力は無尽蔵にあるからな……消費量が増えるから、どんどんあっちは減っていくけど」


 今回、[永劫回路]は使っていない。
 代わりに縛りで使っているモノを消費することで、魔力回復を急速に行っている。

 だがそれは補給されない以上、使えば使うほど減っていく。
 ゼロになる前から体に警告が生じ、俺の体は自然と弱ってしまう。


「これが、昔は当たり前だったのに……慣れは恐ろしいな。しかしまあ──腹が減って仕方がない」


 うん、今回の縛りは食事制限。
 食べることは禁止だし、その代替行為も実行不可能にしてある。

 理由は欲に忠実、的な意味合いのヒント。
 一、二位の欲は満たしているので、三つ目の欲──【暴食】を試すことになった。

 だが極限の飢えを俺は知らない。
 日本という恵まれた環境で過ごしていたからこそ、真の意味で生きるために喰らうということを経験したことがないからな。


「結界は突破できたし、もっと先に行こう。けど……波が荒いし、ここから先にしばらく何もないんだよな」


 迷った人たちがここに来ないよう、終焉の島は海の果てに存在する。
 空は雲で覆っており、嵐が外を囲うため認識できない……そういう場所なのだ。

 そう、嵐。
 結界の外は嵐で包まれているため、現在の俺は嵐の中に立っていた。

 立つこと自体は“水上歩ウォーターウォーク”のお陰でできているが、激しく揺れ動いている。
 魔法で補えるのは、あくまで地形だけ……そこが揺れるとこまではサポートされない。


「修行にいいかもな──『土堅』」


 地面に根を張り、どっしりと構えることで防御性能を挙げられる──精霊術。
 練習は日々続けていたので、足元が地面で無くとも使えるようになっていた。

 波に流されるがままに、揺れ動く。
 嵐も海流も、流れは侵入者を排除するために軌道を描いているので、耐えられさえすれば島から離れられる。


「これまでは派遣ができなくて外は調査してなかったから、楽しみではあるよな。島の先には、初期地点の大陸より向こう側の世界では何が起きているのか……」


 きっと未知の冒険が待っており、そこには盛者必衰や弱肉強食が渦巻いているだろう。
 そして、居るはずだ……死の危機に瀕し、藁にも縋る思いの偽善対象が。

 ──腹は空くが、きっとそれで満たされるはずだろう。

 新しい冒険が、俺を待っている!


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