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偽善者と獣たち 二十七月目
偽善者と飽くなき徒労 その01
しおりを挟む終焉の島
「……はぁ」
曇天が覆い、日が出ることはいっさい無いどんよりとした地帯。
今思えば、聖霊樹の力を少しずつ削ぐ目的もあったのかもしれない。
「まあ、ユラルは俺と契約した時点で供給源の確保ができたし、そもそも無くても活動できていたから無駄だったんだが……全部は把握してなかったってことか」
かつてここに俺は飛ばされ、島を巡った。
島のあちこちには封印が施されており、そこを解除してみれば色んな意味で厄介な者たちが詰め込まれていたわけだ。
誰も彼も、外に出せば問題を起こす。
ただしそれは自分の意思とは関係なく……いやまあ、ごく少数は自発的だけど。
そんなこんなで封印され、ここにいた。
俺はそんな奴らを全員眷属にして、ここから連れ出す。
故にここは、もう意味を成さない隔離施設でしか無いのだが……他にも意味ができた。
「ちょうど祈念者の大陸の反対側なんだし、ここから冒険を始めよう」
念のため[世界書館]スキルの応用で、自動的に脳内マップを更新している。
これは祈念者のシステムである[マップ]とリンクし、便利な情報を提供する予定だ。
ちなみに座標は不明。
これにはちゃんとした理由があるのだが、今は……うん、止めておく。
まあ、転移は可能なので気にしていない。
「準備は万端……とはいかないけどな。縛りプレイの真っ最中だし、何より誰一人として付き添いがいないから」
代わりにライブ配信のように、暇な眷属が現在進行形で俺を見られるわけだが。
……自意識過剰は無いし、視られたい性癖も無いので普通に恥ずかしい。
だが、それで妥協してもらわねばならないのが今回の縛りである。
いや、正確には──そうしないと、その場の眷属を巻き込んでしまいそうだからな。
「視界は不鮮明、天気は最悪、海は……言うまでもなく荒れ狂っている。絶好の冒険日和とは、口が裂けても言い難いな」
崖から広がる海を見下ろし、そんなことを呟いて──落ちる。
すぐに水魔法“水上歩”を発動、俺は着地ならぬ着水(表面)に成功した。
「っとと。ここまでは問題ないか……けど、一歩でも踏みだせば始まるわけだ」
終焉の島は隔離施設。
要するに、逃げようとすれば何かしらのペナルティが生じてしまう。
俺はそれを[眷軍強化]でサクッと突破したが、普通はできない。
絶海の孤島なので、移動手段は空か海──魔法による転移は、本来封じられている。
空に挑めば大量の魔物に加え、使徒が呼ばれてしまう。
もし一体でも運営神との連絡を取り合っていれば、いろいろとバレてしまうからな。
だが海を攻めても、使徒は出てこない。
代わりに配置している魔物たちが厄介で、用意できなかったというのも、あながち間違いでもない気がするが……。
「だからこそ、突破できる──[裂覇]」
呼び出しに応じ、現れたのは両刃斧。
刃の側面には緻密な術式が刻印され、一度力を籠めればそれらが鮮やかに光り輝く。
「対象は海、イケるか?」
問いかけへの返事は輝きにて。
術式の色が対水関係のモノとなった証に、真っ青に斧の色が染まった。
俺は斧を両手で握り締め、上にかざす。
刻まれた術式すべてに等しくエネルギーを注ぎ、荒れ狂う波に揉まれながらその瞬間を見出す。
「なら結構──“破界伐採”ッ!」
振り下ろし、水面に叩き付ける。
しかし水飛沫など跳ねず、代わりに起きるのが能力の効果。
スッと海の中へ降りた斧は、術式を経由してその力を外部へ解き放つ。
斬撃のように、軌跡が描かれるわけではない──ただ、当てた場所に罅が入る。
「海は一種の世界だもんな。うんうん、これが発動してよかったよかった」
万象を断ち切り、次元すら切り拓く神器。
世界樹を伐り落とすイメージがあったからか、対象は対象が世界に関するモノのみというピーキーな性能を誇る代物となっている。
まあ、使うこと自体はできるし、それなりに伐り落とすことはできるが……少なくとも今のような現象は起こせない。
「っと、海竜もクラーケンもお構いなし。あれもあれで、レベルが250超えの個体のはずだったんだがな」
隔離のために何かしたのか、魔物という存在のまま限界を突破した警備員たち。
だが、それらすべてが伐採の影響によって打ち砕かれていく……海ごと散っているよ。
「大量の経験値が……リーに回しておこう」
俺の現在のレベルは参考にならないが、四桁を突破している。
上げるよりも配った方が使いようがあるので、それができる神器を頼った。
それこそが『神呪の指輪』。
内部に存在そのものとも呼べる経験値を貯蓄し、溜め込むことができる。
おまけに本来の分配されるべき場所とは異なる部分に、その経験値を割り振ることができる……他の存在を糧に、無限に強くなることができる──まさに神器であろう?
「指定は海だったからな、空は壊すとバレるからやんなくてよかったか……でも、どうせなら晴れていてほしかったな」
海は砕けたが、膨大な水はそれを補うようにすべてを消し去った。
俺は再び水面に乗り、歩を進める──何事も無かったかのように。
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