1,746 / 2,518
偽善者と獣たち 二十七月目
偽善者と飽くなき徒労 その01
しおりを挟む終焉の島
「……はぁ」
曇天が覆い、日が出ることはいっさい無いどんよりとした地帯。
今思えば、聖霊樹の力を少しずつ削ぐ目的もあったのかもしれない。
「まあ、ユラルは俺と契約した時点で供給源の確保ができたし、そもそも無くても活動できていたから無駄だったんだが……全部は把握してなかったってことか」
かつてここに俺は飛ばされ、島を巡った。
島のあちこちには封印が施されており、そこを解除してみれば色んな意味で厄介な者たちが詰め込まれていたわけだ。
誰も彼も、外に出せば問題を起こす。
ただしそれは自分の意思とは関係なく……いやまあ、ごく少数は自発的だけど。
そんなこんなで封印され、ここにいた。
俺はそんな奴らを全員眷属にして、ここから連れ出す。
故にここは、もう意味を成さない隔離施設でしか無いのだが……他にも意味ができた。
「ちょうど祈念者の大陸の反対側なんだし、ここから冒険を始めよう」
念のため[世界書館]スキルの応用で、自動的に脳内マップを更新している。
これは祈念者のシステムである[マップ]とリンクし、便利な情報を提供する予定だ。
ちなみに座標は不明。
これにはちゃんとした理由があるのだが、今は……うん、止めておく。
まあ、転移は可能なので気にしていない。
「準備は万端……とはいかないけどな。縛りプレイの真っ最中だし、何より誰一人として付き添いがいないから」
代わりにライブ配信のように、暇な眷属が現在進行形で俺を見られるわけだが。
……自意識過剰は無いし、視られたい性癖も無いので普通に恥ずかしい。
だが、それで妥協してもらわねばならないのが今回の縛りである。
いや、正確には──そうしないと、その場の眷属を巻き込んでしまいそうだからな。
「視界は不鮮明、天気は最悪、海は……言うまでもなく荒れ狂っている。絶好の冒険日和とは、口が裂けても言い難いな」
崖から広がる海を見下ろし、そんなことを呟いて──落ちる。
すぐに水魔法“水上歩”を発動、俺は着地ならぬ着水(表面)に成功した。
「っとと。ここまでは問題ないか……けど、一歩でも踏みだせば始まるわけだ」
終焉の島は隔離施設。
要するに、逃げようとすれば何かしらのペナルティが生じてしまう。
俺はそれを[眷軍強化]でサクッと突破したが、普通はできない。
絶海の孤島なので、移動手段は空か海──魔法による転移は、本来封じられている。
空に挑めば大量の魔物に加え、使徒が呼ばれてしまう。
もし一体でも運営神との連絡を取り合っていれば、いろいろとバレてしまうからな。
だが海を攻めても、使徒は出てこない。
代わりに配置している魔物たちが厄介で、用意できなかったというのも、あながち間違いでもない気がするが……。
「だからこそ、突破できる──[裂覇]」
呼び出しに応じ、現れたのは両刃斧。
刃の側面には緻密な術式が刻印され、一度力を籠めればそれらが鮮やかに光り輝く。
「対象は海、イケるか?」
問いかけへの返事は輝きにて。
術式の色が対水関係のモノとなった証に、真っ青に斧の色が染まった。
俺は斧を両手で握り締め、上にかざす。
刻まれた術式すべてに等しくエネルギーを注ぎ、荒れ狂う波に揉まれながらその瞬間を見出す。
「なら結構──“破界伐採”ッ!」
振り下ろし、水面に叩き付ける。
しかし水飛沫など跳ねず、代わりに起きるのが能力の効果。
スッと海の中へ降りた斧は、術式を経由してその力を外部へ解き放つ。
斬撃のように、軌跡が描かれるわけではない──ただ、当てた場所に罅が入る。
「海は一種の世界だもんな。うんうん、これが発動してよかったよかった」
万象を断ち切り、次元すら切り拓く神器。
世界樹を伐り落とすイメージがあったからか、対象は対象が世界に関するモノのみというピーキーな性能を誇る代物となっている。
まあ、使うこと自体はできるし、それなりに伐り落とすことはできるが……少なくとも今のような現象は起こせない。
「っと、海竜もクラーケンもお構いなし。あれもあれで、レベルが250超えの個体のはずだったんだがな」
隔離のために何かしたのか、魔物という存在のまま限界を突破した警備員たち。
だが、それらすべてが伐採の影響によって打ち砕かれていく……海ごと散っているよ。
「大量の経験値が……リーに回しておこう」
俺の現在のレベルは参考にならないが、四桁を突破している。
上げるよりも配った方が使いようがあるので、それができる神器を頼った。
それこそが『神呪の指輪』。
内部に存在そのものとも呼べる経験値を貯蓄し、溜め込むことができる。
おまけに本来の分配されるべき場所とは異なる部分に、その経験値を割り振ることができる……他の存在を糧に、無限に強くなることができる──まさに神器であろう?
「指定は海だったからな、空は壊すとバレるからやんなくてよかったか……でも、どうせなら晴れていてほしかったな」
海は砕けたが、膨大な水はそれを補うようにすべてを消し去った。
俺は再び水面に乗り、歩を進める──何事も無かったかのように。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる