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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と銀の扉 後篇

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 突然のゴーの覚醒。
 いやまあ、もう武具っ娘の全員が覚醒はできる状態で、呼びかけさえすれば起きるとは言われていた……けど、今呼んだっけ?


《知れたことを。この我を呼び覚ます篤き衝動、【傲慢】さを感じたぞ》

《そ、そうだぞ! さ、さすがはオレのプライドだ!》

「プライド……最高とか群れの長とか、そういう感じの意味か? 我ながら、よくそんな言葉の意味を覚えていたな」

《オレとお前は一心同体、その膨大な叡智はありがたく使わせてもらうぞ》


 なんだか、盛り上がりつつある黒い歴史の権化たち。
 共に【傲慢】の象徴だから、通じ合うものがあるのだろう。

 これまで、武具っ娘と人格たちが接触することは無かったからな。
 人格で覚醒しているのは【怠惰】のリープと【色欲】のローベだけ……そりゃ会わん。


「二人とも、そこら辺で。ゴー、あとでみんなでお祝いをするから受肉してくれ」

《……ふっ、同朋よ。では、またな》

《ああ、約束の刻は近い……》

「お前ら、俺が繫がないと接触できないからな。そこんとこ、忘れるなよ」


 武具っ娘たちは『機巧乙女』によって受肉するので自立活動が可能だが、人格たちはあくまでも俺の思考内における存在……俺を介さない限り、両者の接触はありえない。

 もし二人がまた会いたいというのならば、俺が彼女たちを繋げる必要がある。
 そして、維持をするのならばその場に居らねばならなく……くっ、沈まれ俺の過去!


「ゴーはほら、速く受肉して姿を見せてくれよ。今、マントが喋っているようにしかまだ見えてないからな」

《なんと! ふむ、では世を忍ぶ仮の姿を生みだそうではないか》

「そうだな──よいしょっと。ふぅ……そろそろ戻るとするか」

《あっ、ちょっと待って》


 ゴーを外部の『機巧乙女』へ転送させ、自分の外へ出ようとしたところで……ローベから待ったが入る。


《確認したいことがあるんだけど……》

「……ああ、いいぞ」


 ゴクリ、体はあくまで想像上のイメージでしかないのに、唾を嚥下する挙動をしてしまう……先ほどの宣言は、もしかして──


《──二人を合わせるために、条件として体でも差し出させる気なの!?》

《そ、そそそうなのか!?》

「……お前らは俺だろ。言わねぇよ、そんなこと。武具っ子は家族、お前らは俺の一部。要求する理由なんてないだろ」


 ローベはそうなのねぇと笑う。
 うーん、彼女なりに気遣っているという可能性も無きにしも非ず……けど、ほとんどからかいたいから言っただけだな。


《まぁ、自分の一部だなんて……きっとマストにひどいことをするつもりよ!》

《そ、そそそうなのか!?》

「……ローベに騙されるな。ソイツ、具体的に何とか言われたら、何も返せないぞ」

《そ、そんなわけないじゃないの! たとえば……た、たとえば……そ、そんなこと言えるわけないじゃないの!》


 ちょっと言葉を足しただけで、全然違う内容になったな……いや、ある意味同じか。
 何度も言うが、ローベを形作る一部は俺の【色欲】……うん、残念な欲望だ。

 なので【怠惰】のようにストレートな欲と違い、だいぶ本質からズレている。
 リープが真面目に【怠惰】なのに対して、ローベが初心すぎるのはそれが原因だな。


「ローベ、追及はしないし全部満たせば教えてくれるってリープが言ってくれた」

《リープ!》

《ん。約束した。けど、ダメ?》

《……そうね。全員を起こせるなら、それでもいいのかしらね。武具っ娘とわたしたち、二組を揃えられるならね。なんだか萌える展開じゃない? ペアを集めるってイベント》


 燃える方が……いや、萌える方がいいや。
 人格たちは受肉できない、それはリープに手伝ってもらって分かっている。

 そして、それでも方法はあると言われた。
 こういうときじゃなくて、日常会話の最中に言うあたり、さすがはリープだろう?


「そういえば、最後に一つ……結局のところマストって、どんな条件で覚醒したんだ?」

《ふっ、決まっておろう。オレよりもプライドの方が劣っている、そう証明されたからだろう!》

《ん。メルスは一回死んだ、ちゃんと。自分で認めて……それが理由》

《死を受け入れ、抗わなかったからこそ条件が満たされたわけね。いい死にっぷりだったわよ、君》


 条件達成はアイの試練だったわけだ。
 蘇生も仕掛けも何もせず、ただ相打ちでの死による決着で終わった試練……そこに、もう一つの意味があったのか。


「他の奴も同じような条件なのか?」

《ん。【怠惰】は他者に委ねること》

《【色欲】はアレね。【傲慢】は君が死ぬことだったけど……ありのままを、欲を曝け出せばすぐに終わるわよ》

「欲、ねぇ……自粛している俺に、結構ハードルが高い内容だな」


 普段から一定以上の想いは{感情}が封殺するため、中途半端な欲しか出てこない。
 それでも発露させる、今までやったことのない課題である。


《とにかく頑張りなさい。わたしもリープもマストも、ここで観ているから》

《ん。困ったら呼んで?》

《現界にはちと早いが……ふっ、いつでも構わないぞ》

「リープ、ありがとうな。約束する、どうにもならなくなったら呼ぶよ。これも、立派な会いたいって欲だしな」


 後ろでギャーギャー言っている奴らはさておき、リープにそう誓う。
 その選択が間違いではなかったことを……眠り始めた姿を見て理解するのだった。


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