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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と銀の扉 前篇

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 ???


 誰も居ない、眷属も俺が招き入れなければ入ることのできない心象世界。
 俺以外入ることのできない……しかし、俺であれば自由に出入りできる場所。


《ん。久しぶり?》

《ご無沙汰ね》

「……久しぶり、リープ。ローベ、その言い方はずいぶんと含みを感じるんだが?」

《けど、実際数は減ってるじゃない。これがいわゆる……倦怠期! かしら?》


 俺というモブが持つ小さな欲望。
 それらがスキルによって抽出され、増幅されたうえで独立した存在。

 ……まあ、俺の理想や武具っ娘たちの影響があるからか、その人格は全員が女。
 まだ二人しかいないが、間違いなく全員が女なんだろう。


「なんで来たか、分かるか?」

《ん。条件達成、おめでとう……これ?》

「ありがとう……いや、まったく知らなかったけどな。ちなみに理由は?」

《あらら、自分のことなのにね……わたしのときも、そうだったのかしら?》


 ここに来た理由は、なんとなくだった。
 だがそれは、かつてローベと初めて邂逅する前にも覚えた感覚があったからだ。

 そして実際、それは正しかった。
 もっとも、その感覚はとっくの昔に起きたものだったんだけど……まあいっかと思って放置していたのだ。


「まあ、そうだな……まさか、アレが理由で達成できるなんて思うわけないだろう」

《見事にセイコウしたんだから、いいじゃないの。今回はもっと簡単な話よ──自分であの扉を開けて、訊きなさい》

「……それ、具体的に説明できるか?」

《そそ、そんなこと簡単よ! ……うぅ》


 恥ずかしいなら言わなければいいのに。
 少しカウンターをぶつけるだけで、これまでのお姉さんっぽい振る舞いが消える。
 ……あくまで、俺の一部だからな。

 この空間には扉が七つ存在する。
 それぞれ『侵蝕』の色の合わせてたカラーリングの扉で、そのうちの二つはすでに開いていた。

 今回、開けることができるという証に光り輝いているのは──銀色の扉。
 中から出てくるのも……当然、それに対応した人格である。


「……出てきた瞬間に、主人格は自分だとか言わないよな?」

《安心しなさい。別れたとはいえ、メルス本人よりも特定の欲が強いだけ。普通は、そこのところを弁えているわよ》

「……普通は、ねぇ」

《そりゃそうよ。ともかく、さっさと開ければいいじゃない》


 ごもっともな意見で……。
 相手はある意味『俺』自身なので、自分を納得させる暴論にも長けている。

 ちなみにリープは就寝中。
 俺がずっとも悩んでいるせいで、眠くなってしまったようだ。


「仕方ない、開けるか」


 銀色の扉の前に立ち、掌を載せる。
 すると銀色の発光が明るさを増し、失明するレベルで光り輝く。

 すでに経験済みなので、俺はスキルで光を完全にシャットアウトしていた。
 二人ももちろん……って、あ。


《きゃああああああああああ!》

「あー、そういえばローベは出てくる側だったもんな。知らなくて当然か」

《ちょ、ちょっと、そういうことは初めから言っておきなさいよ!》

「悪い悪い……それよりもほら、来たぞ」


 門の背にして逆光とする。
 そして、なぜか香ばしいポーズを……取っているように思える人格がそこには居た。

 人格である彼女たちなので、実際には俺がそれを認識することは無い。
 だが、なぜだろう──【傲慢】の扉から出てきたというだけで、それが連想できる。


《ふはっ、ふはははは! ずいぶんと待たせたな我がライバルよ! このオレを、いったい誰と心得ている!》

「……俺の一部」
《我がままの権化よね?》
《……Zzz》

《え、ええい! このオレを誰だと思っている! 誰よりも最高で崇高で、崇拝されし我が名は──名は…………俺ぇ》


 出てきてから名前を定着させているので、彼女にはまだ名前がない。
 だと言うのに、カッコよく名乗りを挙げようとするから……俺に似て、残念なヤツだ。


「──『マスト』だ。宣言通り、最高mostに与えられるべき名前だろう?」

《うん! ……こ、コホンッ。我が名はマスト! 傲慢を司りし存在にして、偉大なる■■である!》

「……ん? 今、聴けなかった部分があったような気が……」

《あわわわわ。な、なんでもない! 何でもないからな! そ、それよりも俺よ、もっと他に言うべきことがあるだろう!》


 俺が何かに気づきかけるところを、必死に抑えようとするマスト。
 ……まあ、俺同士で隠し事は無理なはずだけどな。

 抽出した俺の欲を、増幅させて人格まで至らせたのは間違いなく<大罪>たち。
 そこに潜むナニカこそ……この娘たちを動かす原動力なのだろう。

 まあ、今は分からなくてもいいだろう。
 ずっと前にリープと話したときも、全員を覚醒させたらちゃんと話をしてくれるって教えてくれたからな。

 今はマストの期待に応えよう。
 一時的に羞恥心を{感情}で消し去り、香ばしいポーズととある装備を取りだして──勢いよく叫ぶ。


「俺の名はメルス! 凡人にして、【傲慢】たるマストを統べし者! いずれはすべての罪を従え、やがては──魔神に至る者!」


 金の刺繍が入った漆黒のマントを靡かせ、バサッと広げてからそんな発言を。
 最後のヤツは思い付きなんだが……うん、驚きのイメージが伝わってくる。

 まあ、気にしないでおこう。
 隠されたままで最後まで行き、最初から知れていれば……という展開が嫌なだけだし。

 それよりも今、気にしなければならないことがある。


《──それでこそ、我を統べし者だ!》


 再び世界の内部が銀色に輝く。
 だが、それは門ではない……身に纏っていた『虚絶の円套』。

 ──そこに眠っていた自我の蕾ゴ―が、目覚めたことを祝おうじゃないか。


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