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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と橙色の調査 その09

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「──よく来たな、メルス。裁判以来か……調子はどうだ?」

「ああ、結構いいぞ。いろんな人たちが、俺の心配をしてくれていたしな。おはようからおやすみまで、いつでもどこでも見てくれていたんだろう?」


 王城を訪れ、軽口を叩く。
 不敬罪に値する言動だが、一番最初の会話でそれが許されて以降、獣王がそれを訂正していないため裁かれない。

 いや、獣王であれば撤回していつでも裁くことができるだろう。
 しかし……わざとらしいほどニヤついたその笑みは、間違いなくそれを行わない。


「お前は契約を果たすと言った。そして、願いまで告げた。周りはそれを抹消しようと一苦労したみたいだが……俺はたった一言も、約束を違える言葉を言ったつもりはない」

「さすがは王様、心強いお言葉。まあ、レシピを奪われたり支援の妨害をされたり、いろいろとあったが……ちゃんとできたぞ」


 俺の言葉に動揺するのは、これまでこっそりとボディーガードをしてくれた人々。
 依頼されて、いつも見守ってくれていたからな……アイテムを作り上げる瞬間を。


「ば、バカな! 貴様がそんなことをしている時間など……貴様はポーションしか作っていなかったはずだ!」

「おやおや、これはこれは王家御用達の商会様。いつもの営業スマイルはどこへ? ……なんて手間のかかる説明は後だ。今は王様、そして姫様に完成した品を見せないとな──クエラム、来い」


 クエラムは遠征中、たとえ俺が名を呼んでも来ないと高をくくっていたのだろう。
 しかし俺の掌には印が存在し、いつでも眷属を呼ぶことができる。


「うむ、待たせたな!」


 ──なんて話とはまったく関係なく、クエラムは天井を突き破って現れた。
 そりゃそうだ、召喚とかしなくても、いつでも念話をすれば来てくれる。


「ば、バカなぁあああ!」

「はっは! なんだ、もしかして今ならギリギリ間に合うとでも? そりゃあ俺のアイテムは、ここにある。殺せば開けられなくなるし、使えるようになる──だが、テメェには無理だよ。ここには、クエラムが居る」

「そ、そんなに褒めないでほしい。己はただメルスにとって、そして家族にとって好ましいことを取っているだけだ」

「貴様、遠征はどうした!? 理由もなく帰還することは、ギルドの規則に反するぞ!」


 クエラムのやっていた遠征は、要するに魔花の増殖前に行う剪定のようなもの。
 微細な花粉に乗ってくる魔花は、防げないが育つ前ならば、強くなくても処理可能。

 遠征は花弁部分に発生した、少々伸びた強い個体を討伐するための物。
 花弁一枚一枚を指定し、処理が終わるか一定期間が過ぎるまでは帰ってこれない。


「遠征の目的など、すぐに済ませたわ。そのうち、他の受注者たちも帰ってくるだろう。己は先んじて帰還し、こうしてメルスとの再会に歓喜しておる」

「そういうこった。残念だったな、偉かった商人様。そして、偉かった人たち」

『っ……!!』

「そういえば、お前ら曰く俺の願い事は破棄されたんだっけ? じゃあ獣王様、代わりに別のことを願ってもいいか──たとえば、王家による徹底した事件の捜査、とかさ」


 王家が手を出す前に、お偉い様がたが処理したからこそ俺は大罪認定された。
 だが、王家の……正義感溢れる者たちに任せれば、結果は変わるだろう。


「ダメだ。俺はお前の願いを却下した覚えはないし、その程度は叶える必要もないだろ。あとでたっぷり、話し合えば済むことだ。それよりも、速く見せてくれ」

「はいはい、分かった。クエラム、取りだすから持ち上げてくれないか?」

「うむ、任せてほしい!」


 造ったアイテムは『収納袋マジックバック』の中。
 入れるのはともかく、中から取りだしてから置くためにクエラムの協力が必要なほど、造り上げたアイテムは重い。

 ズドーンと重々しい音と共に、それは王城に出現した。
 巨大な水晶を機械で押し上げ、周囲にはパイプで円環が造られ、伸びた先には魔石が。

 誰もが見たことが無い、その斬新さを強調するデザインで造られた。
 ……その方が、適当な説明をしてもバレなさそうだしな。


「これがご希望の魔力を貯め込む装置だ。俺自身が使える魔術が少ないから詳細は調べられていないが、理論上は空間を繋げる魔術でも問題なく使えるはず」

「はず、か……どうすれば使える?」

「人が使うようにはできていないぞ? 目的は、あくまで転移とか長距離連絡をするためなんだろう? 俺が造る装置と連結させることで、それを使うことができる。こっちはすでに証明済みだ」


 要するに、システムを暴かない限りずっと俺が装置のすべてを握っているということ。
 このことを恐れていたであろうお偉い様がたの眼ときたら……殺気立ってますよ。


「クエラム、次を」

「ここで──良いのだな?」

「ああ、接続は俺でもできる」

「これは……門、か?」


 王城の壁に立てかける形で、クエラムが設置した巨大な門。
 連結用の穴が存在し、俺が自分で装置と門の接続を行う。


「ただ、座標が問題だな。とりあえず、王城の外に行けるようにすればいいか?」

「ああ、俺が行く」

「お、王よ、危険すぎます!」

「がっはははは! これは俺がコイツに出した依頼、その成果を確認するのも俺の仕事だからな!」


 座標の設定は門から入力し、設定後は門が開くのですぐに分かる。
 周囲で歓声が上がった──その視線の先には、王城の外を映す門があった。


「では、行ってくる」

「さっさと戻ってこいよ。説明、まだあるんだからな」

「ふむ……そうだな。ならば、とっとと帰ってくるとしよう」


 感傷に浸っている時間も勿体ない。
 獣王は高速で門を潜ると、数十秒もしない内にここへ戻ってきた。

 誰もが唖然とした表情を……いや、俺とクエラム以外だと一人だけ違う反応だな。


「ふふっ」


 獣王の隣で門を観ていた少女──王女様だけは、それを当然のように笑っていたから。


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