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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と橙色の調査 その06

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「──指名依頼? クエラムじゃなくて……俺にか?」

「ええ、その通りです。メルスさんに、王家からの指名依頼です。これは大変、大変光栄なことなんですよ──受けますよね?」

「護衛としてクエラムを雇っていいなら。そうじゃないなら断る」


 ランクが6から7になり、もうそろそろ打ち止めかな……と思い始めた頃。
 いつものようにギルドで地道に納品をしようと思った俺を、受付嬢が捕まえた。

 ついに俺の話は上の上、王家にも届いたようで、お呼びが掛かることに。
 だがまあ、無策に行っても何が起こるか分からない……クエラムが必要だ。


「問題ありません。兼ねてより、条件にはクエラムさんの同行が入っています」

「……それって、主目的は俺じゃなくクエラムなんじゃないか?」

「そうかもしれませんね。ですが、名目がそれである以上、謁見は可能ですよ?」


 俺のやり方、そしてパクリ云々でいろいろとあったため、受付嬢の態度もそこまで業務的なものでは無くなった……本当、ギルドに関するイベントをいっぱい経験したな。

 まあ、その中でいつかは王族に会いたいとかそういうことを語っておいたので、良かったですねとそんなことを言ってきてくれる。


「それで、どうしますか? ──受けるか、それとも王城に行きますか?」

「どっちも同じだな……こういうのって、アポとかいろいろとあるんじゃないか?」

「問題ありませんよ。それは今日、それもすぐですので……では皆さん、お願いします」

「…………へっ?」


 俺の疑問に答えるように、ギルドの入り口から甲冑姿の騎士たちが集まってきた。
 彼らは俺の両手両足を掴むと、そのまま外へ連行する。


「……俺、訴えたら勝てるかな?」

「無理なのでは? すでに彼らとは、充分なお付き合いがあるのでしょう?」

「……ですよね」


 受付嬢がそんな態度を取るくらいには、騎士や衛兵の方々にもご迷惑を掛けたな。
 ただ一つ反論することがあるとすれば……大半は、クエラムのやったことですから。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ちなみに俺がやらかしたのは、パクった奴らへの地味な報復だ。
 その結果抵抗を示した奴らが、容赦なくクエラムによって蹂躙された。

 で、揉めたら衛兵が出てきて、それもやられて騎士が呼ばれる。
 最後にはギルドが事情から庇ってくれたのだが、責任をなすり付けすぎた。

 俺は何にもダメージを負っておらず、パクリ生産者とギルド、そして戦いを止めに来た者たちがいろんな意味で傷ついたのだ。

 そりゃあ誰もが怒るさ……当の本人、最後には早退してご飯作ってたし。
 いや、お詫びとして用意したんだけど、全部食べられたんだよな。


「とはいえ、ここが王城か……うん、結構デカいな」


 王城があるのは華都の中央。
 ただ、そこから外へ出るまでの道が一本続きになっている辺り、すぐに戦えるようにしているなぁという感じがある。

 そびえ立つ城も、大きさはそれなりだが防御機構はあんまり見受けられない。
 獣人はあまり魔法への適性がないうえ、この世界だと魔術への適性も低いし。

 魔術は魔力を『装華』が濾過し、純魔力としたもので起動している。
 獣人たちはその魔力の絶対量が少なく、魔術が完成しない場合があるのだ。


「……って、だいぶ話が逸れた。さて、俺はどうして呼びだされたんだか」


 呼び名が『一発屋』で、強者であるクエラムを従えた男……これぐらいの評価か?
 いずれにせよ、高評価ではないことは間違いないだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──よくぞ参った……なんて、かたっ苦しいことは言いっこなしだ。俺が獣王、よろしくなメルス」

「ああ、よろしく獣王さん」


 俺だって敬語ぐらい使えるが、ここの王様は自己申告通りラフな態度を好む。
 獣人族自体、力さえあればだいたいのことは許すんだよな……常識の範囲内で。

 なので挨拶を交わした途端、周囲の騎士の方々から向けられるのは殺意……そして、物理的に槍が。

 だがそれらもすべて、瞬時に砕ける。
 そして殺意も……それ以上の殺意により、すべてが消え失せた。


「貴様ら……メルスに殺気を向けるということは、己に力を振るってほしいと言っているのだな?」

『……っ!』

「がっはははは! 悪い悪い、ちょいと興が過ぎたな! おいお前ら──次は無い、俺の顔を立てて下がってろ」

「クエラム、お前もちょっと待って。それは嬉しいけど、俺も国家転覆とかは望んで無いからな。槍みたいにプライドを砕くのはいいけど、命までは勘弁してやってくれ」


 獣王の言葉にシュンとした騎士たちも、俺の言葉に再び気迫を取り戻す。
 クエラムはそんな彼らのことを気にも留めず、戦闘態勢を解く。

 まるで自分たちに、そこまでする必要が無いと言っているようなものだ。
 気迫も再び砕け、ギリリと歯を食いしばる音が至る所で聞こえた気がした。


「呼んだのは他でもない。お前に頼みたいことがあったんだよ。『一発屋』、いや獣人族に生まれた異端児。お前さんの力で、やってほしいことがある」

「……内容次第だな。いきなり世界を滅ぼす道具を作れとか言われても、費用と時間がだいぶかかるぞ」

「できるのかよ! まあ、そんな物があったら世界より先に国が亡ぶか。それより、お前の技術で作れるか? ──他の華都とここを繋げられる道具は」


 さて、内容次第じゃ無理難題。
 しかし成功すれば、俺としても役立つ道具の作製……うん、まずは事情聴取だな。


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