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偽善者と獣たち 二十七月目
偽善者と橙色の調査 その04
しおりを挟むギルドとしてのランク付けは、1から10で評価されるらしい。
数字が大きいほど貢献度が高く、相応の扱いをしてもらえる。
まあ、AFO世界のS級がだいたい8として評価されるんだとか。
9や10は地上の解放をできる……そんな伝説染みたことができる者がなれるらしい。
だが、それは冒険者の話。
他の生産者や商人であれば、価値は劣るが数字的には上に立つことができる。
「クエラムはいきなり6、俺はまだ4か……やっぱり生産だと、継続的な貢献じゃないと評価されづらいみたいだな」
「そんなことはないぞ。メルスの行いは、確実に死傷者を減らすと……先ほどもそう言われていたではないか」
「本当の実力者にとっては、全然必要にじゃないらしいけどな。魔力バッテリーも容量不足、障壁も強度不足らしいし」
ギルドの二階はフリースペース。
誰もがクエラムの美貌に視線を奪われ、相席する俺に舌打ちをするこの場所で、あえて俺たちは会話をしている。
冒険初日で魔花を討伐することで、クエラムの評価は大きく向上した。
ただの新入りが強者として知られ、今ではギルドでも注目の的だ。
俺も俺で、それなりに評価はされたが、クエラムほどではない。
分かりやすく言うと……アイドルと生徒会長ぐらいの差である。
全国区での知名度と、学校内での知名度。
知られているという意味では同じでも、人数的には圧倒的に差がある現状。
……やっていることが違うからな。
「ランクが上にならないと、指名はできないらしい。まあ、普通はここに永住するから時間は気にしない。そして、指名料は高いからそんな上位の奴を指名する必要はない……すまないな、クエラム」
「うむ……残念ではあるが、それはメルスも同じなのであろう? すぐにこの世界の者たちも、メルスの凄さを知るのだ。その瞬間を待って、楽しみとしよう」
「い、いきなりハードルが上がったな……けど、お前が言うならやってみせよう。というわけで、さっそくだが頼めるか?」
「心得た──これが今回の成果だぞ!」
ドンッ、と机の上に置かれるアイテム。
それはクエラムが今回の依頼の中で集めて来てくれた、サフランワーのアイテム。
魔石しか使えなかったこれまでよりも、多くの生産を行うことができるだろう。
……提出の際も勿体ないと言われたし、普通のアイテムも欲しかったんだよな。
俺がそんな採取で得られるようなアイテムに目を付ける中、周囲の人々は魔花から得られるアイテムに注目している。
クエラムには一時的にヤンの完全解体スキルを共有してもらい、大量のドロップアイテムを得られるようにしていた……ズルいと思われそうだが、時間を省きたかったのだ。
お陰で机の上に積み重なるアイテムの中にレアアイテムがぽつぽつ映り、それまで見ていなかった高ランクの者たちもそれに目を向けてしまう。
どれだけ実力のある者たちでも、レアアイテムに出会えるかは別の問題。
対象を倒しまくってようやく手に入れられる高ランクと、一匹で得られる低ランク。
そんな格差が生まれるのもまた、運ゲーというものの恐ろしいところだ。
だからこそ俺はそんな幸運者に【嫉妬】して、絶対ドロップを確立させたんだよな。
「──なぁ、お前ら。ちょっといいか?」
「ところでメルスよ、これらはどのような使い方をするのだ?」
「なんだ、知りたいのか? ふふん、あくまで外装として使うことを考慮しないといけないから、どちらかというと武器よりは大衆向けにまたアクセサリーとしてなんだが……」
「むぅ……己はすでに何個も付けている。これでは新しい物は付けられないではないか。どれもメルスが用意してくれた品、外すなど考えられぬ」
またしてもクエラムの発言に、心を奪われてしまう……はずだったのだが。
それは机を蹴り上げ、アイテムを散らかす惨状によって防がれる。
「おい! そろそろこっちの話を聞く気にはなったか? なぁおい、お二人さん。ちょいとビジネスの話を──!?」
「あいにく、己もメルスも忙しいのだ。そういった話であれば、他所を当たってくれ」
威圧の籠もったクエラムの言葉に、男はびくりと体を震わせた。
制限が掛かっていても強者なクエラムなので、並大抵の相手ではそうなる。
この場には……うん、五十人のうち二割ぐらいが平然としていた。
それなりに『装華』の影響もあるかもしれないが、それでも耐えているだけ凄い。
「俺が現実でそんな威圧をされたら、間違いなく走馬灯を見て漏らしているもんな」
「メ、メルスにするはずがなかろう!」
「それは分かっているけどさ。まあ、誰かにやられたらって話だ。クエラムにそうされるなんて、思ってもいないさ」
「ならばよい。そんなことを考えられていたと知れば……己は、悲しくなるからな」
さて、これでデモンストレーションもある程度済ませられただろう。
俺はアイテムをいそいそと『収納袋』に片付けると、立ち上がって一言。
「というわけで挨拶だ。俺はメルス、こっちがクエラム。今日来たばかりの新人だが、いずれは誰もが知るような存在になってやる。その一歩を見ろ、そして味わえ──少なくともクエラムの強さは、お前らが生き証人だ」
ニコリと笑みを浮かべるが、なぜかその大半が苛立ちを覚えている。
なぜだろうか……まあ、いずれ誰しもがその名を知ることになる。
ギルド最強の冒険者、そして……そんな彼女に寄生する生産者の名を。
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