1,733 / 2,518
偽善者と獣たち 二十七月目
偽善者と橙色の調査 その03
しおりを挟む何事もなく登録が終わってしまった。
クエラムは冒険者、俺は──生産者として登録したので、いちいち気にされるようなことが無かったからかもしれない。
今回の縛り、属性を含む魔法はほとんど使うこともできず、魔術もほとんど使用不可。
代わりに得たのは生産っぽいスキル、そして──生産神の加護。
一番最後のヤツがある時点で、戦えなくても最強になれるのは間違いなし。
先ほどクエラムから貰った魔石で、何をしようかということも決めている。
「まずは生産だな……クエラム、しばらく籠もるだろう。悪いが、冒険で知名度稼ぎをしながら調査してくれるか?」
「むぅ……事前デートのはずでは?」
「可愛く言わないでくれ、なんだか予定のすべてを崩してデートしたくなる」
頬をぷくっと膨らませる。
たったそれだけで──彼女の人化した姿は少女と呼べないほどに育っているが──彼女自身の純粋さが、幼さを際立たせていた。
心なしか、しょぼんと尻尾やケモミミなども項垂れている気がする。
……逆に肯定したときはピーンとすることなどを考えると、ついほっこりしてしまう。
「なんだ、してくれるのか?」
「したい……けど、ダメだ。ポーションとかの準備をして、俺も頑張らないと。クエラムは俺が、お前におんぶに抱っこのヒモって呼ばれてもいいのか?」
「己はそれでも構わない。むしろ、養い続けよう……だが、メルスはそれが嫌なのだな。ならば己に、それを止める資格は無い。メルスの思うままに、やってみればいい」
ヤバい、抱きしめたくなる愛らしさが……項垂れていた尻尾なんて、もう地面に垂直になっているんですけど!
ああ、不味い……{感情}の抑制がぁ……。
「ありがとな、クエラム。ただ、俺はやりたい。有ったら便利だし、俺がクエラムといっしょに居てもあんまり力になれないからな」
「むっ、そんなことはないぞ。メルスが居れば己は百人……いや、千人力だ! そこに居てくれるだけで、己は──」
「足手まといになるのは嫌だからな。この状態でもやっていけるように、まずは地位を確立させたい。指名依頼でクエラムを連れ回せるぐらいには……だから、頼むよ」
自分がとことんクソ野郎っぽく思えるが、強制リセットを受けた影響で思考がはっきりとしている。
実際、感情論だけではやっていけない。
偽善者モードの万能状態ならまだしも、俺の『装華』はまったく戦闘向きじゃないし。
本来は俺自身の戦闘力が有り余り過ぎて、必要ないと判断されたのだろう。
だが現在、能力値もスキルも祝福も装備も制限された現状では、戦闘などほぼ不可能。
「……分かった。だが、期限はどうする?」
「ああ、そっちは大丈夫だ。加護があるし、ちょっとやればランクは上げられる。それより、素材を集めて来てくれるか?」
「うむ、任せてくれ!」
あっ、やっぱり。
クエラムの愛らしい反応は、予測していても想定以上の感情のブレをもたらす。
──また、リセットみたいだ。
◆ □ ◆ □ ◆
ある意味賢者な状態になったことで、淡々とアイテム生産を行えた。
今回の縛りは加工、錬金や調合などでポーションを作ることはできない。
もっとも消耗が激しいため、評価されやすいのは治療や回復に使うアイテムなんだが、今回はそれ以外の物で評価してもらう。
「ふぅ……結構できたな」
属性の付与を今は行えないため、やれる作業の数は減っている。
だがその分、量を叩き出せる……今時間を確認したが、一時間が経っていた。
ギルドに有料で借りた生産室の中で、ひたすら作り続けたのは──『装華』の外装。
首から下げる装飾具なのだが、補助バッテリー版と身代わり版の用意してある。
前者は魔術を主に使う奴用で、不足した魔力を補うことができる代物。
後者は誰でも使える奴で、緊急時に障壁が持ち主を守るという代物。
ちなみにその構成はほぼ100%が魔石。
紐を適当に見繕ったぐらいで、あとは本当に簡易的に作っておいた。
「ここに来たばかりの奴が、異常な性能のアイテムを作るわけにはいかないからな。手作りながらも、素朴な味わいがある……みたいな感じの売り文句かな?」
《メルス、そろそろ良いだろうか?》
ギルドに評価してもらうことで、ランクを上げられる制度。
なので提出時、どういった説明をしようか考えていると、クエラムから念話が入る。
俺にとっては長くも短い一時間。
だが、わざわざ外に出て採取や討伐をしていたであろうクエラムにとっては……とても短い時間だったはずだ。
「ああ、ナイスタイミング。あとでクエラムにもできたヤツを渡すよ。そっちの方はどうだ? 何か面白いアイテムは採れたか?」
《うむ、どうやらこの華都には魔花が生息しておるようでな。魔石の方も、それなりに集めることができたぞ。魔花自体は回収を強制しているようで、高ランクの生産者にしか扱えぬらしいが、普通の素材は集めたぞ!》
「そりゃあ凄い……」
《己も討伐したゆえ、相応の評価をしてもらえるそうだ。これが『二階級昇進』というやつなのだな?》
いや、それ死んでいるから……。
とても嬉しそうに伝えてくるクエラムに、否定することは難しかった。
あとで合流して、指名依頼を出そう。
まだ『守護者』の情報を集めてないし、間者として怪しまれないようになったら……始めるとするか。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
コスモス・リバイブ・オンライン
hirahara
SF
ロボットを操縦し、世界を旅しよう!
そんなキャッチフレーズで半年前に発売したフルダイブ型VRMMO【コスモス・リバイブ・オンライン】
主人公、柊木燕は念願だったVRマシーンを手に入れて始める。
あと作中の技術は空想なので矛盾していてもこの世界ではそうなんだと納得してください。
twitchにて作業配信をしています。サボり監視員を募集中
ディスコードサーバー作りました。近況ボードに招待コード貼っておきます
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる