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偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と橙色の調査 その03

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 何事もなく登録が終わってしまった。
 クエラムは冒険者、俺は──生産者として登録したので、いちいち気にされるようなことが無かったからかもしれない。

 今回の縛り、属性を含む魔法はほとんど使うこともできず、魔術もほとんど使用不可。
 代わりに得たのは生産っぽいスキル、そして──生産神の加護。

 一番最後のヤツがある時点で、戦えなくても最強になれるのは間違いなし。
 先ほどクエラムから貰った魔石で、何をしようかということも決めている。


「まずは生産だな……クエラム、しばらく籠もるだろう。悪いが、冒険で知名度稼ぎをしながら調査してくれるか?」

「むぅ……事前デートのはずでは?」

「可愛く言わないでくれ、なんだか予定のすべてを崩してデートしたくなる」


 頬をぷくっと膨らませる。
 たったそれだけで──彼女の人化した姿は少女と呼べないほどに育っているが──彼女自身の純粋さが、幼さを際立たせていた。

 心なしか、しょぼんと尻尾やケモミミなども項垂れている気がする。
 ……逆に肯定したときはピーンとすることなどを考えると、ついほっこりしてしまう。


「なんだ、してくれるのか?」

「したい……けど、ダメだ。ポーションとかの準備をして、俺も頑張らないと。クエラムは俺が、お前におんぶに抱っこのヒモって呼ばれてもいいのか?」

「己はそれでも構わない。むしろ、養い続けよう……だが、メルスはそれが嫌なのだな。ならば己に、それを止める資格は無い。メルスの思うままに、やってみればいい」


 ヤバい、抱きしめたくなる愛らしさが……項垂れていた尻尾なんて、もう地面に垂直になっているんですけど!

 ああ、不味い……{感情}の抑制がぁ……。


「ありがとな、クエラム。ただ、俺はやりたい。有ったら便利だし、俺がクエラムといっしょに居てもあんまり力になれないからな」

「むっ、そんなことはないぞ。メルスが居れば己は百人……いや、千人力だ! そこに居てくれるだけで、己は──」

「足手まといになるのは嫌だからな。この状態でもやっていけるように、まずは地位を確立させたい。指名依頼でクエラムを連れ回せるぐらいには……だから、頼むよ」


 自分がとことんクソ野郎っぽく思えるが、強制リセットを受けた影響で思考がはっきりとしている。

 実際、感情論だけではやっていけない。
 偽善者モードの万能状態ならまだしも、俺の『装華』はまったく戦闘向きじゃないし。

 本来は俺自身の戦闘力が有り余り過ぎて、必要ないと判断されたのだろう。
 だが現在、能力値もスキルも祝福も装備も制限された現状では、戦闘などほぼ不可能。


「……分かった。だが、期限はどうする?」

「ああ、そっちは大丈夫だ。加護があるし、ちょっとやればランクは上げられる。それより、素材を集めて来てくれるか?」

「うむ、任せてくれ!」


 あっ、やっぱり。
 クエラムの愛らしい反応は、予測していても想定以上の感情のブレをもたらす。

 ──また、リセットみたいだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ある意味賢者な状態になったことで、淡々とアイテム生産を行えた。
 今回の縛りは加工、錬金や調合などでポーションを作ることはできない。

 もっとも消耗が激しいため、評価されやすいのは治療や回復に使うアイテムなんだが、今回はそれ以外の物で評価してもらう。


「ふぅ……結構できたな」


 属性の付与を今は行えないため、やれる作業の数は減っている。
 だがその分、量を叩き出せる……今時間を確認したが、一時間が経っていた。

 ギルドに有料で借りた生産室の中で、ひたすら作り続けたのは──『装華』の外装。
 首から下げる装飾具なのだが、補助バッテリー版と身代わり版の用意してある。

 前者は魔術を主に使う奴用で、不足した魔力を補うことができる代物。
 後者は誰でも使える奴で、緊急時に障壁が持ち主を守るという代物。

 ちなみにその構成はほぼ100%が魔石。
 紐を適当に見繕ったぐらいで、あとは本当に簡易的に作っておいた。


「ここに来たばかりの奴が、異常な性能のアイテムを作るわけにはいかないからな。手作りながらも、素朴な味わいがある……みたいな感じの売り文句かな?」

《メルス、そろそろ良いだろうか?》


 ギルドに評価してもらうことで、ランクを上げられる制度。
 なので提出時、どういった説明をしようか考えていると、クエラムから念話が入る。

 俺にとっては長くも短い一時間。
 だが、わざわざ外に出て採取や討伐をしていたであろうクエラムにとっては……とても短い時間だったはずだ。


「ああ、ナイスタイミング。あとでクエラムにもできたヤツを渡すよ。そっちの方はどうだ? 何か面白いアイテムは採れたか?」

《うむ、どうやらこの華都には魔花が生息しておるようでな。魔石の方も、それなりに集めることができたぞ。魔花自体は回収を強制しているようで、高ランクの生産者にしか扱えぬらしいが、普通の素材は集めたぞ!》

「そりゃあ凄い……」

《己も討伐したゆえ、相応の評価をしてもらえるそうだ。これが『二階級昇進』というやつなのだな?》


 いや、それ死んでいるから……。
 とても嬉しそうに伝えてくるクエラムに、否定することは難しかった。

 あとで合流して、指名依頼を出そう。
 まだ『守護者』の情報を集めてないし、間者として怪しまれないようになったら……始めるとするか。


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