上 下
1,731 / 2,518
偽善者と獣たち 二十七月目

偽善者と橙色の調査 その01

しおりを挟む


 橙色の世界 上空


 今回の旅の目的は、まだ見つけていない候補者たちを探し出すという者。
 森人たちの華都で、とりあえずそれっぽい情報は見つけてあった。


「魔人族が『魔王』、獣人族が『守護者』、そして……花人族が『聖女』と『橙王』か」


 存在自体は知っているし、AFO世界にも実際に生きている種族──花人族。
 体のどこかに花の特徴があり、高い木属性への適性を有する森人に似た種族だ。

 この世界において、特に花々の侵食が起きてからは注目されたらしい。
 その結果、彼らは他の種族との接触を断つようになり生存が不確定となった。


「まあ、今は探さないけど。先に場所がはっきりとしている、『守護者』と『魔王』の方から探すことにしよう」

「うむ、了解だ。己も全力で、それらの者たちを探すぞ」

「……まあ、気長に探そうぜ。この世界の場合、だいたい血統で引き継いでくれるから、そこさえ分かればすぐに見つかると思う。矛盾しているけど、のんびりやっててもすぐに辿り着くだろう」

「そういうものなのか? むぅ……しかし、メルスの言うことであれば正しいのだろう。分かった、ゆっくりと探そうではないか」


 忠犬のように俺を肯定してくれるのは、紫紺の瞳をキラキラと輝かせる白髪の女性。
 ただし、背中には悪魔の翼、頭部には動物の耳など多様な種族の特徴を持っているが。


「そうだな、ゆっくり観光だ。大陸の方はまだ行かないし……見つかってはいるけどな。クエラム、待たせちゃってごめん」

「……あれから時間もだいぶ過ぎた。やはり見つかっていたか」

「詳しい調査はまだだし、上陸はできていないらしいがな。あくまでその周辺の大陸で、情報が掴めたってだけだ」


 クエラム、そしてティルが居た大陸に関する情報が手に入っている。
 眷属だが夢現空間に留まらず、世界を渡って調査を行っている英雄たちが知ったのだ。

 彼らが時々届けてくれる情報の中に、今回伝えた情報も存在した。
 獣人と人族が住まう大陸で、かつて帝国がいろいろとやらかした場所があると。

 大陸名も合致したし、間違いなかった。
 問題があるとすれば……帝国が滅び、状況がだいぶ変化していること。


「まっ、その話はまた別の時に。今は遊ぶことに集中してくれ。俺も楽しめるように、エスコートするつもりだからな」

「……そう、だな。過去は戻ってこないし、思いのほか状況は明るいかもしれない。いつまでもくよくよしてはいけない、そういうことなんだろう?」

「俺はそんなに明るい人間か? いやまあ、俺は単純にクエラムと楽しみたくてな……その、デートを」

「! 己としたことが、配慮の足らぬ言い方だったか……これが予行デート、というやつだったのだな!」


 言葉にされると物凄く恥ずかしい。
 しかもクエラムは喜びを体で表現しているので、ケモミミだけでなく尻尾や翼、体の稼働可能な部分がほとんど歓喜していた。

 そこまで目に見えて喜ばれると、受け取れる嬉しさも許容範囲を超えてしまう。
 純粋な目で視られると……ガーに褒められるのと同じくらい、耐えられなくなるのだ。


「……むっ、敵だな」

「まあ、出てくること自体は、どこの空域でも変わらないみたいだ」


 空を飛ぶ花──暫定名称『食人空花』。
 個体ごとに異なる花を咲かせるのだが、共通して人を喰らう性質を持つ。

 この世界の人々は、こいつらが華都に来ないように迎撃を行っている。
 葉っぱを器用に羽のように使い、飛んでくるからな。


「メルス、まずは己にやらせてもらいたい」

「そりゃあいいけど……援護は要るか?」

「とてもありがたいが、今は不要だ。持ち得るすべてで──敵を屠る!」


 クエラムは聖獣であり、人工的に魔獣へ堕とされた個体。
 その際に無数の種族を融合させられ、それらの力も使えるようになった。

 今はネロ同様に因子の切り替えが可能なので、それらを踏まえて戦っている。


「──“部位換装・翼”」


 悪魔の翼が変化する。
 魔法のように一瞬ではなく、内部から変質するように蠢く形で。

 蝙蝠状だったそれは、しばらくすると別のモノへ変化する。
 炎を纏い、それ自体が炎を発する──不死鳥のモノへと。


「──“紅焔閃光プロミネンスレイ”」

『ッ──!!』

「燃えろ──“肉体変質”、“斬爪”」


 背中の翼から炎が収束され、次々と花々を焼き尽くしていった。
 続いて羽の一部が鉤爪のような形となり、羽ばたくたびに『空食人花』を切り裂く。

 クエラムはその多様な性質を使いこなし、それぞれの部位で異なる能力を使える。
 そしてそこに特定の部位を取り付け、本来はありえない場所で能力を行使可能だ。


「“部位換装・尾”──“竜乃息吹ドラゴンブレス”」


 今度は獣の尻尾を竜の口内と同じ物にし、そこから膨大な魔力を吐き出した。
 花々は瞬時に呑み込まれ、消し炭も残さずに消滅していく。

 俺はそれを黙ってみているだけでいい。
 今回の縛り、支援はできるが直接的な行動は難しい……そういう類の内容だった。


「メルス、掃討し終わったぞ!」

「お疲れ様、クエラム。まだ目的地は先だから、軽く温存しておいてくれ」

「うむ、了解した」


 元の状態に自分の体を戻し、クエラムが帰還する。
 魔石もしっかりと回収しているし、俺への配慮は欠かしていないようだ。


「本当は地に足つけて休みたいが……地上ははるか下、おまけに辺りには何もないときたからな。あんまり休めないかもしれないが、ポーションを飲んでおいてくれ」

「案ずるな。メルスと居ることこそが、己にとっての最大級の休養だ!」

「ぐふ……あ、ありがとうな、クエラム」

「うむ!」


 ポーションを飲んだら、すぐに移動を再開することに。
 その間俺は、持ってきてもらった魔石を調べるのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

もふもふ好きの異世界召喚士

海月 結城
ファンタジー
猫や犬。もふもふの獣が好きな17歳の少年。そんな彼が猫が轢かれそうになった所を身を呈して助けたが、助けた彼が轢かれて死んでしまった。そして、目が醒めるとそこは何もない真っ白な空間だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

仮面の貴公子たち

 (笑)
BL
貴族として生きるリュークは、幼い頃の親友アレンと再会するが、彼は冷淡で謎めいた「仮面の貴公子」になっていた。再び距離を縮めようとするリュークに対し、アレンは何かを隠すかのように距離を置き続ける。二人の友情は過去の痛みと秘密に試されるが、果たしてその絆は真実へとたどり着くことができるのか。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...