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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り三日目 その20
しおりを挟む現在、イベントエリアには無数のユニーク種が存在している──
・万獣屍王[ネクロエム]。
動物と死者を自在に操り、己もまたそれらの性質を使うことのできる獣と死の主。
・超鋼機帝[メカルテス]。
巨大な機体、尋常ではない火力、また無数の兵器を扱う漢たちの理想の体現者。
・覇天劉[ドラグリュウレ]。
前二体を遥かに凌ぐ火力、そして光さえあれば無限に回復する性質……まさに、覇を制し、天を征した新たな劉。
・護法天影[ロウシャジャル]。
某犯人のように真っ黒な天使、違反者の下に現れその業に見合う罪と裁きをもたらす人造のユニーク種。
やることの無くなった参加者たちが結集することで、[ネクロエム]と[メカルテス]は討伐された。
俺も無理ゲーをさせる趣味は無いので、準備と数さえなんとかすれば、しっかりとう討伐できるレベルに調整してある。
まあ、[ドラグリュウレ]は全参加者が結集しないと難しいだろうし、[ロウシャジャル]もその出現条件を満たすのが難しいから全員で挑みづらくはあるが。
「けど、ここには『選ばれし者』がたくさんいるからな。眷属も混ざっているし、イベント終了時までには討伐できるだろう」
俺はそれをただ座して待つだけだ。
祈念者、自由民関係なくこの祭りを盛り上げるために頑張ってくれている。
戦闘職はもちろん、非戦闘職もコロシアムの周囲にて貢献していた。
アイテムの提供や武具の修繕、情報の整理や支援などをばっちりやっている。
死に戻りしては退場し、再びコロシアムに戻ってユニーク種へ挑む。
そうやって何度も同じことを繰り返し、少しずつ勝利へ近づいている。
とはいえ、このままではイベント終了までに討伐が終わらない。
残りあと一時間……眷属が蹂躙するならともかく、このままだとな。
「主催者からの選別だ。もう少しぐらい、盛り上がってもらいたいからな。魔導解放──“旋律源永奏楽団”」
転移先で劉と戦う者たち、そして街中で天使と戦う者たちに音楽が届けられる。
それは聴く者すべてに勢いを与え、死を遠ざける力をもたらす。
自動回復に能力値の強化、他にも無数のバフが施される。
また、ユニーク種たちにも、ごく僅かだがデバフが付いた。
音楽を聴いた者の中には、それに合わせて楽器を演奏する者たちも。
歌う者も居るのだが……このとき、青髪の少女が栄える。
「──『水唱の聖女』、か。水分を媒介に、癒し効果を超広範囲に届ける支援能力を持っているんだっけ? 魔導とリンクしてその効果をより深く、より遠くまで届けている……面白いな、マジで」
魔導に反応する能力というのもそうだが、その届く範囲が凄い。
イベントエリア全体に届き、奏でる歌により確実に死傷者数が減っている。
戦闘はせずに歌っているだけだが……これなら、MVPになる可能性もあるな。
それぐらいに、彼女が歌うだけで状況が大きく変わっていた。
「残り時間はあと三十分……そろそろ、動き出すかな?」
再使用時間のことも考えて、一気に決着をつけようとする者たちが現れた。
結局MVPに選ばれるのは一人だけ、得るためには周り以上の戦闘貢献が必須。
ならばと焦り、自身が持ち得るすべてを費やす参加者たち。
中には特典を使ったり、固有スキルを発動させたりと……奮発している。
それでも[ドラグリュウレ]、[ロウシャジャル]のどちらも全然倒れない。
天候を操作して光を封じているようだが、強者とはせこい真似をしなくても強いのだ。
前者は単純に劉の心臓が無尽蔵の力を供給し、後者は悪人たちを攻撃すればするほど回復している。
だが積み重ねによって、回復が追い付かない程度にはダメージを与えていた。
まだまだ時間は掛かりそうだが……うん、ギリギリ間に合いそうだな。
◆ □ ◆ □ ◆
「魔導解放──“降り注ぐ混沌の流星”、並びに“語るは星詠みの調べ”」
無数に降り注ぐ隕石、そして鏤められた星の輝きがよりいっそう高まっていく。
夜も耽り、もう間もなくイベントは終わり強制的にエリアから排出されるはずだ。
最後の最後まで居てくれた参加者たちへ、俺は言葉を贈る。
魔道具を介し、肉声では届かない場所へ主催者として礼を。
『貴様らの行いに、意味があったとこの我が保証しよう。すべての者たちが戦いに貢献したことで、我が配下たちはすべて死した』
ユニーク種はすべて討伐され、神器もオークションで落札される。
期待できる強者には武器を渡したし……俺自身も、いろんな奴から力を模倣できた。
俺が何者かなんて、参加者たちにとってはどうでもいいこと。
気にしたとしても、自分にとって有益かどうかで判別することだ。
『これにて祭りは幕を閉じる。次があるかどうか、それも未定だ。だが、此度の経験が貴様らにとって意味のあるモノだったと我は確信している』
星々の輝きはよりいっそう増し、誰もがその光景に目を奪われる。
ノリに乗った参加者の中には、自ら花火を魔法で出したりしていた。
楽しいということなのだろう……俺が行ったことを、そう認識してくれている。
『──ありがとう、祭りに彩りをもたらしてくれたことに感謝を述べる。貴様らの行いによって、救われた者が居ることをどうか知っておいてほしい』
この言葉の意味を理解できる者が、いったいどれだけいるか分からない。
また、誰にとっての救いなのか……それは俺にも分からないことだ。
だが、それでも伝えておいた。
今回のイベントで得た経験は、俺にとっても眷属にとっても、国民にとっても良かったと言えよう。
『終わりの刻まで残り数十秒。では、カウントダウンでもしようか』
少しずつ小さくなる数字を、参加者たちは律義に数えてくれる。
俺もそれを数え、ゼロとなったとき──イベントは、最良の形で終わりを迎えた。
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