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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り三日目 その19

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 イベントエリア 上空


 空には一定以上の高さで、警告と共に障壁が張られてそれ以上は登れない。
 参加者たちに移動制限であると同時に、それはユニーク種の行動制限を意味する。

 だがしかし、俺や眷属などイベント主催側には、そういった制限が存在しない。
 俺が解除しているから、本来よりも高い場所へ向かうことができる。


「まあつまり、そういうことだ。ここは盗聴も覗き見もできない。主催者である俺が、この景色を観るためだけに用意した」

『そのためだけに、ここを。ずいぶんと悪趣味だな』

「いやいや、そこまで悪趣味か? 誰かが頑張る姿を見て、勇気を貰う。ほら、そういう考え方もあるだろう?」

『少しでもそういった感情があると。まったくそうは思わないんだがね』


 俺は現在、そこに怪盗と二人でいた。
 すでに口調を普段通りのモノにして。
 そして眼下に広がる光景──ユニーク種と戦う参加者たちの姿を見ている。

 実は転移先は亜空間でもなんでもなく、少し離れた場所。
 三つの箇所で行われる激戦を、空からなら同時に視ることができる。

 暇なのか、眷属たちも参加してさまざまな場所で活躍していた。
 ……MVPの選考からは外れるようにしてあるので、他の奴らが貰えるはずだ。

 なぜここに居るかと言えば、語った通り彼らの努力を観るため。
 ネロのように、魂魄の輝きを視たい……とかそういうわけじゃないぞ。


「自分には無いことがたくさんある。自分ではない誰かがそれをやっている姿を見て、怪盗君はどう思う?」

『無い物を欲して何になる。無いならば得ればいい、そのための世界だろう』

「……いやいや、そっちの話じゃなくてな。それは怪盗としての君のことだろう? そうじゃなく、君としての意見を聞きたい」

『お断り』


 取引である程度、譲歩はしてくれている。
 それでも彼女は怪盗としての仮面を外すことなく、素は見せてこない。

 まあ、祈念者にそこまでは求めていないからいいんだけどさ。
 あくまでも、彼女のこの世界での目的に手伝いをする……偽善の範疇だろう。


「聞けた方が参考になるんだがな。別に無くとも、構わないぞ……さて、さっきのアレは本当なのか?」

『無論だ。私が君を超えるまで、私は君を師と崇めよう。ただし、先に伝えた条件を叶えてくれるならな』

「……お前、才能無いんだもん。さすがに無理だぞ──【強欲】が欲しいなんて」


 彼女が知りたかったアイテムを奪った能力は、【強欲】の“奪物掌アイテムテイカー”。
 初期ではいろんな条件もあったが、今では対象に触れればどんな物でも奪える。

 たとえそれが装備中のアイテムでも、逆に何重にも防御された魔道具の中でも。
 なので今回、触れて[アイテムボックス]に干渉し──奪い返した。

 ただまあ、それ自体は理論上すべての窃盗系スキルの持ち主ができることだ。
 彼女がそれを欲するのは、ありとあらゆる防御を超えられる点である。


『私は怪盗であることにこだわらない。目的が果たせるのであれば、どんなやり方でもいいからね。そして、君の持つ力はまさに私が求めたものだ』

「だからさっき見せただろう? けど、お前には才能……というか、適正が無いんだよ。だからあのとき、結晶は反応しなかった」

『後天的にでも使えるのだろう? なら、その適性とやらを手に入れるだけだ』

「……抑揚が少し出ちゃってるぞ。名前で分かる通り、【強欲】にならないとダメだ。義賊なんて言う、奪っても誰かに渡すような奴が得られるとは思わないんだがな」


 ユウは【傲慢】、アルカは【憤怒】に対する適性があった。
 前者は一回目の闘技大会でなんとなく理解していたし、後者は……なんとなく分かる。

 多少なりとも適性があったからこそ、彼女たちはスキルを結晶から取りだせた。
 しかし、怪盗の場合はそれが無い……彼女という人間が、【強欲】じゃないからだな。


「だからって、【強欲】になるための修業とかをしてもな……もうこの方向性は諦めて、別のことをやろうぜ」

『断る』

「さっきからそればっかりだな。というか、自分で言ったんだろう? 別に怪盗じゃなくてもいいって」

『それでもだ。極級まで辿り着いた技術で、やれることをやりたい』


 それなりの欲はあるみたいだけど、あんまり異常とは思えない。
 あくまでも人並み……良くも悪くも、彼女は普通なのだろう。

 その点、俺はもっとも凡人だけどな。
 適性云々も、{感情}スキルがあるからこそ使えているわけで、俺という人間で満たせるものは僅か……しかも侵蝕付きで。


「……まあ、とりあえず【強欲】は取っておくことにしよう。少なくとも、俺から結晶を奪えるくらいの執着心があれば、とりあえず中身を取りだすことぐらいはできるだろう。まあ、それだけじゃ暴走するだろうけど」

『俄然盛り上がってくるな。ならば師よ、いつかそれを奪ってみせる』

「逆に奪えないなら、俺はずっとお前に師匠面ができるわけだ。極級職の弟子ができるとはな……無職なのに」

「……えっ、無職なの?」


 あまりの衝撃で、再び着けていた仮面が取れてしまったようだ。
 まあ普通、何の職業による補正もないままの奴に敗北するなんて思わないよな。

 さて、見せたい物も見せたし、そろそろ終わりにするか──終幕はド派手にしよう。


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