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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り三日目 その17

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 どうやら俺の努力のやり方は間違っていたようで、まったく教えてもらえない。
 まあ、コミュ力が皆無と自分でも分かっている、とりあえず今は諦めた。

 気を許してもらうには、本来長い時間が必要だ……うん、眷属たちも本当の意味で心を開いてもらうためには、ぶつかったりしたものだ(物理)。

 現在、対人恐怖症疑惑のある怪盗は、問いに対する動揺から復帰した。
 改めて変声したうえで、怪盗として作った口調で文句をつけてくる。


『やれやれ、困った奴だ。人の秘密には、口出ししないように、そう習ったことが君には無いのかな?』

「ありますよ。ただ、私が知っているのはあくまで、女性が秘密を着飾ることで、美しくなるということですので。お嬢さんにであれば、私もそういった配慮をしますが……怪盗君、君の性別はどちらですか?」

「……っ!」


 また警戒されてしまった。
 本当、少しでも気を緩めると勝手に口が動くんだよな。

 ここで人を増やすのは得策じゃない。
 まあ、とりあえず怪盗ロールを維持できる会話なら、成立させることができる。

 意識を強く保って、どうにか抑え込むしかないんだろうな。
 うん、俺って【忍耐】を持っているはずなので、できるはずである。


「……まあ、今は置いておきましょう。怪盗君、会場が見えますか? あそこで展示されているアイテムこそ、私が用意した神器の中でももっとも特殊な品です」

『もしやあれは……ゲーム機のようだね』

「そう、ゲーム機さ。そして、今出品しているのはそのコントローラー。数に限りはあるが、複数本存在する。だからこそ、ああしてよりいっそう争うことができる」


 神器の名は『サイバーワールド(β)』。
 まあ、名前から分かるように──擬似的なVR装置のようなものだ。

 コントローラーと称したのは、アクセスするための子機。
 使用すれば神器の中に取り込まれ、内部でさまざまな経験を得ることができる。


「私たち祈念者は、この世界をどう思っているのか。それは人によるだろうが、どういった考えであれ、私たちは異物でしかない」

『自由な世界は、誰にとってのものか。そんなことを言いたげだな』

「その通りさ。なぜ私たちだけが、死んでも蘇る権利がある? どうして彼らには、等しくそのチャンスが与えられていない?」

『すべてを平等に、とでもいう気か』


 もちろん、そんなことは言わない。
 優先すべきは眷属の願い、次いで国民たちの望みであり、最後に我欲……あとはまあ、適当に。


「実現できないからこそ、私はその可能性を用意した。死を厭わず活動し、高いレベルで自由民たちを蹂躙する祈念者。それに少しでも対応できるよう、仮想の世界にて強くなれるように」

『だが、それを今売っているじゃないか』

「あれは試作品だよ。死なない奴らに使わせて、よりよい品にするのですから。彼らにどういった影響があろうと、きっと本望でしょう。真に完成したとき、誰もがその礎に感謝するのですから」

『やはり、ただの狂人だったか』


 ロールを保ったまま、蔑むような発言。
 顔はずっと仮面で隠れているが、なんとなく視線も冷ややかな気がする。

 会場の方では、用意した子機十本を求めて金がひたすら増え続けていた。
 デスペナが無いと聞いて、自由民だけでなく祈念者たちも動いている。


「君が怪盗をしているように、私にも私なりの生き方がある。そしてそれは、少なくとも祈念者たちが闊歩するためのものじゃない。この世界は彼らのモノだ、割り込んだ以上ある程度フェアにしなくてはならない」

『それがお前の考え方か』

「お前、か。君もまた、盗賊のようにも義賊のようにも思える盗みをしてきたはずだ。私たちは分かり合える、共に彼らとの共存を目指す同志として……そうは思わないかい?」

『ごめん被るよ。私が盗みをするのは、そんな崇高な目的のためじゃない。志したそのとき、それがもっとも近道だと感じたからさ』


 ようやく事情を聴き出せた……うん、話の途中からなんとなく察していたが、どうやら彼女──会話の空気に酔っているようだ。

 演技を……演技系スキルを使っている人にありがちらしい。
 自分の演技にどっぷり嵌り、本来の自分が取るべき行動が取れなくなるのだ。

 今回の場合、怪盗は自分の隠そうとしていたことを守秘すべきだった。
 しかし、それを告げてしまう……しかも、それに怪盗自身は気づいていない。


「なるほど、君は怪盗になりたかったわけではなく、怪盗になることで得られるものを欲したわけだ」

『ふっ、その通りさ。だから私は……!』

「おや、どうかしたのかな? また、君自身の可愛らしい声になっているよ」

「~~~!!」


 怪盗をからかっている内に、オークションはついに終わった。
 参加者もようやく終わったかと思う……そして、まだあるのではと疑っている。


《メルス様、ご用意はできていますか?》

《もちろんだ。むしろ、誰が該当者かどうかの選考はできているのか?》

《問題ありません。後ほど該当者には舞台に上がっていただきますので、その際はよろしくお願いします》

《了解だ》


 怪盗に聞こえないように、念話でやり取りしておく。
 うん、最後に初期から決めていたサプライズを用意していたのだ。

 この金のかかる祭りに参加してくれた、貢献者への褒美を。


「怪盗君、変装して私といっしょに来てもらえるかな?」

『どうして』

「君が狂人と呼ぶ私を、見定めてほしい。そのうえで、君に接する機会がほしい……私がこの世界で望んだことは、そういったことだからね」

『……ふむ、何もしないのであればな』


 変装の指示をして、俺たちはコロシアムの舞台へ向かう。
 ……偽善は我欲の一環、満たすためにも頑張らないとな。


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