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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り三日目 その16

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 イベントエリア コロシアム


≪──皆さま、余興はお楽しみいただけたでしょうか? ただいまより、サプライズオークションを開催させていただきます。新たに神器を二つ、出品させていただきますので、まだ余裕のある方は、ぜひ落札を≫


 無事に取り返したアイテムを、落札者たちに渡し終えた後のこと。
 アンがそれまでの事情を適当に誤魔化して話し、そこで投入する新たな神器。

 まあ、もともと用意していた物だが、気づく者などいない。
 さっそく用意した神器の一つを、舞台の上に並べる。


≪さぁ、現れますは小さな歯車。世界に存在し、誰も動かすことのできない機械の数々。しかしこの歯車を組み込めば、どんな機械でも動かすことができるでしょう。そしてそれは、生きた機械でも……≫


 球体に閉じ込められた小さな歯車。
 アンが語ったように、神器であるそれは自分のランク以下の機械であれば、確実に活動可能状態にすることができる。

 まあ、内部のパーツが全然足りないとか、物理的に問題があるなら無理だけど。
 大切なパーツが一つだけ無い、とか特殊な起動条件が必要とかなら起動可能になる。

 そして何より、どんな機械でもという点は特殊なマニア垂涎の宣伝文句だ。
 出会った当時のチャルみたく、起動できない機人なんかが存在するからである。

 俺が彼女にやったように、回路を弄ったりしなければならないのだが、失敗すれば情報が抹消されたりするんだとか……だから何もできず、コレクションしたりするそうだ。


≪世界中のお人形遊びが好きな方々、ぜひとも落札してください。世界中の破壊兵器がお好みの方も、ぜひとも落札してください。それでは──開始です≫


 これまででもっとも凄まじい速度で、入札が行われる。
 先ほどまで語った用途の他にも、兵器運用にも使うことができる神器の歯車。

 単純な動力源としても、神器──『神機の歯車』は効果を発揮する。
 常に全力全開は無理でも、どんな機械でも起動自体は可能な神器。

 兵器なんかであろうとも、当然使用可能になるわけで。
 機人同様、ファンタジー……いや、SFな機械も存在する世界だ。

 それらに歯車を組み込めば、それはそれで使うことができる。
 もしそれが、モビノレスーツとかでも……祈念者たちも入札しているよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 落札者が決まり、次の神器をさっさと紹介し始めるアン。
 最後の神器はかなり特殊なので……まあ、それはそれで盛り上がるだろうな。


「──で、いつまで居ますか?」

「…………」

「だんまりを貫きますかか。まあ、邪魔をしないのであれば構いませんが」


 怪盗は現在、俺の背後に居る。
 ただし、すでに拘束はしていないので、あくまでも彼女自身の意思で、だが。

 神器を奪い返してからも、いろいろとあったのだ。
 気絶したりもしていたのだが、そこは魔法で治してすぐに解決した。

 怪盗が何を考えて付いてくるのかは分からず、縛り中なので激しい抵抗もできない。
 俺の方から時々尋ねているのだが……先ほどのようにだんまりである。


「ふぅ……怪盗さん、指輪は外れません。ですが、同じことはできます。盗みに必要なすべての要素、それらを兼ね揃えることをコンセプトとしていますので」

「…………」

「ただ、自身で意識した使用をしなければなりません、自分が抱いた怪盗の理想を体現してください」

『……こう?』


 これまで魔道具を使っていた時のように、しっかりと声が変わっている。
 まあ、まだ完璧ではないのか、抑揚の方は少しばかり素に近いけど。


「もう、会話をしてくれるか。さて、改めまして。私がこのイベントの主催者、名前は隠しているから主催者で構わない」

『……なら、怪盗で』

「うん、ならば怪盗君……ちゃんかな?」

『……君にしてほしいな』


 オークション会場の方は、俺の予想通り大盛り上がり。
 アイリスの話を聞いて、やっぱり面白いと考えて提案した神器……の子機なんだがな。


「世界は広い。君のような逸材が、怪盗として活動していることを私は知らなかった。怪盗君、君はどうしてこのようなことを?」

『決まっているさ──そこに、お宝があるから。なら、他に理由なんて要らない』

「カッコイイね……君の理想は。うん、それが仮面を付けた君の目的なのか。だけどね、私が聞いたのはそこじゃない。神器を奪おうとした詫びもあるんだ、それぐらい教えてくれてもいいんじゃないかな?」

『…………』


 怪盗である少女は、自身を偽っている。
 今行っている怪盗ロールは、この世界での目的ではない……真の目的を果たすために、ついでにやっているような感じだろう。

 俺はトークが上手い方じゃない。
 むしろ人を怒らせてしまうのだが……とりあえず意識して話せば、会話自体は成立させることができる。

 そんなやっとこさ程度の俺でも、怪盗が怪盗でいられなくなる理由に察しがついた。
 おせっかいでもちょっかいを出す……それが偽善者のお仕事だ。


「ただ一つ、気になることがあるのだがね。もしかして君は──人と接するのが、苦手なのかな?」

「っ……!?」


 あっ、解除された。
 やっぱり当たりだったようで……とりあえずまあ、教えてもらえるように努力しよう。


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