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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り三日目 その15

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 すぐに終わらせよう、それが意味することは単純──意図して奪わせるだけ。

 あちらもそれは理解しているはずだ。
 それでも指輪が放つ魔性の魅力が、怪盗の思考を鈍らせてしまう。


『──“窃取シーフEX”』

「おめでとう。これで指輪は君の物だ……とても心細いが、我が子を祝福することもまた親としての務めさ」

『こ、これは……!』

「ふむ、いい反応だ。死が、いや死してもなお君と指輪が別たれることはない。そして、君には祝福が与えられるだろう」


 善行と悪行を行う【梁上君子】。
 極級職に就く怪盗に相応しいその指輪が、勝手に指に収まった。

 ──ただ、少しだけ問題が。

 俺は拡張しているが、初期の装備枠というものは決まっている。
 スキルで増やせるのだが、装飾具として装備できるアイテムの数は──たった五つ。

 怪盗は盗んだのか正規の方法で入手したのか、いずれにしても装備枠は埋まっていた。
 意思を持つアイテムは、強引に自身を装備させることがある。

 お分かりいただけるだろうか?
 指輪に装備枠拡張スキルは無いため、勝手にその枠を確保するためにやることは──邪魔なアイテムを装備から外すことだ。


「君から外れた装飾具は、どうやら君が怪盗で居るために必要なアイテムだったようだ。名の通り、君をサポートするためのアイテムだからね……少々浮気を許さないんだ」

「だ、だからって……!」

「精神のブレが、スキルの制御に出ているようだな。ふむ、指輪の使い方をご説明しようかな──お嬢さん」

「~~~ッ!!」


 アイテムは直接[アイテムボックス]へ移動するため、何が外れたかは不明だ。
 しかしそのアイテムが失われた結果、モロに怪盗へ影響が出ていた。


「なんで……なんで、外れない!?」

「先ほども語っただろうに。まあ、その状態の方が都合がいいか──“装備不可チェンジレス”」

「なら、他の装備を……なんで!?」

「ある意味捕縛・封印だな。聖魔法で癒す、もしくは死ぬか時間経過が無ければ外すことはできませんよ」


 聖魔法と対を成す邪魔法。
 そしてその上位版である邪悪魔法、主に状態異常が得意な魔法だ。

 それによって、蝕んでいる間は装備を切り替えることができなくなるようにする。
 普通ならそこまで意味はないが……今の怪盗には、どんな魔法より効いているな。


「さて、私のイベントを台無しにした君には裁きを与えるが……その前に、盗んだ品を返してもらおうか」

「! ぬ、盗ませるわけがない……逃げてやるんだから」

「それは結構。再び形勢逆転……さて、追いかけさせてもらうぞ」

「ひっ! ──ほ、“奔逸”!」


 記憶から、発動したのが逃走スキルの上位スキルだと理解する。
 が、それよりも早く効果は分かった……いやまあ、全速力で逃げているからな。


「[グレイプニル]を使えば、それも一瞬だろうが……“身体強化”」


 スキルとしての身体強化を、完全マニュアルの命・魔・精気力操作で強引にブースト。
 速度を上げ、壁に足をつけられる武技かスキルで逃げようとする怪盗を追いかける。

 俺はそれを技術として、脚に展開した精気力で蹴り登っていく。
 粘度などを調整するのが一番上手いのは、己の精神エネルギーたる精気力なのだ。

 怪盗は俺が壁を登る姿を見て、何やら悲鳴と共に加速。
 ……反応からもしやとも思ったが、やっぱり装備していたアイテムが支えていたな。


「不味いマズイまずい……! なんで、どうしてこうなったの!?」

「それは単純なことですよ。君がこのイベントにおいて、私が望んでいない行動を取ったから……これに尽きます」

「いや、来ないで──“奔逸”!」

「おやおや、ずいぶんと可愛らしい悲鳴を上げているね──“推跳歩スイチョウホ”」


 勢いよく地面を蹴り、精気力をエンジン代わりに加速する。
 こちらは命まで削っているのだ……差は狭まり、辿り着く。


「直接……は止めておきましょう。まずは磔に──“粘魔功ネンマコウ”」

「いやっ! ベトベトして……取れない」

「すまないが、少々強引にでも止めないと返してもらえないんだ……最終勧告だ。大人しく返してくれるのであれば、私もあまり罪は重くしないことにしよう」

「……返して、なるものか」


 怪盗……いや、少女は健気にも抗う。
 今の状態を視れる人が見れば──ネバネバの液体に囚われた少女に、卑劣なことをしようとする悪役の俺だな。

 うん、誰が見ているというわけではないけども、速めに済ませた方がよさそうだ。
 ゆっくりと準備をしながら手を伸ばす……少女はギュッと強く目を閉じる。

 悪いことをする気はないんだがな。
 怪盗なので変わり身などのスキルも使えるはずだが、これまでの逃走で使い潰したか?

 まあ、そういうスキルも本体が動けない以上は脱出不可能なんだけど。
 だがこれで、抵抗されずに全部回収できるだろう。


《──“奪物掌アイテムテイカー”》


 言葉に発さず、思考詠唱スキルを用いた思念での起動を行う。
 神器は[アイテムボックス]以外の場所にも隠しているようだが……無駄である。

 あらゆるモノを視抜く神眼と、場所さえ分かれば何でも盗める【強欲】。
 極級職が相手でも、もっとも盗みが上手いという地位は譲れないな。


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