1,719 / 2,518
偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り三日目 その10
しおりを挟む
連続更新です(10/12)
===============================
≪『強欲王の零次元袋』は、契約した者に無尽蔵の収納空間を提供します。そこでは時間が停止しており、意識すれば意図的に時間を進ませることも可能です。あくまでも、生きていないモノに限りますが≫
生産職からすれば、喉から手が出るほど欲しい神器のはずだ。
なぜなら、生産工程を省くことができる能力は必ず、そのアイテムの質を落とすから。
しかし『強欲王の零次元袋』は、そういったこともいっさいない。
そして、アイテムごとに調整も可能で、何より神器内で複合させることも可能だ。
……そういう部分、結構凝りました。
俺が生産職ということもあり、欲しいなという機能をふんだんに注ぎ込んだのがこの神器である。
≪そして、これが最たる機能。このアイテムに収納したアイテムは、極級職レベルの窃盗能力を用いなければ、判定すらありません。そして、袋そのものは契約によって契約者以外が持つことも不可能となります≫
スキルの場合、最上位は超級。
なので神器からアイテムを盗み出すためには──超級職+固有の窃盗スキル、または極級職+超級の窃盗スキルが最低限必要だ。
固有スキルはある意味、極級よりも優れている場合があるからな。
それなら超級職でもブーストして、ギリギリ盗めるかもしれない。
決して絶対に盗まれない、とは言っていないのだが……商人たちは色めき立つ。
そんな条件を満たせる者など、世界に一人いるかどうかってレベルだしな。
ちょうどそれを満たしていそうな怪盗が、すでに潜り込んでいることは言っていない。
どうせ出てくるのは最後なんだし、そのときに連絡すればいいだろう。
≪では、事前にお伝えした通り、1Yから始めさせていただきます。どこまで額を引き上げていくのかを、主催者様共々楽しませていただきましょう≫
そう言ったアンがカンッと木槌を打つような効果音を鳴らすと、人々が次々と渡されたタブレット型のアイテムに数値を入力する。
額を口頭で告げるか書けば入力され、こちら側でそれを把握できるシステムだ。
最高額とその提示者を表す番号のみが表示されるので、自分が載るまで更新していく。
「ははっ、めっちゃ高値だな。怪盗も、自分より高い値がついたとあっちゃ、気にもしたくもなるよな」
《神器を他者に売り渡す、それも複数……メルス様は策士ですね》
「……絶対思ってないだろ。知っているとかじゃなくて分かっているんだから、俺が何も考えてないって」
《過程はどうあれ、結果のみがメルス様の行いを評価します。その内容を知っているのはわたしたちだけ……どうですか、なんだかロマンチックでしょう?》
ロマンチックと言われても、やっていることがオークションだからな。
金にはまったく困っていないのだが、時折偽善には多額のあぶく銭を要する。
俺にできるのは創ること、そして偽善。
……後者が世の中に全然求められていないのだから、やることはただひたすら売れる物でも創るしかないのだ。
「この後はどうする予定だ?」
《急にご提案なされたアレを最後に、その前に残った神器を出します。聖具および魔具はその間ですね》
「一気に売るのか。まあ、そこら辺はアンが観客の空気を読んで出してくれればいい。金の方も分かっているんだろう? せいぜい搾り取れるように頑張ってくれ」
《畏まりました》
本当、金銭感覚が狂うんだよな。
今度学校にでも行って、お勉強し直した方がいいかもしれない。
……まあ、各世界に行って国の予算とかを聞いていたらまた狂いそうだけど。
別にいいと言っているのだから、気にしなくていいというのに。
◆ □ ◆ □ ◆
一つ目の神器『強欲王の零次元袋』は、見事自由民の商人が落札した。
それを知っているのは本人、そして主催者である俺たちだけ。
だが、俺たちという中には雇ったスタッフたちも含まれている。
要するに、結構情報は簡単に手に入るわけだ……さて、どうなることやら。
アンが聖具や魔具をどんどん売って、次々と落札させていく。
セールストークが上手いので、みんなつい買っちゃうんだよな。
≪では、お次の神器をご紹介しましょう≫
盛り上がる観客席だが、再びせり上がる舞台に沈黙がすぐ訪れる。
視覚的に捉えることのできない箱の中を、誰もが透かそうと努力した。
だが、次元魔法は文字通り次元という高位の概念を操る魔法。
ただ目を凝らすようでは、超級のスキルがあろうと視ることはできない。
≪さぁ、現れますは大きな水瓶。持ち運びには不便ですが、それでも一つ。皆さまにとって価値のある品であることを証明する御業がございます≫
現れたのは水瓶。
この時点で大半の者は興味を失う……が、本当にその価値を理解できる者の中には、怒りを覚える者すらいる。
≪ありとあらゆる水を、この水瓶は再現することができます。最初に一滴増やしたい水を垂らせば、後に注いだ水もまた、同じ性質を有した水へ。さて皆さま、貴方にはその価値がご理解いただけますか?≫
どんな水でも、まあ一種類に限るという制限はあるがほとんどの者は気にしない。
ついでに無限に水を湧き出させる機能もあるので、魔力さえあれば水も出せる。
改めて言うが、本質は最初に用意した水の性質をコピーできることだ。
たとえばそう……神の奇跡と言って売り捌いてきた霊験あらたかな水でも、な。
===============================
≪『強欲王の零次元袋』は、契約した者に無尽蔵の収納空間を提供します。そこでは時間が停止しており、意識すれば意図的に時間を進ませることも可能です。あくまでも、生きていないモノに限りますが≫
生産職からすれば、喉から手が出るほど欲しい神器のはずだ。
なぜなら、生産工程を省くことができる能力は必ず、そのアイテムの質を落とすから。
しかし『強欲王の零次元袋』は、そういったこともいっさいない。
そして、アイテムごとに調整も可能で、何より神器内で複合させることも可能だ。
……そういう部分、結構凝りました。
俺が生産職ということもあり、欲しいなという機能をふんだんに注ぎ込んだのがこの神器である。
≪そして、これが最たる機能。このアイテムに収納したアイテムは、極級職レベルの窃盗能力を用いなければ、判定すらありません。そして、袋そのものは契約によって契約者以外が持つことも不可能となります≫
スキルの場合、最上位は超級。
なので神器からアイテムを盗み出すためには──超級職+固有の窃盗スキル、または極級職+超級の窃盗スキルが最低限必要だ。
固有スキルはある意味、極級よりも優れている場合があるからな。
それなら超級職でもブーストして、ギリギリ盗めるかもしれない。
決して絶対に盗まれない、とは言っていないのだが……商人たちは色めき立つ。
そんな条件を満たせる者など、世界に一人いるかどうかってレベルだしな。
ちょうどそれを満たしていそうな怪盗が、すでに潜り込んでいることは言っていない。
どうせ出てくるのは最後なんだし、そのときに連絡すればいいだろう。
≪では、事前にお伝えした通り、1Yから始めさせていただきます。どこまで額を引き上げていくのかを、主催者様共々楽しませていただきましょう≫
そう言ったアンがカンッと木槌を打つような効果音を鳴らすと、人々が次々と渡されたタブレット型のアイテムに数値を入力する。
額を口頭で告げるか書けば入力され、こちら側でそれを把握できるシステムだ。
最高額とその提示者を表す番号のみが表示されるので、自分が載るまで更新していく。
「ははっ、めっちゃ高値だな。怪盗も、自分より高い値がついたとあっちゃ、気にもしたくもなるよな」
《神器を他者に売り渡す、それも複数……メルス様は策士ですね》
「……絶対思ってないだろ。知っているとかじゃなくて分かっているんだから、俺が何も考えてないって」
《過程はどうあれ、結果のみがメルス様の行いを評価します。その内容を知っているのはわたしたちだけ……どうですか、なんだかロマンチックでしょう?》
ロマンチックと言われても、やっていることがオークションだからな。
金にはまったく困っていないのだが、時折偽善には多額のあぶく銭を要する。
俺にできるのは創ること、そして偽善。
……後者が世の中に全然求められていないのだから、やることはただひたすら売れる物でも創るしかないのだ。
「この後はどうする予定だ?」
《急にご提案なされたアレを最後に、その前に残った神器を出します。聖具および魔具はその間ですね》
「一気に売るのか。まあ、そこら辺はアンが観客の空気を読んで出してくれればいい。金の方も分かっているんだろう? せいぜい搾り取れるように頑張ってくれ」
《畏まりました》
本当、金銭感覚が狂うんだよな。
今度学校にでも行って、お勉強し直した方がいいかもしれない。
……まあ、各世界に行って国の予算とかを聞いていたらまた狂いそうだけど。
別にいいと言っているのだから、気にしなくていいというのに。
◆ □ ◆ □ ◆
一つ目の神器『強欲王の零次元袋』は、見事自由民の商人が落札した。
それを知っているのは本人、そして主催者である俺たちだけ。
だが、俺たちという中には雇ったスタッフたちも含まれている。
要するに、結構情報は簡単に手に入るわけだ……さて、どうなることやら。
アンが聖具や魔具をどんどん売って、次々と落札させていく。
セールストークが上手いので、みんなつい買っちゃうんだよな。
≪では、お次の神器をご紹介しましょう≫
盛り上がる観客席だが、再びせり上がる舞台に沈黙がすぐ訪れる。
視覚的に捉えることのできない箱の中を、誰もが透かそうと努力した。
だが、次元魔法は文字通り次元という高位の概念を操る魔法。
ただ目を凝らすようでは、超級のスキルがあろうと視ることはできない。
≪さぁ、現れますは大きな水瓶。持ち運びには不便ですが、それでも一つ。皆さまにとって価値のある品であることを証明する御業がございます≫
現れたのは水瓶。
この時点で大半の者は興味を失う……が、本当にその価値を理解できる者の中には、怒りを覚える者すらいる。
≪ありとあらゆる水を、この水瓶は再現することができます。最初に一滴増やしたい水を垂らせば、後に注いだ水もまた、同じ性質を有した水へ。さて皆さま、貴方にはその価値がご理解いただけますか?≫
どんな水でも、まあ一種類に限るという制限はあるがほとんどの者は気にしない。
ついでに無限に水を湧き出させる機能もあるので、魔力さえあれば水も出せる。
改めて言うが、本質は最初に用意した水の性質をコピーできることだ。
たとえばそう……神の奇跡と言って売り捌いてきた霊験あらたかな水でも、な。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる