1,713 / 2,518
偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り三日目 その04
しおりを挟む
連続更新です(04/12)
===============================
運命という概念の風を背にたなびかせ、自在に宙を舞う『失風英雄』ヴィント。
参加者全員が自身に吹く風を奪われ、それらすべてが彼に吹いている。
そんな彼は現在、意図的に他の参加者同士で戦わせようと場を操作していた。
風魔法による攻撃を迎撃する際、周りにも被害が及ぶようにしているのだ。
普通は上手くいかないだろうが、今は彼に有利な風が吹いている現状。
時折失敗することもあるが、その大半が上手くいっている。
「でも、全然効いてないよね?」
「攻撃の誘導はできても、その後にやり合うかどうかは別だからな。他者同士の風まで、操作できないんだよな。今は自分の状態確認と身力の回復をするために、とりあえずそのまま様子を窺っているだけだ」
「じゃあ、誰かが動こうと思ったらすぐにでもこの均衡は崩れるの?」
「そりゃまあ、そうなるだろう。ほら、さっそく一人動き出した」
勢いよく地面を蹴りつけ、そのまま空を走り抜けるのは機人族の女性。
ただし、本来無表情な顔は、つり上がるほどの笑みを浮かべていた。
「トゥールビヨンって知ってるか?」
「……何それ」
「さすがに知らないか。まあ、本当は時計とかに組み込まれるシステム? というか機構なんだが、重力を分散できるんだよ。ちなみにこれ、渦って意味らしいぞ」
「あー、そういえば、ワタシたちの世界にもそんなラノベがあったかな。メルスはそれを参考にしたんだね」
アイリスの言う通りではあるが、ただやるとしても本来のモノを勝ることはできない。
なので、それっぽいアイデアをふんだんに注ぎ込んだ──トゥールビヨン擬きである。
「それを今説明するってことは、チャルがどうして空を走れているかに繋がるってことだよね?」
「まあ、それでもいいけど……ちょうど、それをあっちでやっているぞ」
今の説明を、自由民でも分かりやすく、かつ祈念者たちに情報の特定をされないようにアンがしてくれていた。
たぶん、というか間違いなく彼女の方が説明も上手いので、そちらにお任せしよう。
≪重力を意図的に分散できるチャル選手は、同様に重力の渦を展開することが可能です。今回の場合、上向きの重力を足元に広げ、足場代わりにしているのです≫
≪風属性の魔法や武技で無い以上、ヴィント選手が奪うことはできないということ。単純にジャンプするだけでは魔法による妨害を受けますが……たしかに、自在に移動できるのであれば向かうことができますね!≫
≪アルカ選手は空間魔法が使えますし、他の選手もさまざまな手段で対空戦を行うことはできますよ。ただ今回は、もっとも辛抱できなかったのがチャル選手だった、ということですね≫
アンが解説してくれた通り、重力を操作して移動しているチャル。
他者に行使することは難しい、あくまで自分に使うためのモノだな。
ちなみに機構は魔法でも武技でもなく、種族の性質に近い。
要するに、ある程度なら身力の消費を必要とせずとも使うことができるということだ。
「まあ、というわけだな。ただ、接近してもヴィントには風の力がある。普通はどうやっても攻撃が成功しないだろう。フーラとフーリには言ったんだが、運任せな攻撃が通用しなくなるんだ」
「理詰めでやんなきゃいけなくて、それをするのが精密機械な戦闘狂? なんてマッチング、ピッタリすぎじゃん」
「世の中そういうもんだろ。そもそも、眷属の誰かが動いた時点でアイツは死ぬ。問題は残りの二人を、どう眷属たちが戦うかを念話でやり取りしている点だな」
「そういえば、メルスにはみんなの念話が聞こえるんだよね……そういう用途とか、シてないよね」
眷属たちが使う念話は、特別なことがない限り[眷軍強化]を媒介にしている。
無魔法の“念話”と違って、こちらだと同時接続人数や距離などに制限が無いからな。
ソウとシュリュで、どちらがどちらと戦うで揉めている。
どちらでもいいだろうに……おっと、そうこうしている間に終わりそうだ。
≪これはどういうことだ! チャル選手の猛攻を捌き続けていたヴィント選手、少しずつ追い込まれ始めたぞ! すでに上空とも言えない低空まで落とされ、じわじわと削られているぞ!≫
≪いかに強大な力を保有していようと、攻撃のすべてを精確に放っているチャル選手には通用しません。自力で捌けず武技やスキルに頼る以上、そこは消耗勝負となります≫
≪しかしアン様、それはチャル選手も同じなのでは?≫
≪情報によると、彼女には擬似的な永久機関が搭載されているようです。時間経過で消耗した分も補っていくので、時間は確実にチャル選手の味方となります≫
ヴィントも抵抗してはいる。
何やら貴重なユニーク種の特典やクエストボスの討伐報酬など、いろんなアイテムを放出していた。
何でもありのルールにしてあるので、可能ではあるんだが……うん、全然足りない。
彼女が両手に嵌めた拳鍔、それらは俺が創り上げた武装。
分解と破壊、二つの力で出されたアイテムすべてを無効化し、攻撃し続けている。
もう奪った風もほぼ尽きかけ、抗う術もないまま──『英雄』は頬を殴られた。
===============================
運命という概念の風を背にたなびかせ、自在に宙を舞う『失風英雄』ヴィント。
参加者全員が自身に吹く風を奪われ、それらすべてが彼に吹いている。
そんな彼は現在、意図的に他の参加者同士で戦わせようと場を操作していた。
風魔法による攻撃を迎撃する際、周りにも被害が及ぶようにしているのだ。
普通は上手くいかないだろうが、今は彼に有利な風が吹いている現状。
時折失敗することもあるが、その大半が上手くいっている。
「でも、全然効いてないよね?」
「攻撃の誘導はできても、その後にやり合うかどうかは別だからな。他者同士の風まで、操作できないんだよな。今は自分の状態確認と身力の回復をするために、とりあえずそのまま様子を窺っているだけだ」
「じゃあ、誰かが動こうと思ったらすぐにでもこの均衡は崩れるの?」
「そりゃまあ、そうなるだろう。ほら、さっそく一人動き出した」
勢いよく地面を蹴りつけ、そのまま空を走り抜けるのは機人族の女性。
ただし、本来無表情な顔は、つり上がるほどの笑みを浮かべていた。
「トゥールビヨンって知ってるか?」
「……何それ」
「さすがに知らないか。まあ、本当は時計とかに組み込まれるシステム? というか機構なんだが、重力を分散できるんだよ。ちなみにこれ、渦って意味らしいぞ」
「あー、そういえば、ワタシたちの世界にもそんなラノベがあったかな。メルスはそれを参考にしたんだね」
アイリスの言う通りではあるが、ただやるとしても本来のモノを勝ることはできない。
なので、それっぽいアイデアをふんだんに注ぎ込んだ──トゥールビヨン擬きである。
「それを今説明するってことは、チャルがどうして空を走れているかに繋がるってことだよね?」
「まあ、それでもいいけど……ちょうど、それをあっちでやっているぞ」
今の説明を、自由民でも分かりやすく、かつ祈念者たちに情報の特定をされないようにアンがしてくれていた。
たぶん、というか間違いなく彼女の方が説明も上手いので、そちらにお任せしよう。
≪重力を意図的に分散できるチャル選手は、同様に重力の渦を展開することが可能です。今回の場合、上向きの重力を足元に広げ、足場代わりにしているのです≫
≪風属性の魔法や武技で無い以上、ヴィント選手が奪うことはできないということ。単純にジャンプするだけでは魔法による妨害を受けますが……たしかに、自在に移動できるのであれば向かうことができますね!≫
≪アルカ選手は空間魔法が使えますし、他の選手もさまざまな手段で対空戦を行うことはできますよ。ただ今回は、もっとも辛抱できなかったのがチャル選手だった、ということですね≫
アンが解説してくれた通り、重力を操作して移動しているチャル。
他者に行使することは難しい、あくまで自分に使うためのモノだな。
ちなみに機構は魔法でも武技でもなく、種族の性質に近い。
要するに、ある程度なら身力の消費を必要とせずとも使うことができるということだ。
「まあ、というわけだな。ただ、接近してもヴィントには風の力がある。普通はどうやっても攻撃が成功しないだろう。フーラとフーリには言ったんだが、運任せな攻撃が通用しなくなるんだ」
「理詰めでやんなきゃいけなくて、それをするのが精密機械な戦闘狂? なんてマッチング、ピッタリすぎじゃん」
「世の中そういうもんだろ。そもそも、眷属の誰かが動いた時点でアイツは死ぬ。問題は残りの二人を、どう眷属たちが戦うかを念話でやり取りしている点だな」
「そういえば、メルスにはみんなの念話が聞こえるんだよね……そういう用途とか、シてないよね」
眷属たちが使う念話は、特別なことがない限り[眷軍強化]を媒介にしている。
無魔法の“念話”と違って、こちらだと同時接続人数や距離などに制限が無いからな。
ソウとシュリュで、どちらがどちらと戦うで揉めている。
どちらでもいいだろうに……おっと、そうこうしている間に終わりそうだ。
≪これはどういうことだ! チャル選手の猛攻を捌き続けていたヴィント選手、少しずつ追い込まれ始めたぞ! すでに上空とも言えない低空まで落とされ、じわじわと削られているぞ!≫
≪いかに強大な力を保有していようと、攻撃のすべてを精確に放っているチャル選手には通用しません。自力で捌けず武技やスキルに頼る以上、そこは消耗勝負となります≫
≪しかしアン様、それはチャル選手も同じなのでは?≫
≪情報によると、彼女には擬似的な永久機関が搭載されているようです。時間経過で消耗した分も補っていくので、時間は確実にチャル選手の味方となります≫
ヴィントも抵抗してはいる。
何やら貴重なユニーク種の特典やクエストボスの討伐報酬など、いろんなアイテムを放出していた。
何でもありのルールにしてあるので、可能ではあるんだが……うん、全然足りない。
彼女が両手に嵌めた拳鍔、それらは俺が創り上げた武装。
分解と破壊、二つの力で出されたアイテムすべてを無効化し、攻撃し続けている。
もう奪った風もほぼ尽きかけ、抗う術もないまま──『英雄』は頬を殴られた。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる