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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り三日目 その04

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連続更新です(04/12)
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 運命という概念の風を背にたなびかせ、自在に宙を舞う『失風英雄』ヴィント。
 参加者全員が自身に吹く風を奪われ、それらすべてが彼に吹いている。

 そんな彼は現在、意図的に他の参加者同士で戦わせようと場を操作していた。
 風魔法による攻撃を迎撃する際、周りにも被害が及ぶようにしているのだ。

 普通は上手くいかないだろうが、今は彼に有利な風が吹いている現状。
 時折失敗することもあるが、その大半が上手くいっている。


「でも、全然効いてないよね?」

「攻撃の誘導はできても、その後にやり合うかどうかは別だからな。他者同士の風まで、操作できないんだよな。今は自分の状態確認と身力の回復をするために、とりあえずそのまま様子を窺っているだけだ」

「じゃあ、誰かが動こうと思ったらすぐにでもこの均衡は崩れるの?」

「そりゃまあ、そうなるだろう。ほら、さっそく一人動き出した」


 勢いよく地面を蹴りつけ、そのまま空を走り抜けるのは機人族の女性。
 ただし、本来無表情な顔は、つり上がるほどの笑みを浮かべていた。


「トゥールビヨンって知ってるか?」

「……何それ」

「さすがに知らないか。まあ、本当は時計とかに組み込まれるシステム? というか機構なんだが、重力を分散できるんだよ。ちなみにこれ、渦って意味らしいぞ」

「あー、そういえば、ワタシたちの世界にもそんなラノベがあったかな。メルスはそれを参考にしたんだね」


 アイリスの言う通りではあるが、ただやるとしても本来のモノを勝ることはできない。
 なので、それっぽいアイデアをふんだんにぎ込んだ──トゥールビヨン擬きである。


「それを今説明するってことは、チャルがどうして空を走れているかに繋がるってことだよね?」

「まあ、それでもいいけど……ちょうど、それをあっちでやっているぞ」


 今の説明を、自由民でも分かりやすく、かつ祈念者たちに情報の特定をされないようにアンがしてくれていた。

 たぶん、というか間違いなく彼女の方が説明も上手いので、そちらにお任せしよう。


≪重力を意図的に分散できるチャル選手は、同様に重力の渦を展開することが可能です。今回の場合、上向きの重力を足元に広げ、足場代わりにしているのです≫

≪風属性の魔法や武技で無い以上、ヴィント選手が奪うことはできないということ。単純にジャンプするだけでは魔法による妨害を受けますが……たしかに、自在に移動できるのであれば向かうことができますね!≫

≪アルカ選手は空間魔法が使えますし、他の選手もさまざまな手段で対空戦を行うことはできますよ。ただ今回は、もっとも辛抱できなかったのがチャル選手だった、ということですね≫


 アンが解説してくれた通り、重力を操作して移動しているチャル。
 他者に行使することは難しい、あくまで自分に使うためのモノだな。

 ちなみに機構は魔法でも武技でもなく、種族の性質に近い。
 要するに、ある程度なら身力の消費を必要とせずとも使うことができるということだ。


「まあ、というわけだな。ただ、接近してもヴィントには風の力がある。普通はどうやっても攻撃が成功しないだろう。フーラとフーリには言ったんだが、運任せな攻撃が通用しなくなるんだ」

「理詰めでやんなきゃいけなくて、それをするのが精密機械な戦闘狂? なんてマッチング、ピッタリすぎじゃん」

「世の中そういうもんだろ。そもそも、眷属の誰かが動いた時点でアイツは死ぬ。問題は残りの二人を、どう眷属たちが戦うかを念話でやり取りしている点だな」

「そういえば、メルスにはみんなの念話が聞こえるんだよね……そういう用途とか、シてないよね」


 眷属たちが使う念話は、特別なことがない限り[眷軍強化]を媒介にしている。
 無魔法の“念話”と違って、こちらだと同時接続人数や距離などに制限が無いからな。

 ソウとシュリュで、どちらがどちらと戦うで揉めている。
 どちらでもいいだろうに……おっと、そうこうしている間に終わりそうだ。


≪これはどういうことだ! チャル選手の猛攻を捌き続けていたヴィント選手、少しずつ追い込まれ始めたぞ! すでに上空とも言えない低空まで落とされ、じわじわと削られているぞ!≫

≪いかに強大な力を保有していようと、攻撃のすべてを精確に放っているチャル選手には通用しません。自力で捌けず武技やスキルに頼る以上、そこは消耗勝負となります≫

≪しかしアン様、それはチャル選手も同じなのでは?≫

≪情報によると、彼女には擬似的な永久機関が搭載されているようです。時間経過で消耗した分も補っていくので、時間は確実にチャル選手の味方となります≫


 ヴィントも抵抗してはいる。
 何やら貴重なユニーク種の特典やクエストボスの討伐報酬など、いろんなアイテムを放出していた。

 何でもありのルールにしてあるので、可能ではあるんだが……うん、全然足りない。
 彼女が両手に嵌めた拳鍔、それらは俺が創り上げた武装。

 分解と破壊、二つの力で出されたアイテムすべてを無効化し、攻撃し続けている。
 もう奪った風もほぼ尽きかけ、抗う術もないまま──『英雄』は頬を殴られた。


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