1,712 / 2,518
偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り三日目 その03
しおりを挟む
連続更新です(03/12)
===============================
コロシアムの試合を観戦中の俺、アイリスとフィレルの三人。
アルカが初手で魔法をぶっ放し、隙だと見た参加者たちから狙われたのだが……。
「──けどまあ、ああなるよね。だって、アルカちゃん全然疲れてないもん」
「そうですね……旦那様の渡した武具の性能もありますが、彼女自身が非常に効率のいい魔法を行使しているということもあります」
彼女に徒党を組んで襲い掛かる参加者たちだったが、放たれた攻撃の数々を転移系の魔法で回避する。
少々燃費が悪いことで有名な空間魔法なのだが、アルカは難なくそれを発動した。
先ほどまで魔法をぶっ放していたが……それはあくまで、全魔力中の二割程度である。
彼女は杖術などは習得しておらず、得られるSPはすべて魔法スキルに振っていた。
なので接近されると困るため、距離を確実に取ってから──再度魔法をぶっ放す。
「神器になった影響か、性能が少し変な方向に進化しているんだよな。アレは魔法を使うための補助をしていない、あくまでアルカ自身が魔法を放つためのサポートだ」
「……それって、同じことじゃない?」
「分かりやすく言うとだな。前までは消費を抑えたり、威力を上げたりしていた。けど、今はそれがまったくない。それまで使っていたリソースをすべて裂いて、代わりに獲得したのは──魔法の自在発動だ」
「じ、自在発動!? ……って、つまり?」
鑑定眼でじっくりと調べて、ようやく知ることができた新たな極致。
昔よりも強くなったアルカだからこそ、その性能を十全に使えている。
「魔法のキャスト・リキャストタイムはゼロになる。また、ありとあらゆる魔法が使用可能ということだ」
「……それ、チートじゃない?」
「ある意味な。ただし、魔法の構築は全部自分でやらないといけないし、適正の無い魔法の行使には普通よりも魔力を使う。魔力特化で【賢者】なアルカだからこそ、とりあえずは使えている」
「とりあえず、ですか。つまり、まだ先があるということですね」
フィレルの言う通り、まだまだ可能性である成長スキルが残っている。
彼女自身も、極級職に就けば魔法をより上手く使えるようになるだろう。
「固有スキルである【思考詠唱】も、進化していない。通常ルートだと【思念起動】ってスキルになるんだが……アルカが魔法に特化したことで、そっちになる必要が無かったみたいなんだよ」
「名前からして、詠唱以外にもできるとかそういう感じ? 考えるだけで使えるのと、念じるだけで使えるの……どっちが楽なの?」
「人によるだろう。世の中には、意識して念じることよりも、思考に耽る方が得意な奴もいる。アルカもそういうタイプ、ただそれだけだな──うわっ、えげつな」
イイことを言っていたような気もするが、アルカが放った魔法でそれも台無しに。
いつの間にやら舞台は、本来の姿を喪失していた。
≪い、いったい何が起きたのでしょうか……開幕の魔法同様、理解できませんでした≫
≪初手は無数に鏤めた魔法を起動させたのに対し、今回はマス目に合わせて空間魔法での裁断を行ったようです。その結果、動かずにいた参加者を除いて全員が切り刻まれることになりました≫
≪その……どうしてマス目である必要があったのでしょうか? わざわざそうせずとも、初めから水平に使えば良かったのでは?≫
≪それでは失敗すると、確信していたのかもしれません。どうやら……ここからが本番のようです≫
空間魔法が舞台を切り刻んだ結果、残されたのは数個分のブロックのみ。
精密で緻密、綿密な魔法構築の結果が現実に反映されたわけだ。
アルカと眷属に加え、まだ二人の参加者が残り──現在、六人。
この中から最強が決まるのだが、不動を選択していた者たちが動き出す。
≪こ、これは……崩れたはずの舞台が浮かび上がった! 間違いありません、これは彼の仕業です!≫
≪『失風英雄』のヴィント選手ですね。浮かせた舞台を、どうやらぶつけるようです。ただの物理攻撃ではなく、風を纏わせているのでしょうか≫
≪ですが、全員がそれぞれ異なる方法で防いでおります! さすがは決勝進出者です!≫
アルカも眷属も当然のこと、残り一人もただの魔法付与付きの瓦礫程度なら容易く防ぐことができる。
素手や武器、魔法などを用いて風を防いだ参加者たち。
一方で、それを行ったヴィントは風魔法でも使ったのか宙に浮かび上がる。
「あー、これも仕方ないか。俺だって、面倒なことになるとは思わないもんな」
「メルス、もしかしてネタバレ? ワタシは気にしないからどんどん教えてよ」
「いや、ヒントだけ言うから自分で考えてみてくれ。風を失う英雄と書いて『失風英雄』だが、それは誰が失うんだ? 見ての通り、彼は風が使える」
察しのいい眷属たちなので、これだけ言えば答えが分かるだろう。
アイリスもフィレルと共に頭を捻り、すぐに答えへ辿りつく。
「つまりそれは、相手なんだね……何か条件があると。うーん、フィレルはどう思う?」
「このタイミングで旦那様が申す以上、わざと躱すのではなく破壊が簡単な先ほどの攻撃が鍵となっているのですね。となると、条件はおそらく──自身で生み出した風属性の攻撃を、他者に接触させること」
「どうかな、これで正解?」
「まあ、正解だな。ちなみに固有スキルの名称は【失風渡盗】、いろいろと制限はあるが今回はそれをクリアした……さて、他の奴らはどう対応するのかな?」
参加者全員の優位性を、概念として奪った彼を倒すのは一苦労だ。
ただまあ、今戦っているのは常識知らずの怪物たちばかり……それだけだとなー。
===============================
コロシアムの試合を観戦中の俺、アイリスとフィレルの三人。
アルカが初手で魔法をぶっ放し、隙だと見た参加者たちから狙われたのだが……。
「──けどまあ、ああなるよね。だって、アルカちゃん全然疲れてないもん」
「そうですね……旦那様の渡した武具の性能もありますが、彼女自身が非常に効率のいい魔法を行使しているということもあります」
彼女に徒党を組んで襲い掛かる参加者たちだったが、放たれた攻撃の数々を転移系の魔法で回避する。
少々燃費が悪いことで有名な空間魔法なのだが、アルカは難なくそれを発動した。
先ほどまで魔法をぶっ放していたが……それはあくまで、全魔力中の二割程度である。
彼女は杖術などは習得しておらず、得られるSPはすべて魔法スキルに振っていた。
なので接近されると困るため、距離を確実に取ってから──再度魔法をぶっ放す。
「神器になった影響か、性能が少し変な方向に進化しているんだよな。アレは魔法を使うための補助をしていない、あくまでアルカ自身が魔法を放つためのサポートだ」
「……それって、同じことじゃない?」
「分かりやすく言うとだな。前までは消費を抑えたり、威力を上げたりしていた。けど、今はそれがまったくない。それまで使っていたリソースをすべて裂いて、代わりに獲得したのは──魔法の自在発動だ」
「じ、自在発動!? ……って、つまり?」
鑑定眼でじっくりと調べて、ようやく知ることができた新たな極致。
昔よりも強くなったアルカだからこそ、その性能を十全に使えている。
「魔法のキャスト・リキャストタイムはゼロになる。また、ありとあらゆる魔法が使用可能ということだ」
「……それ、チートじゃない?」
「ある意味な。ただし、魔法の構築は全部自分でやらないといけないし、適正の無い魔法の行使には普通よりも魔力を使う。魔力特化で【賢者】なアルカだからこそ、とりあえずは使えている」
「とりあえず、ですか。つまり、まだ先があるということですね」
フィレルの言う通り、まだまだ可能性である成長スキルが残っている。
彼女自身も、極級職に就けば魔法をより上手く使えるようになるだろう。
「固有スキルである【思考詠唱】も、進化していない。通常ルートだと【思念起動】ってスキルになるんだが……アルカが魔法に特化したことで、そっちになる必要が無かったみたいなんだよ」
「名前からして、詠唱以外にもできるとかそういう感じ? 考えるだけで使えるのと、念じるだけで使えるの……どっちが楽なの?」
「人によるだろう。世の中には、意識して念じることよりも、思考に耽る方が得意な奴もいる。アルカもそういうタイプ、ただそれだけだな──うわっ、えげつな」
イイことを言っていたような気もするが、アルカが放った魔法でそれも台無しに。
いつの間にやら舞台は、本来の姿を喪失していた。
≪い、いったい何が起きたのでしょうか……開幕の魔法同様、理解できませんでした≫
≪初手は無数に鏤めた魔法を起動させたのに対し、今回はマス目に合わせて空間魔法での裁断を行ったようです。その結果、動かずにいた参加者を除いて全員が切り刻まれることになりました≫
≪その……どうしてマス目である必要があったのでしょうか? わざわざそうせずとも、初めから水平に使えば良かったのでは?≫
≪それでは失敗すると、確信していたのかもしれません。どうやら……ここからが本番のようです≫
空間魔法が舞台を切り刻んだ結果、残されたのは数個分のブロックのみ。
精密で緻密、綿密な魔法構築の結果が現実に反映されたわけだ。
アルカと眷属に加え、まだ二人の参加者が残り──現在、六人。
この中から最強が決まるのだが、不動を選択していた者たちが動き出す。
≪こ、これは……崩れたはずの舞台が浮かび上がった! 間違いありません、これは彼の仕業です!≫
≪『失風英雄』のヴィント選手ですね。浮かせた舞台を、どうやらぶつけるようです。ただの物理攻撃ではなく、風を纏わせているのでしょうか≫
≪ですが、全員がそれぞれ異なる方法で防いでおります! さすがは決勝進出者です!≫
アルカも眷属も当然のこと、残り一人もただの魔法付与付きの瓦礫程度なら容易く防ぐことができる。
素手や武器、魔法などを用いて風を防いだ参加者たち。
一方で、それを行ったヴィントは風魔法でも使ったのか宙に浮かび上がる。
「あー、これも仕方ないか。俺だって、面倒なことになるとは思わないもんな」
「メルス、もしかしてネタバレ? ワタシは気にしないからどんどん教えてよ」
「いや、ヒントだけ言うから自分で考えてみてくれ。風を失う英雄と書いて『失風英雄』だが、それは誰が失うんだ? 見ての通り、彼は風が使える」
察しのいい眷属たちなので、これだけ言えば答えが分かるだろう。
アイリスもフィレルと共に頭を捻り、すぐに答えへ辿りつく。
「つまりそれは、相手なんだね……何か条件があると。うーん、フィレルはどう思う?」
「このタイミングで旦那様が申す以上、わざと躱すのではなく破壊が簡単な先ほどの攻撃が鍵となっているのですね。となると、条件はおそらく──自身で生み出した風属性の攻撃を、他者に接触させること」
「どうかな、これで正解?」
「まあ、正解だな。ちなみに固有スキルの名称は【失風渡盗】、いろいろと制限はあるが今回はそれをクリアした……さて、他の奴らはどう対応するのかな?」
参加者全員の優位性を、概念として奪った彼を倒すのは一苦労だ。
ただまあ、今戦っているのは常識知らずの怪物たちばかり……それだけだとなー。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる