上 下
1,702 / 2,518
偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り二日目 その13

しおりを挟む


「──『魔矢マシ』、『魔壁マヘキ』!」

「チマチマチマチマ……うっとうしい!」

「それでも──『魔剣マケン』、『刃火ニンカ』」


 始まった試合。

 さっそく俺を退場させようと動き出した祈念者に、魔術を多用していく。
 デバイスのことは知っていたようだが、俺が使うとは思っていなかったようだ。

 まだ出たばかり、しかも高額の品。
 俺みたいな雑魚では得られないと……だからこそ、今の内に使っておく。

 今回売り出した魔術は、橙色の世界でも普通に販売されている下位の魔術のみ。
 子供たちが『種思』を開花させ、魔術を使えるようになったら使う程度のモノだ。

 魔力をデバイス越しに放ち、変形や変質させるだけの魔術である。
 しかし、利点が一つだけある……純魔法と同質のものなので、絶対に干渉できるのだ。


「[ヘルプ]に書いてあったが、本当に魔術は厄介だな!」

「てりゃぁあ!」

「武技も使えない、その程度の実力で勝てると思うなよ──“四角斬スクウェアスラッシュ”!」


 四連撃を放つ男。
 俺は魔力の剣をただ振るい、そのすべてを捌く……ティル師匠の教えを受ければ、オートの武技程度なら簡単に対処可能だ。

 俺の戦闘記録は把握していなかったのか、それとも自分の攻撃は防げないと思っていたのか……俺がパリィに成功すると、とても驚いて隙を見せた男。


「──『土を生むCreo Solo』!」

「もがぁっ!」

「──『埋土マイド』、『埋土』、『埋土』、『埋土』、『埋土』、『埋土』、『埋土』!」


 デバイスを突き付けて、連続して発動させるのは土に埋める魔法。
 男の足元に穴が生まれ、その下にもまた穴が生まれる。

 予め抵抗されないように、口内に土を大量にぶち込んでおいた。
 これでそのまま落ちれば、死ぬこと間違いなしだろう……が、念のため。


「テメェ、この野ろ──」

「“魔壁マヘキ”」

「がぁっ!」


 穴の出口から、真下に向けて魔力の壁を延長していく。
 どうやら何らかの方法で、登ってきていたようだが……うん、命中した。

 三対三の戦いなので、他にも二人……先ほど苛立つ態度を取った男も含め、まだ残っているけど、そっちはフーラとフーリが絶賛対応中だ。

 どうやら俺が完封している姿を見ていてくれたようで、とても嬉しそうである。
 代わりに、敵の俺に対する好感度がだだ下がりだが……最初から要らないからな。


「『光刃コウジン』、『闇刃アジン』!」


 フーラとフーリが握る一本ずつの双剣に、魔術で付与を行う。
 もともと黒、もしくは白かった刃がさらに付与された属性によって刃を染め上げる。

 フーラが持つのは[黒夜]、フーリが持つのは[白夜]。
 そして双剣の名は『神災双劉』、シュリュの爪や鱗で生み出された武器だ。


「フーリ、合わせて!」
「……うん」

「「──“双切斬ツインスラッシュ”!」」


 二人で合わせ、双剣の武技を使う。
 言葉で表せばとても簡単だが、本来不可能に近い芸当だ。

 双剣用の武技なので、当然独りで剣を二本使うことで、行うことが想定されている。
 それを二人で、しかもほぼマニュアルでやろうとしているのだ。

 メリットは、成功した際に二人分の武技補正付きの威力が出せる点。
 デメリットは……特にない。
 ただ難しい、それだけが壁となる。


「けど、二人はできるんだよな……おっと、このままじゃ死んじゃうな──『埋土』」


 俺を蔑んだ方の足元に、小さな穴を生んでおくだけでいい。
 本来想定していなかった回避行動により、彼は奇跡的に生き残った……意図的だが。

 これで二人死んで、残ったのは彼のみ。
 しかも先ほどの斬撃が、彼をもう死にかけの状態にしている。

 フーラとフーリに話し、ほぼ勝敗は決したので退場してもらう。
 最後は一対一で決める、とか変更は後からでもできるのだ。

 ……心配だとかなり言われたが、二人の腕前を信じていると伝えておく。
 実際彼はもう身動きを取れていないし、もう抵抗できないだろう。


「よく生き残りましたね、賞賛に値します。二人は、二人だからこそ最強ですので」

「よく言いますね……魔術で、『バッキ』と同じように穴を造ったあなたが」

「彼はバッキと言うんですか……まあ、どうでもいいです。どうしてこうなったか、だいたい予想は付きますよね?」

「……?」


 おやおや、お忘れのようだ。
 彼のように心が広い人間にとって、些細すぎるモブへの対応など、息をするように当たり前にやっているのだろう。

 えぇえぇ、そうともそうとも。
 どうせ俺は技量も心も小さい、自他ともに認めるモブですよーだ。


「──“脱力解放ベント”」

「それは……ぐあぁあああ!」

「拷問用の魔法としても有名ですよね? 私怨ではありますが、しばらく付き合ってもらいますよ……ああ、最後はちゃんとアレを使いますのでご安心を」


 対象の身力を強制的に外へ排出する。
 上手く魔力を扱えない子供などに、大人が操作を行えるように使う矯正用の魔法なのだが……こういう使い方も存在した。

 まあ、魔力を削ぐついでに身力まで削げるのは、そちらも把握できる者だけなんだが。
 そして意図的にやらない限り、普通は魔力以外は引っこ抜けない。

 何度も何度も、自動回復系のスキルで戻る身力を奪っていく。
 こういうことをやっていると、新しいスキルを得ていく……適性があるんだよな。


「そろそろ終わりにしましょう……何か、言い残したことは?」

「……クソッたれめ、地獄に堕ちろ」

「本性剥き出しなその言葉、僕は結構好きですけどね──“魔力線マジックライン”、“集力爆発アウトバースト”」

「……覚えていろ、必ず復讐してや──」


 全部を言わせる前に、彼の魔力回路を乗っ取り発動させた魔法が起動した。
 一点に魔力を集め、強制的に発生させる魔力の暴発……これで彼は完全に死んだ。

 バトルフィールドの、コロシアムに展開された非殺傷結界で死んだ以上、彼らは死に戻りせず席のどこかに戻ったはず。

 俺への憎悪でも貯めている頃だろう……このイベント中に、ぜひとも会いたい。
 新しいスキル、そしてまた得られるであろうスキルを俺は待ち望んでいるのだから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...