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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り二日目 その13
しおりを挟む「──『魔矢』、『魔壁』!」
「チマチマチマチマ……うっとうしい!」
「それでも──『魔剣』、『刃火』」
始まった試合。
さっそく俺を退場させようと動き出した祈念者に、魔術を多用していく。
デバイスのことは知っていたようだが、俺が使うとは思っていなかったようだ。
まだ出たばかり、しかも高額の品。
俺みたいな雑魚では得られないと……だからこそ、今の内に使っておく。
今回売り出した魔術は、橙色の世界でも普通に販売されている下位の魔術のみ。
子供たちが『種思』を開花させ、魔術を使えるようになったら使う程度のモノだ。
魔力をデバイス越しに放ち、変形や変質させるだけの魔術である。
しかし、利点が一つだけある……純魔法と同質のものなので、絶対に干渉できるのだ。
「[ヘルプ]に書いてあったが、本当に魔術は厄介だな!」
「てりゃぁあ!」
「武技も使えない、その程度の実力で勝てると思うなよ──“四角斬”!」
四連撃を放つ男。
俺は魔力の剣をただ振るい、そのすべてを捌く……ティル師匠の教えを受ければ、オートの武技程度なら簡単に対処可能だ。
俺の戦闘記録は把握していなかったのか、それとも自分の攻撃は防げないと思っていたのか……俺がパリィに成功すると、とても驚いて隙を見せた男。
「──『土を生む』!」
「もがぁっ!」
「──『埋土』、『埋土』、『埋土』、『埋土』、『埋土』、『埋土』、『埋土』!」
デバイスを突き付けて、連続して発動させるのは土に埋める魔法。
男の足元に穴が生まれ、その下にもまた穴が生まれる。
予め抵抗されないように、口内に土を大量にぶち込んでおいた。
これでそのまま落ちれば、死ぬこと間違いなしだろう……が、念のため。
「テメェ、この野ろ──」
「“魔壁”」
「がぁっ!」
穴の出口から、真下に向けて魔力の壁を延長していく。
どうやら何らかの方法で、登ってきていたようだが……うん、命中した。
三対三の戦いなので、他にも二人……先ほど苛立つ態度を取った男も含め、まだ残っているけど、そっちはフーラとフーリが絶賛対応中だ。
どうやら俺が完封している姿を見ていてくれたようで、とても嬉しそうである。
代わりに、敵の俺に対する好感度がだだ下がりだが……最初から要らないからな。
「『光刃』、『闇刃』!」
フーラとフーリが握る一本ずつの双剣に、魔術で付与を行う。
もともと黒、もしくは白かった刃がさらに付与された属性によって刃を染め上げる。
フーラが持つのは[黒夜]、フーリが持つのは[白夜]。
そして双剣の名は『神災双劉』、シュリュの爪や鱗で生み出された武器だ。
「フーリ、合わせて!」
「……うん」
「「──“双切斬”!」」
二人で合わせ、双剣の武技を使う。
言葉で表せばとても簡単だが、本来不可能に近い芸当だ。
双剣用の武技なので、当然独りで剣を二本使うことで、行うことが想定されている。
それを二人で、しかもほぼマニュアルでやろうとしているのだ。
メリットは、成功した際に二人分の武技補正付きの威力が出せる点。
デメリットは……特にない。
ただ難しい、それだけが壁となる。
「けど、二人はできるんだよな……おっと、このままじゃ死んじゃうな──『埋土』」
俺を蔑んだ方の足元に、小さな穴を生んでおくだけでいい。
本来想定していなかった回避行動により、彼は奇跡的に生き残った……意図的だが。
これで二人死んで、残ったのは彼のみ。
しかも先ほどの斬撃が、彼をもう死にかけの状態にしている。
フーラとフーリに話し、ほぼ勝敗は決したので退場してもらう。
最後は一対一で決める、とか変更は後からでもできるのだ。
……心配だとかなり言われたが、二人の腕前を信じていると伝えておく。
実際彼はもう身動きを取れていないし、もう抵抗できないだろう。
「よく生き残りましたね、賞賛に値します。二人は、二人だからこそ最強ですので」
「よく言いますね……魔術で、『バッキ』と同じように穴を造ったあなたが」
「彼はバッキと言うんですか……まあ、どうでもいいです。どうしてこうなったか、だいたい予想は付きますよね?」
「……?」
おやおや、お忘れのようだ。
彼のように心が広い人間にとって、些細すぎるモブへの対応など、息をするように当たり前にやっているのだろう。
えぇえぇ、そうともそうとも。
どうせ俺は技量も心も小さい、自他ともに認めるモブですよーだ。
「──“脱力解放”」
「それは……ぐあぁあああ!」
「拷問用の魔法としても有名ですよね? 私怨ではありますが、しばらく付き合ってもらいますよ……ああ、最後はちゃんとアレを使いますのでご安心を」
対象の身力を強制的に外へ排出する。
上手く魔力を扱えない子供などに、大人が操作を行えるように使う矯正用の魔法なのだが……こういう使い方も存在した。
まあ、魔力を削ぐついでに身力まで削げるのは、そちらも把握できる者だけなんだが。
そして意図的にやらない限り、普通は魔力以外は引っこ抜けない。
何度も何度も、自動回復系のスキルで戻る身力を奪っていく。
こういうことをやっていると、新しいスキルを得ていく……適性があるんだよな。
「そろそろ終わりにしましょう……何か、言い残したことは?」
「……クソッたれめ、地獄に堕ちろ」
「本性剥き出しなその言葉、僕は結構好きですけどね──“魔力線”、“集力爆発”」
「……覚えていろ、必ず復讐してや──」
全部を言わせる前に、彼の魔力回路を乗っ取り発動させた魔法が起動した。
一点に魔力を集め、強制的に発生させる魔力の暴発……これで彼は完全に死んだ。
バトルフィールドの、コロシアムに展開された非殺傷結界で死んだ以上、彼らは死に戻りせず席のどこかに戻ったはず。
俺への憎悪でも貯めている頃だろう……このイベント中に、ぜひとも会いたい。
新しいスキル、そしてまた得られるであろうスキルを俺は待ち望んでいるのだから。
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