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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り二日目 その08
しおりを挟むディーは俺が与えた魔力によって、一時的に強化された。
今は『鉄魔粘体』状態なので、主に強度が上がっている。
対戦者である男がひたすら放ってくる魔法攻撃を、ディーの刃を用いて斬っていく。
偉大なるティル師匠によって、それだけは一人前に実行することができる。
「雑魚が、なんでそんなことできるんだ!」
「僕だって、必死に頑張ってるんです」
「雑魚が喚くんじゃねえよ……“縮地”!」
「──“思考加速”!」
身力操作スキルで調整を行い、身体強化スキルが行っていた体内の強化も思考加速スキルに回す。
もともと加速する処理速度が、処理能力を引き上がることでさらに向上する。
普段からその状態を体験しているので、俺は平然とその速度に対応できた。
準備するのは剣──[アイテムボックス]の中で待機する、ディーの模している品。
ギリギリのギリギリまで、“縮地”で近づく男が剣を振り下ろすのを待ち──動く。
「ディー!」
『ウォフ!』
俺が[アイテムボックス]から剣を取り出すその瞬間、ディーが剣から狼の姿となって地を這った。
剣が無くなったと思い込み、ディーの方へ意識を向けた男。
俺はそれを意図的に狙って、武技を重ねて行使する。
「っ……!? くそっ、変化か!」
「合わせて──“二連撃”!」
『ウォンッ!』
「チッ、しゃらくせぇ!」
放つのは、どんな武具でも使える二回同時に攻撃を放つ“二連撃”。
俺の意思に従い、ディーも死角を突いて攻撃を行うという戦法だ。
だが、相手はかなりの強者。
その程度では、倒せないようで──
「──“衝撃球”、“魔法付与”」
「くっ──“回避”!」
『!』
予め放った衝撃を生みだす魔法を、剣に纏わせて勢いよく地面に叩き付ける。
その瞬間、周囲は激しい揺れに襲われ、俺とディーは回避せざるを得なくなった。
分断され、ディーによるサポートが受けられなくなってしまう俺。
当然そんな隙があれば、男はそれを狙って攻めてくる。
何度も連続して放つ攻撃を俺は、自身を奮わせるために声を出して捌いていく。
「! はっ、せぇいっ!」
「……PS持ちか? 雑魚の癖に、無駄に捌きやがる」
「け、経験です!」
先ほどまで使っていた思考加速と、危機感知スキルが上手く働いていた。
加えて今は魔眼スキルを起動、眼にも力を籠めて最適な形で剣を受け続けている。
そうこうしているとディーが戻ってきて、狼の牙を男に向けた。
男はそれに対抗しなければなくなり、俺の方へ向けていた攻撃がいったん止まる。
その隙に攻撃をできればよかったのだが、今の俺は初心者スペック。
決める気で力を使っていたので、身力がだいぶ消耗していた。
「はぁ……! ふぅ──“再生”」
だいぶ前に会得した、動きながらでもできる瞑想スキルの実行。
その上位スキルな再生スキルも、本来は動かない方が回復速度を上げられる。
動くことで速度が落ちるはずのところを、その技術を使い通常速度で回復可能にした。
ただ、こちらの体だと初めてなので……牛歩の歩みが如き速度でしか動けない。
ディーが時間を稼いでくれているので、少しずつ回復している。
それでも万全まで戻すことは、このままではできないだろう。
「魔本解読──“魔力自動回復・高”」
魔本を取り出し、展開する。
低とか高が付くスキルは本来、人族には習得不可能なスキルなのだが……魔本による限定的な付与なら、使うことが可能だ。
お陰でグングンと魔力が回復し、ある程度準備が整った。
あまり派手なことはできないので、今回使うのは弓……そして、チートな種だけだ。
「セット──『海樹』。武技“植矢”」
「はっ、今さら弓かよ。その程度で何ができるってんだ!」
「……“矢壌”」
一本目の矢は躱された。
相手はディーの攻撃を受けつつ、それをするだけの余裕を持っている……だからこそ、こうして油断したわけだ。
二本目の矢は、寸分違わず一本目の矢が刺さった場所に命中する。
初めは何も起きない……だが、少しするとそこには──小さな芽が出てきた。
「なんだ、これ……っ!?」
「急いだ方がいいと思うよ。それ、辺りのエネルギーを根こそぎ食い尽くすからね」
海のように怒涛の勢いで増殖し、バリケードとするために生みだされた樹木だ。
ユラルが一から作った物なので、これを最初から知っているということはありえない。
「くそっ、離せ──“火炎斬”!」
「あははっ、無理無理。その力は『海樹』を育てる餌にしかならないよ。生き残りたいなら、外にいっさい身力のエネルギーを漏らさないだけでいいんだから」
「んなこと、できるわけねぇだろ!」
「できるから、僕は襲われないんだよ。それじゃあディー──“送還”」
ディーもまだそれができないので、襲われまくっていたところを回収する。
俺は身力操作で完璧に操っているので、漏れもなく活動できるのだ。
だが、レベルが高い奴ほど漏れる力も多いため、男は制御できずにどんどん吸われる。
あとはじっくりと待つだけ……抗っていたが、結局勝敗は変わらなかった。
──勝者『ノゾム』!
結界が解除されると、俺は元居た場所に帰還する……そして、近づいてきたフーラたちに抱き着かれる。
見ていてくれたみたいだな……うん、少し疲れたかな。
二人を見たら、緊張感もだいぶ解けた──この体は、しばらく休ませておこう。
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