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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り二日目 その03
しおりを挟む再びフーラが戦うことになり、PvPを行うことになった。
二人で使う双剣だと、片方だけでも敵を屠る結果になるので別の武器を使ってもらう。
両手で握り締めるのは聖なる槍──与えられた銘は[輝煌]。
彼女は長柄のそれを振り回し、対戦相手たちが放つ攻撃すべてを跳ね除けている。
「【英雄】はあらゆる武器への適性が与えられている。それがなんでか、分かる?」
「……【英雄】だから?」
「うん、正解。【勇者】が【魔王】を倒すための力を与えられているなら、【英雄】には栄える活躍が求められている。全武器への適性は、その最低限を補うためのものだよ」
ちなみに全武器適正スキルには、副次効果が存在する。
使う武器が同じでも、その持ち手を変えることで扱いが変わってしまう。
それを補うことができるのがそのスキル。
どんな使い方をしようと、それが使い手にとってもっとも好ましい扱いとなる……そしてそれは、最適と『=』ではない。
フーラが振るう槍の射程から、少しずつ距離感覚を把握する対戦者たち。
槍の弱点は隙に入られた際の対処に手間取ること、その瞬間を狙っているようだ。
彼らの一人が魔法を、もう一人が意識を強引に集める武技を使う。
フーラがそちらを向き、魔法を捌いている間に──最後の一人が接近する。
「いかに適性があっても、それはその状況にもっとも適した行動ができるわけじゃない。あくまでも、使えるだけなんだ。だから二人には、いろんな武器を使ってもらった。それに慣れて、無意識状態でも使えるように」
最後の一人が持っていた短剣を、フーラは槍で受け止める。
だが、それは先ほどまでの長柄ではなく、短槍……いや、超短槍と呼べるほどに短い。
おまけに槍の穂先から光が溢れ出し、包み込んでいる。
光の膜によって、穂先は穂ではなく剣を模るものと化していた。
「……あれ、難しい。お姉ちゃんは凄い」
「フーラとフーリで、ここには得意不得意の差があったね。フーリには瞬間的な対応力、フーラには高速……いや、光速の反射行動。意識してかしてないかの話だけど、どっちも凄いことだからね」
「私は……お姉ちゃんの方が」
「僕が保証する、二人とも同じくらいそれぞれの技術として優れているんだよ。これが終わったら、フーリにも頑張ってもらうから」
フーリの話は今はしないが、フーラの反射速度は戦闘狂たちが感心するレベルだ。
彼女は無意識でその状況に適した武器を、魔力で形成する技術を身に着けている。
あくまで[輝煌]は補助でしかない。
聖・光属性を付与するだけで、槍そのものはただただ小さな槍だ。
クラーレが持っている伸縮自在な杖とは、そもそもコンセプトが違う。
アレは伸びたり縮んだりするが、こちらはただ伸びるだけだ。
いっさい魔力を流さない状態なら、ポケットに仕舞えるほどの短さ。
そこに【英雄】の豊潤な魔力を注ぎ込むことで、調整を可能にしている。
「短剣で近づいたところで、同じように短剣となった聖槍……というか聖剣があるから、あとは技量で勝負。武技を使ったみたいだけど、その程度じゃ【英雄】は倒せないよ」
「……カッコイイ」
「そうだね。フーラは可愛いし、カッコイイ僕たちの【英雄】だよ」
フーラは特に槍と剣を使っているため、スキルとして槍剣術スキルを習得している。
今回短剣にして対応したのは、スキルがあるのでという理由でもあるな。
職業能力には書かれていないが、栄える行動には補正があるのかもしれない。
同じ短剣を振るっているというのに、彼女が短剣を使う姿はとても様になっていた。
光が熱を帯びて、相手の短剣を一刀両断。
そのまま相手ごと斬り裂くと、迷うことなく残りの二人を狩りに行く。
あっさりとやられることを想定できていなかったようで、できるのは低威力の魔法と武技を使うことだけ。
それらがフーラに通用するはずもなく、彼らは同じく光の刃に斬り裂かれた。
粒子となって消え、結界の外へ排出される者たち……そして、結界が解除され──
──勝者:『英雄と従者』
「やりましたよ、フーリ、ノゾム様!」
「うん、おめでとうフーラ!」
「……さすがお姉ちゃん」
「えへへ……」
先ほどまでの栄えた行動とは打って変わって、とても少女らしい姿を見せてくれる。
メリハリがあるというか、素を見せてくれるというか……うん、つまり可愛い!
「それじゃあ、次は二人が交代してね。今ので短剣術はある程度勉強できたけど、少し復習がしたいんだ。フーラ、頼めるかな?」
「お任せください! ノゾム様がご希望するスキルを得られるよう、努力させていただきます!」
「そ、そこまで張り切らなくてもいい……かな? うん、どれだけあってもスキルは困らないけど、あんまりやり過ぎると疲れちゃうからね。あくまで模倣を中心に、少しずつ試させてくれるかな?」
「そうですか……分かりました」
少々残念そうなのは──俺が自惚れていないなら──教える機会が少ないからだろう。
彼女は俺のためにできるなら、と張り切ってくれていたはずだ。
……ただ、それでは俺の体が持たなくなってしまう。
あくまで座学を中心として、ゆっくりとスキル獲得を目指していくことにした。
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