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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り二日目 その02
しおりを挟む「…………」
「行くよ、フーリ!」
「………………うん」
俺と同じ心情なフーリは、少々遠い目をしながらの受け答えだった。
それに気づかないフーラは、目をギラギラと闘争心で燃やして武器を振るう。
武技も装備の能力も使っていない、純粋な彼女たちの技量。
互いに握り締めた双剣の片割れを、ピタリとタイミングを合わせて宙で振るうだけ。
それだけで、巨大な劉の幻影が斬撃として放たれる。
白と黒の劉は咢を開き、目の前にいた三人の祈念者を噛み砕き──外に排出させた。
──勝者:『英雄と従者』!
俺たちと彼らを包んでいた結界が解け、使われていたエネルギーが還元されて文字を宙に浮かび上がらせる。
予め登録したチーム名を表示するのだが、今となっては虚しい……従者でどうにか留めたが、傍から見ればそれ以下の活躍だし。
──フーラ的には、彼女たちの方が従者らしいけどな。
「やりましたよ、ノゾム様!」
「……やり過ぎました」
「うん、初戦だからとりあえず好きにさせてみただけど──どっちかは休憩だね」
「ど、どうしてでしょうか!?」
「……当たり前」
うん、俺が見ているからと張り切ってくれるのは嬉しいのだが、そのテンションで攻撃すると制御が甘くなってしまう。
お陰で祈念者の攻撃はいっさい通らず、逆に攻撃はほぼ致死級になっていた。
イベント中のPvPは強制的にデスマッチなので、ギリギリ終わらずに堪えていたが。
……いちおう、生存特化の奴用のルールも施しているのだ。
何度もHPが1になると、それはそれで強制排出になったりするぞ。
フーラがその域に達する攻撃をするたび、フーリがカバーするように攻撃を減衰させる結界でどうにか抑えていた。
そうでもしないと、そもそも死んでいたし瀕死になっていただろう。
「というか、始まって一分も経ってなかったからね。できるなら、二人の内どちらかには僕の警護をしてもらいたい。僕は模倣に専念するから、自分で防御できないから」
「なら、フーリが──」
「……お姉ちゃんがやって。私が、相手をするから」
「うん、ならフーラに頼もうかな。フーラ、お願いできる?」
「わ、分かりました。ノゾム様を、絶対にお守りしますね」
俺とフーリはアイコンタクトを交わす。
このままだと、絶対にオーバーキルを繰り返すフーラをどう封じ込めるか……その結果がこれである。
同等の力を持つフーリが見本を見せることで、手加減を促すのだ。
まあ、それでもダメなら……スキルを一時的に共有してもらおうか。
◆ □ ◆ □ ◆
というわけで、再びPvPを始める。
対戦方法は二つ──直接相手を見つける、もしくはランダムで選ぶかだ。
今回は後者を選び、結界が構築される。
対戦者が離れた場所にいる場合、合計レベルが低い方が転移される……今回は俺たちの方が低いので、相手の方へ向かう。
「ん? なんだ、ガキばっかりだな! これなら楽にポイントが手に入りそうだ!」
「……そうとも限らねぇぞ。見た目詐欺の奴なんてごまんといる、アイツらだって何か隠しているかもしれない」
「警戒しすぎじゃねぇか? おいパトリ、アイツらを鑑定しろ」
三人組の内、一人はどうやら見た目だけで舐めてくれたようだ。
しかし一人は真面目なようで、こんな俺たちでも警戒している。
残りの一人が鑑定スキルを使い、こちらの情報を暴こうとしていた。
しかし、入念な細工を施してあるので、ある程度欺瞞された情報しか視れない。
「双子の合計レベルが──それぞれ120、ガキの方は──0だ!」
「0……つまり無職か? いやいや、さすがに偽装が雑過ぎるだろ!」
「気の張り過ぎだったか? ともかく、双子はカンスト職が確実に二つはあるんだ。注意して戦うぞ」
どうやら男の鑑定は、カンスト職業の合計レベルに限定したもののようだ。
いずれにせよ、俺のレベルは本当に0なのだが……まあ、どちらでもいい。
「メルス様……あの人たち、やっぱり私が倒してもよろしいですか?」
問題は、俺の隣で代わりに義憤してくれている少女を抑える方法だ。
これまた予測していたフーリが結界で包んだお陰で、殺気はまだ漏れていない。
だが時間の問題で、説得できなければ漏れて大変なことに……。
再びアイコンタクトを行い、どうにかフーラを落ち着かせるために動く。
「ねぇ、フーラ。僕はフーラに、何をしてほしいってお願いしたのかな?」
「ですが……私は、どうしても許せないんです! メルス様が、私たちにどれだけ優しくしてくれたか知らないで!」
「彼らは知らない、知る必要もないよ。何より、知られたくもない」
「メ……あっ、ノゾム様?」
良かった、元に戻っていた呼び方も再び偽名に直っている。
ちなみにフーリはこれ以上煽らせないように、可及的速やかに抹殺することを選んだ。
──彼女も彼女なりに、怒ってくれているみたいです。
「僕のやったことは偽善で、広めたいわけでもない。僕の功績は僕だけのもの、他にはそれを受けた人たちだけが知っていればいい。フーラは、どう思う?」
「それは……ですが!」
「もともとこういうことをしているのも、全部が僕のわがままなんだからね。フーラ、僕は君にとって思い出が、しっかりと残っていることが嬉しい。だから──ありがとう」
「メ、メルスしゃま!?」
眷属直伝、困ったときはハグをするべし。
曰く、抱擁されるとだいたいの感情は吹き飛んで満足するらしい。
……意味が分からないが、実際フーラはとても嬉しそうだ。
フーリも戦闘を終わらせたようで、結界が解除される。
さて、この後をどうするべきか。
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