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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り初日 その18
しおりを挟むイベントエリア トレジャーフィールド
「とゆーわけで、ヤンちゃんをメルスは褒めるべきなのです」
独特の言い回しで俺に細やかな褒美を強請る少女は、ここではないどこかにその爬虫類染みた瞳を向けている。
《はいはい、偉い偉い》
「むー、いつもと違って撫でパワーが足りないんだよ。メルスもここに来て、この偉大なるヤン様を崇めるべきじゃない?」
《そうしたいのは山々だが、今はちょっと手が離せなくて。戦闘狂どもが『選ばれし者』に手を出そうとしているから、どうにか抑え込んでいるところだ》
「それじゃあもう、仕方ないね。あたしはあの人たちがどうなったか、ジーっと観察しているしかありませんよーだ」
不服そうに頬を膨らませる彼女に苦笑しながらも、あとでやることとして覚えておく。
彼女がやっていることはそれだけ重要なことで、ご褒美が必要だからである。
《しかしまあ、よく見つけられたな。その過程まで見てくれていたか?》
「ふっふーん、あたぼーよ! えっと、あたしたちみたいにイチャイチャしてたら、女の子が顔を真っ赤にして魔法を飛ばしたの。それで吹っ飛ばされた先に、魔道具が埋まっていたんだ」
《……俺の仕込みは、そんなイチャイチャイベントに潰されたのか》
今回の発見者はなんと、かつて俺と戦ったことのある『選ばれし者』──フレイ。
まったく、バトルフィールドの方もそうなのだが、どうして問題を起こすんだか。
少し前のレイドラリーイベントの時からそうだが、彼はパーティーメンバーをフルに揃えている。
それがこれから行われる戦い──ユニーク種との戦闘において、どう関わってくるのかが楽しみな点だ。
◆ □ ◆ □ ◆
特殊エリア 仮想フィールド
「ヤンちゃんのスニーキングミッション! 隊長、上手く潜入できたであります!」
《うむ、よくやってくれた。引き続き、こちらに情報を送るのだ》
「了解です!」
眷属の個性に合わせ、一人ずつ異なる力を持たせて渡している指輪。
ヤンもまた、当然それを受け取っており、今回はその力で彼らを追いかけた。
──『追跡者の指輪』。
全然その感じは無いとしても、彼女の身を構成するのは紛れもない【嫉妬】の力。
そして、生みだした魔武具は『狂愛包丁』なので……それっぽい指輪だろう?
効果は指定した対象を、どこまでも追いかけることができるというもの。
まあ、世界間を跨ぐのは難しいが……標的が向かう先を知っていれば話は別。
俺の主催しているイベントなので、ヤンには一度ここへ来てもらっている。
そのため条件を満たしており、追いかける形で潜り込むこともできたのだ。
《さてさて、初回なんだからぜひとも頑張ってもらいたいな》
「ねぇねぇ、メルス。それって、どっちのことなの?」
《ん? そりゃあもちろん──》
フィールドには何も存在せず、彼らはどういうことかと少々戸惑っていた。
そして、それは隙となる──突如血を吐いた少女の姿が、それを証明している。
《──[ネクロエム]に決まっているだろ》
「だよねー。ふれっ、ふれっ、根暗M!」
《言い方がおかしいぞ。というか、根暗じゃなくてネクロだし》
不可視化を解いて現れたのは、体の外側に骨の鎧を纏った巨大な獣。
アンデッドでありながら、生者……というか普通に生きているユニーク種。
その名は『万獣屍王[ネクロエム]』。
お分かりだと思うが──ネロとクエラムから抽出した、とある力を組み合わせて生みだした人造のユニーク種であった。
ちなみに少女に何をしたのかというと、骨で固められたサソリの尾を刺したのだ。
瘴気と即死級の毒を同時に流し込まれ、すぐにその少女は死んでいった。
「リカ! ……よくも、よくもリカを!!」
《うんうん、素晴らしい主人公っぷりだな》
「そうだね。逆に、メルスはいかにも悪役って感じだよね」
《……そうだけどさ》
フレイはその背や剣に白や黒、加えて赤色の炎を纏わせて戦闘態勢を取る。
それでも無謀に突貫しないのは、しっかりと仲間のことを考えているからだな。
白色の炎がリカと呼ばれた少女を包んでいたが、特に変化はない。
たぶん、蘇生効果か蘇生可能時間の延長でもしているのだろう。
しかし、瘴気と毒が混ざった肉体を浄化するには足りなかった。
ユニーク種は性能が強化されていることもあり、あっさりと死に戻りの現象が起きる。
「ちなみにメルス、今の感想は?」
《さすが眷属から生まれたユニーク種、どんどんリア充をぶっ潰せ》
「なかなかに自己中な発言だよねー。けど、あの人たちも負けてないみたいだね」
《なんだと!?》
幼馴染っぽい魔法職、先輩っぽい弓職、同級生っぽい斥候兼補助職、そして……一人だけ分からない不思議な女性。
そこにフレイ自身と先ほど死んだ妹っぽい少女を加え、彼のハーレムの構成員だ。
バランスが良いかは不明だが、女性関係に関しては問題ないようだ……チッ。
《メルスは勝てると思うの?》
「勝てないわけじゃない。参加人数に制限は無いわけだし、リスクとリターンの分別が付くヤツが集まればきっとな……いやまあ、そうして大衆で挑んでも、ロクな目に遭わないのが[ネクロエム]の特徴だけど」
先ほど死に戻りのエフェクトを放った少女の体だが、その光は彼らに気づかれることなく空を一回りした後に[ネクロエム]の下へ向かっていた。
ふっふっふっ、『選ばれし者』がどこまで戦えるのかを観させてもらおうか。
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