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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り初日 その17

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 基本的には漢字二文字程度で纏められる口調を話すリンカではあるが、別にそれ以外が話せないわけではない。

 というか、それでは話せないことの方が多くて困るだろう。
 昔のように漢字を一文字言うだけでやっていけるほど、世の中は甘くないのだ。


「……あれは?」

《珍しいな……『人形屋』、指定した物をデフォルメした人形を作ってくれるみたいだ》

「……デフォルメ?」

《そこからだったか。元の意味は……面倒だからいいとして、俺や少なくともあの店の奴は見た目を単純にすることだ。店の方を少し見てみるといい》


 今回はリンカから聞いてきたことなので、逆らうこともなく屋台へ向かう。
 そこは行列ができており、いろんな人々が並んでいた。


「長蛇」

《人気だからな……あっ、俺がやるならすぐに用意でき──》

「不要」

《そ、そうか……ぐすんっ》


 人形屋は主にぬいぐるみを作っているようなのだが、それ自体は裁縫スキルで作れる。
 だが、あくまで縫うことしかできないのでそれ以外はまた別の何かが必要だ。

 自前の才能かもしれないし、スキルによるものかもしれない。
 いずれにせよ、そのセンスが冴え渡った結果がこの繁盛っぷりなのだろう。

 リンカも列に並び、少しずつ前に進む流れに従う。
 そうしていると、だんたんと店に近づくため……列からぬいぐるみ製作が観れる。


「はい、お待たせしました。どのような物をお求めでしょうか?」

「えっと……こ、こんな感じのものを!」

「『妖精猫ケットシー』の剣士さんですね。分かりました、じゃあちょっと待っていてくださいね」


 幼女が見せた絵本を参考に、中学生ほどの少女が糸を紡いでいく。
 型紙も無いのに見ただけでそれを用意し、的確に縫合しては綿を詰める。

 時間にして一分も掛かっていない。
 幼女がその作業工程を、キラキラした瞳で観ている間にそれは完成した。


「これでいいかな? ケットシーのぬいぐるみさんです」

「うわー、ありがとう!」

「ふふっ、どういたしまして。何か困ったことがあったら、すぐにここに来てね。ぬいぐるみさんに何かあったら、私がどんなものでも直してあげますから」

「お姉さん、ありがとう!」


 なんて感じのやり取りが続く。
 ちなみに、お代の方はかなり安い。
 銅貨が五枚──約500Yなのだが、これは通常価格の話。

 子供の場合、バザーフィールドだと大幅な値引きがされる。
 主催者がその分は負担しており、先ほどの幼女も銅貨一枚でぬいぐるみを買っていた。

 ……あっ、年齢詐欺はできない。
 この世界はステータスが存在する以上、そこは偽装でもしない限り真実を示す。

 あとは偽装された部分を突破して、本当の年齢を把握すればいい。
 実際、年齢詐欺をする合法ショタや逆に大人な見た目をしたロリなども居たそうだし。


「はい、次の方ー!」

「……到頭」

「お待たせいたしました。どのような品を、お求めでしょうか?」

「…………」


 並ばせてみたものの、リンカが望む物とはいったい……視界を間借りしている俺も、それが何なのかは分からない。

 すると、突然視界が真っ暗になる。
 一瞬焦ったが、それがリンカによって行われたものだとすぐに分かった。


「……他言、無用」

「ふふっ、分かりました。それでは、さっそく作り始めますね」

「嘆願」


 俺の視界を隠し、ぬいぐるみ製作を始めてもらったのだ……それぐらい察しが付く。
 うんうん、俯瞰して観れば分かるかもしれないが、それはやらないでおこう。


《恥ずかしがることなんてないぞ》

「……!」

《自分の好きは、誰にも邪魔できない。たとえどんな趣味があろうと、俺は別にお前を否定しないのと同じだな》

「……?」


 ゲテモノなのか、それとも名状しがたいナニカなのか。
 いずれにせよ、ぬいぐるみを触媒にナニをしようと俺は止めないと誓おう。

 こういうことはそっとしておくべきだ……俺だって、プライベートやプライバシーを守れる男なのだ。


「はい、できましたよ……今度は、いっしょに来てほしいですね」

「……了承」


 なんて会話を終え、しばらくすると再び彼女の瞳が映す光景を観れるようになった。
 予め[アイテムボックス]に仕舞ったようで、ぬいぐるみは持っていない。


《どうだ、ぬいぐるみは趣味になったか?》

「……不明」

《まあ、今回は最初だからな。こんな感じで進めていこうっていう、チュートリアルみたいなもんだ。気になった物に目を向けて、そこに行ってみる……これも立派な、趣味って言えるからな》

「了承」


 好奇心を抱くことは、とても大切だ。
 特に眷属は何でもある……というか俺が用意する{夢現空間}に住んでいるので、外へ向ける目を失ってはいけない。

 俺は彼女たちの居場所を守るため、よりよい環境づくりを欠かさないでいる。
 が、それとは別に、彼女たちには健康的な生活もまた、してもらいたいのだ。

 
《とりあえず、次の店に行ってみようか。今度は食べ物でもいいぞ》

「…………以外」

《ん? まあ、リンカがそれでもいいなら別にいいけど……俺が見ているだけだ。好きなところで思う存分楽しんでくれ》


 いろいろと揃っている場所なので、リンカが気に入る店もあるだろう。
 ……俺はそれを学習して、あとでやろうと決めている。

 ──最高のぬいぐるみを、今度作ってみないといけないな。


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