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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り初日 その16

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 イベントエリア バザーフィールド


 言うなれば、商業区。
 ありとあらゆる品々を集めたこのフィールドにおいて、金で買えない物はない。

 バザーというだけあって、参加者たちが並べる店も存在する。
 祈念者や自由民を問わず、さまざまな目的でこの地で店を開いていた。


「…………」

《なんでそんなに嫌そうなんだ? 今回のお祭りは、結構楽しめると思うんだが……》

「……無想」

《楽しめてないか。なあ、リンカ。とりあえず、俺の言ったことだけでもいいから試してみてくれないか?》


 リンカ、それは『輪魂穢廻』が受肉した姿に与えられた名前。
 少女としての姿を与えられた彼女は……とても不服そうに、頬を膨らませていた。


「料理、不味」

《おまっ、そんなこと大胆に……いいか、いちおう俺の弟子ってシステム的に認識されている人もいる。その人の料理は、眷属も認める美味しさだ。それを見つけていないのは、お前が祭りを楽しんでいないからだ》

「……不承」

《というか、料理以外にも楽しめるものはあるんだけどな。いろいろと見て回って、何か興味が持てるモノを見つけるのもいい。お金は渡した分があるから、それを使うんだぞ》


 もともと存在理由すら分からなかった彼女なので、趣味などはまだまったくない。
 しいて挙げるのならば食事だが、それはグラと被っているし……じゃなくて。

 グラはそれでも、自分で料理を作ることを実は覚えていた。
 なんだか、『人生のフルコース』的なモノが作りたいとか言っていたっけ?

 対してリンカは単純に食べるだけ。
 しかも、それは最悪栄養が摂取できるなら何でもいいというような、そもそも趣味とは呼ぶことのできないもの。

 なので今回、彼女には何か趣味を見つけてもらいたかった。
 ありとあらゆるものが揃うここならば、それも見つかると信じて。


「探索……終了」

《速いし、早すぎるから。そうだな……とりあえず、触媒を見てみたらどうだ? 魔力の燃費を減らせるし、その中に封じておけば維持も楽だ。まずは戦闘関連でいいから、何か見つけてみよう》

「了承」


 彼女は人の身を得たが、妖怪としての姿でも使っていた屍鬼を作ることができる。
 通常時は彼女の姿をした褐色少女が生みだされるが、それは変更可能だ。

 魔力を少し多めに消費すれば、既存の妖怪が闇を纏ったような姿で生成される。
 だがそこに、触媒となるアイテムを用いれば大幅に燃費を抑えることができるのだ。

 イメージを挙げるなら──彼女の能力はプログラムをエミュレーターで使うもの。
 そのまま使うと重いので、専用のハードとソフトを用意することで別処理とするのだ。


《……うーん、なんかたとえがおかしい気がするけど。まあ、こんな感じで合っているよな? 前に渡したネームド種を触媒にしたヤツも上手くいったんだし、今回もたぶん成功するだろう》

「……適当」

《人間なんてそんなもんだ。適当にやって、結果を得る。それ以上に何かが欲しい奴だけが、努力をしてより良い成果を得る。リンカはまず、適当でもいいから結果を得てみろ。で、面白かったらもっと楽しめ》

「…………」


 なんだかんだ言いつつ、リンカはとりあえず飯以外の店を見てくれる。
 どういった心情かは不明だが、少なくとも彼女なりに受け入れてはくれているだろう。

 ちなみにバザーフィールドにおいて、窃盗や詐欺のような行為することは可能だ。
 しかし、ほとんどの者はそれがバカらしいと分かっているのでやらない。

 それはなぜかというと──


「……制裁」

「ぐぎゃっ!」

「雑魚」


 至る所でリンカと同じ姿をした少女が、そういった行いをした者を殺しているから。
 腕には『こーせーいーん』と書かれた腕章が付いており、それを誰も咎めない。

 腕章の効果として存在偽装が施されているし、保護欲スキルも付与しておいた。
 可愛い少女が頑張る姿は、人々をほっこりさせるだけで済んでいる。


《またいたのか、ずいぶんと大活躍だな》

「……面倒」

《手慰み程度で済んでいるから、リンカも協力しているけど……なかなかに犯罪発生率が高いな。人の数からすると少ない方だが、さすがにこうも価値のある物ばかりだとな》


 まあ、リンカの包囲網も完璧ではない。
 ごくまれにそれを突破して、掏摸やらアイテムの偽装なんかをしている者もいる。

 しかしその場合、バザーに居る誰かが逆転する裁判並みのカットインを行う。
 すると周りの人々が集まり、フルボッコにして金を奪い去っていく。

 バザーフィールドの特徴は、弱体化。
 特にユウの【断罪者】を参考に、犯罪行為がバレた者にはかなりの弱体化が行われるようにしたので……犯罪者はすぐに死ぬ。


《[ロウシャジャル]が出てこないってことは、基本的に差別はしてないんだよな……でも、差別はしないけど平等に犯罪の対象にしているから救えないんだけど》

「…………」

《あっ、そうだ。とりあえず、リンカは少しずつ複製体の数を減らしてくれ。自浄作用を見てみたいし、そこにリンカの買った触媒を入れてみよう。ただ減らすより、こっちの方がいいだろう?》

「…………了解」


 というわけで、リンカ初めてのお買い物。
 本家のお使いでもなかなか無い、間借りした本人視点でお送りいたします。


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