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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り初日 その14
しおりを挟むティル独りを相手に、祈念者の集団がいっせいに攻撃を仕掛けてくる。
彼らのクラン『荒くれ野郎』は、こういう荒事も多くの経験をしているらしい。
中にはある意味俺と同じ、『選ばれし者』へのちょっかいなども含まれていた。
つまり、圧倒的な個と戦う際の戦術などもある程度心得ているらしい。
《ただ、甘いんだよな。『選ばれし者』は、所詮誰かが目を掛けた人物。要は、自分で選ぶことのできない連中だ。その点、師匠は最強ですからね。いやー、相変わらず素晴らしい剣技っす!》
「……急に何よ」
《いや。やっぱり、うちの眷属は最高だなって思ってさ。『選ばれし者』とある程度戦える奴らも、ティルに掛かれば雑魚でしかないわけだし》
「言い方、少しは考えなさい」
彼女は優しくそう告げるが、視界に映る光景はそうは言っていなかった。
迫る祈念者たちを軽く切り伏せ、自身は傷一つ負わない姿──まさに強者である。
傍から見れば、独り言をする余裕まである始末……だがそれをするだけの力が、彼女にはあるのだ。
「単純に技量の問題よ。貴方たちは強さをレベルや武器の性能で判断するけれど、最後に物を言うのは本人の腕。少なくとも武技を手動で使えないようじゃ、私には届かないわ」
《……これ、恥ずかしいんだけど》
《ま、まあ……その、頑張ってくれ》
《……はぁ、分かったわよ》
カッコイイ台詞を祈念者に突きつけつつ、俺に念話でクレームをぶつけてくるティル。
せっかくなので、強キャラっぽいことをしてほしいと頼んでみたのだ。
彼ら、というかリーダーは粗暴な行為をあくまでロールとしてやっている身。
こういった機会さえあれば、きっと強くなるはずだろう。
「一撃、一撃だけ少し本気を出すわ。それを堪え切れたら、ご褒美をあげるわ」
「──よし、全員耐えるぞ! プライド? そんな物犬にでも食わせちまえ! 貰えるモノがあんなら、それを全部貰っていくのが俺たちの流儀だろう!」
「……清々しいわね。けど、報酬は期待してもいいわよ──『公正委員』はこういう賭けで負けたら、トレジャーフィールドの宝に関する質問に一つだけ答える決まりなのよ」
《そんなの、さっき初めて聞いたけど》
《まあ、頑張ってもらうためだな。占拠はしていたが、彼らも脱出する気でいたらしい。粗方調べ尽くして、最初からその予定だったみたいだな》
さて、ティルが居合の構えを取ると、彼らは全員で防御の準備を始める。
報酬がずいぶんと立派なものなので、ほぼ損をしない彼らからすれば好都合なのだ。
死んでも死に戻るだけ、損と言えばアイテムの消耗や能力のリキャストタイムぐらい。
デスペナも待てばすぐに解消される、ならばやるだけやった方が得になるはずだ。
……とは言っても、相手はティル。
残念ながら、彼らが望むような結果にはならないんだけどな。
「──『界牙』」
それを告げた次の瞬間、彼女は他のどの剣でもなく獣聖剣を握り──振るった。
あとはシンプル、彼女の視界には上下が分かれた祈念者の死体が散らばるだけだ。
『なっ……!』
「しばらくはそのままよ。まだ出血もしていないし、死んでいるってちゃんと認識できてないから」
「うわっ、マジだ!」「[ステータス]を見てもなんも変わってねぇぞ」「さっきのスキルが影響しているのか?」「いずれにせよ、スゲェ姉ちゃんだな……」「お前ら、ロールロール!」
『! な、なんじゃこりゃあ!』
ずいぶんと楽しそうだが、まあレベルの高い連中はリーダーといっしょに居た時期も長いだろうからな。
こんな状況でも、さほど気にならずにいけるほど経験を積んでいるのだろう。
しばらくすると、彼らも時間切れで死に戻りしていく──残るのはこの場に二人のみ。
「……なんで、俺には当てなかった。ハッ、さっさと殺しな」
「聞きなさい。約束通り問いには答えるし、こっちの方が都合がいいでしょう?」
「知られてるんだったな……けどまあ、俺は俺のままやらせてもらうぞ」
「構わないわ。さて──いつまでこういうことを続けるのかしら? こちらとして、他の参加者たちの迷惑になるような行為を、いつまでも見逃し続けられないわ」
あえて行っていた遺跡の占領には、そうした狙いと打算が含まれていた。
ティルはそれを、彼らから視て理解してたようだ。
「いったい、何者だよ」
「その問いがご褒美でいいのかしら?」
「冗談だよ、冗談。待ってろ、こっちにもいろいろと聞きたいことがあるんだよ」
情報は重要だ。
そしてティルから聞ける情報を有意義に使えれば、ユニークモンスターを見つけ出すこともその詳細を知ることも可能である。
だからこそ、彼は今回の質問をしっかりと考えてボケないつもりなのだ。
……ここで他の奴が居ると、ある程度ロールを交えないといけなくなるからな。
《実際、どこまで話すの?》
《占拠が起こるぐらいだし、[ヘルプ]に情報を足しておこう。公開されることを前提にした質問をさせて、それに対する祈念者の反応が視たい》
「分かったわ」
「……よし、決めた!」
そして、彼は質問を行う。
その内容とは──
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