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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り初日 その13
しおりを挟むティルが辿り着いたそこは、俺が魔法で造り上げたそれっぽい古びた神殿だ。
某記念堂の大統領の石像っぽいオブジェが飾られ、そこに祈念者が集まっている。
ティルが彼らを殺しまくったので、だいぶメンバーは減っているはず。
それでもまだまだ数が残り、二十人ぐらいが彼女の剣圧に圧されていた。
リーダーっぽい人は、覚悟を決めてティルに声を掛ける。
このままだと、時間切れになって斬られていたので正解だ。
「……い、いったい、どうしてこんなことをしたんだ」
「それはこっちの台詞。この遺跡を占拠するのはマナー違反。絶対的なルールでは無いけど、トレジャーフィールドは誰もが平等にお宝を得られるチャンスが与えられている……それを歪めるのはいけないわね」
「何者だ」
「そうね、『公正委員』の一人よ」
イベント中の[ヘルプ機能]には載せているが、『公正委員』とは眷属のことだ。
特別な権利は無いが、単純に強い……そして、不要な嘘は付かない。
そんなことを書いてあるので、彼らは自分たちの情況を理解する。
書かれているもう一つの内容──倒すと、膨大なポイントが手に入るという点を見て。
「……つまりなんだ。あんたは俺たちをここから追い出したい、そういうことだな?」
「ええ、そうよ。知っての通り、すでに苦情が出ているわ。だからこうして強制的に退出してもらっているし、また舞い戻ってきても同じように殺す予定よ」
「例の天使様が来ねぇってことは、俺たちでなんとかするしかないってことか……しゃあねぇ──お前ら、ここから出るぞ!」
リーダー! と叫ぶメンバーたちを抑えながら、彼はその理由を告げる。
すでに大量の仲間が減っていて、このままだと場所の維持ができないこと。
そして何より、自分たちでは対応できないなどの理由だ。
「というわけだ、悪いな姉ちゃん。俺たちはすぐにここから出ていく、だから身支度をする時間ぐらい待ってもらえないか?」
「いいわよ、それぐらい。それで出て行ってくれるなら、むしろ願ったり叶ったりよ」
「……そうかい、感謝するぜ」
そうして彼らは準備を始める。
ティルはそれを邪魔することなく、神殿の柱に寄りかかってそれを見ていた。
《……いいのか、それで》
「それを彼らが望んでいるんだから、私も邪魔なんて野暮なことはしないわ。けど、死んでも死なないからこその選択ってことね」
《いずれにせよ、時間を取られれば他の奴に先を越される可能性もある。選ぶのもさっさとするべきだったんだろう》
「そうね。もっとも大切なことを見誤らないこと、これが重要ってことかしら──さて、そんなに物騒な準備をして、これから何をするつもりなのかしら?」
彼女がそう言って見た視界には、抜身の武器を構える祈念者たちの姿が。
どうやら予想通り、彼らはティルと戦うことを選んだみたいだ。
「どうせ死んでも死ななくても、外に出ることになるんだ。なら最期に、一攫千金に賭けてみて何が悪い……というか、なんで分かったんだよ。表情から気配まで偽装したし、口に出して連絡はしてねぇはずだ」
「企業秘密よ。あと、そういう隠し事は仕草に出るわよ。あなた一人がどれだけ頑張っても、私の思考は鈍らせられなかったわね」
「そうかい、そりゃあ残念だ。どうせなら、仲間の敵討ちなんだから、アイツらが殺られたみたいに不意打ちから始めたかったんだがな……もういい、殺っちまうぞテメェら!」
ティルは自分の瞳については何も言わず、リーダーもいろいろ隠したうえで戦いが幕を開ける──ちなみに彼らの平均レベルは、意外と高く240ぐらいだ。
すぐに別の思考が[世界書館]で調べてみたところ、粗暴なロールをすることで有名なクラン『荒くれ野郎』という組織らしい。
リーダーの彼は『吶喊漢』という二つ名が与えられるほど、愚直なヤツなんだとか。
……ナックルから聞き出した情報だと思うが、聞き流していたので覚えていないな。
《レベルの平均は限界の少し前。外で見張っていた奴らは、まだ200程度だったらしいぞ。ちなみに、普段は祈念者相手にしか悪役の演技を徹底してないらしい》
「……その情報、要るかしら?」
《意外といいヤツってことだ。ティルも視て分かっていたとは思うが、特に犯罪行為はしていないぞ》
「そうね、彼個人に関してはその通りよ」
うん、まあ……リーダーは彼らを統制し、自由民への悪意ある行動を抑制しているんだけど、絶対にバレる自由民への暴行はともかく、祈念者相手ならばとやっている者も。
俯瞰している方の意識が神眼の鑑定眼で視てみると、いろいろと知ることができた。
いろんな眼の力を使えるティルもまた、それをある程度把握している。
「さっきからどうした、独り言ばかり」
「意外とあなたが良い人だと、知人だと連絡していただけよ。それよりも、その演技なら不意を付いた方がいいんじゃないの?」
「! チッ、誰だよチクったのは」
「ナックルね」
あの迷宮オタク、と毒づくことからも、彼らの交友関係がなんとなく分かった。
まあ、遺跡の占拠にもいろいろ理由があったのだろう……処断はティルにお任せだ。
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