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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り初日 その09

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 それは起き得るべくして起きたことだ。
 迷宮から突如として、膨大な魔力の反応が飛び出してきた。

 禍々しいどす黒い色をした魂魄を持つ、根源から染まった悪意の塊──悪魔。
 上級と格付けされるまでに成長したその個体が、逃げるように外へ出ていった。


《やっぱり祈念者にも、それなりに戦える奴はいるんだな。PKKの集団だし、ユウみたいに業値に応じたダメージを出せる奴がいるのか? まあ、いずれにせよこうなったわけだ──頼むぞ、ミシェル》

「了解──“聖迅域《サンクチュアリ》”、“聖迅域”」


 一つ目は魔法の“聖迅域”。
 聖なる空気で迷宮の周囲を包み込むと、簡易的な結界を生成していく。

 悪魔はそれを察して急速に上空へ向かい、逃げようとするが……二つ目が発動する。
 聖属性を強化する領域が展開され、魔法の“聖迅域”もまた構築速度を速める。

 お陰で上級の悪魔すらも触れただけで浄化されかける、高い聖性を持つ結界ができた。
 悪魔はそれを理解したのか、忌々しそうな目でその術者──ミシェルを睨んだ。


『貴様、一度ならず二度までも!』

「警告する。大人しく、迷宮の中で討たれてほしい。貴方は迷宮の魔物で、迷宮の意思は中で探索者たちと戦うことを望んでいる。外へ己の意志で出ることは許されていない……再び中へ、入ることを勧める」

『ふざけるな! 貴様への怒りで、我は外で出る資格を得た! ならば何をするか……迷宮の意思など関係ない、貴様が迷宮の関係者ならば、その死を以って我は自由を奪い去ってやろう──死ね、“地獄煉火ヘルフレイム”!』


 かつて大悪魔が使ってみせた、悪意によってさまざまなモノを燃やせる地獄の炎。
 上級悪魔である彼もまた、それを使うことができたようだ。

 ミシェルに向けられたその炎だが、聖域で使っても威力が落ちてしまう。
 それを承知の上で、少々魔力を増して威力の嵩上げをしているみたいだ。


「“聖迅剣”……これで、もう終わり?」

『な、なぁ……!』

「ヤンの魔法の方がもっと禍々しいし、リーの呪いの方が厄介。悪魔の魔法って……この程度なんだね」

『~~~~ッ!!』


 あっさりと地獄の炎は聖なる剣に斬り裂かれ、浄化されて消える。
 ただ振り回すだけではなく、ティルに鍛えられた斬撃は最小限の力で結果を生む。

 言語能力が崩壊してしまったらしい悪魔。
 ミシェルの言う二人が誰かは分からなくても、それが侮辱だということは認識してくれたようだ。

 ……まあ、ヤンの闇ならぬ病魔法も、リーのデバフ系魔法もだいぶ強いんだよな。
 仮定の話だが、丸一日受け続けるだけで、きっとそいつは耐性特化になれるはずだ。


「もう、終わりでいい? 殺さない程度に痛めつけて、また迷宮に送り返す」

『! そうは……させるものか。まだだ、まだ我の力は!』

「…………どうする?」

《うーん、このままだとミシェルの圧勝になるか。とは言っても、多少のテコ入れじゃ勝ち目に変化なんてない。うん、怒りを力にしたいなら、復讐をしてもらおう。そのまま送り込んでくれ》


 復讐が望んだとおりに成せるのは、物語の中だけである。
 力を得てくれるのは大歓迎だが、それで眷属に害を成すのはなぁ……。

 というわけで、サクッとミシェルには悪魔の送還をやってもらう。
 やり方はシンプル──攻撃で吹き飛ばし、迷宮へ叩き込んで結界で閉じ込めるだけ!


「終わった……ふぅ」

《お疲れ様、ミシェル。あとはPKK集団がなんとかするだろうし、これ以上はやる必要がない。さっきも悪魔相手に、普通に会話ができていたぞ》

「あれは……ただ一方的に言っていただけだと思う」

《少なくとも俺は、独り言の体でも話せればいいと思っている。何も言わないよりは、その方がいいからな……いやまあ、肯定してもらわないと困るから》


 ぼそりとミシェルに伝わらないよう呟き、改めて世界を俯瞰して観る。
 迷宮の中では、上級悪魔が他の悪魔を喰らうことで回復していた。

 尋常ではない憎悪を抱き、それでも敵わないと深淵を目指している。
 今は力を蓄え、ミシェルに勝てると満足したときが復讐の始まりなんだろう。


「私はどうすればいいの?」

《今のことなら、しばらくは自由に行動してほしい。将来的なことなら、あの悪魔の駆除だな。今回のことで悪魔殺しスキルも得られただろうし、成長をしていこう……育てば魔法も貰えるからな》


 悪魔魔法、そして対を成す天使魔法はそこまで魔法の数が多くはない。
 代わりにとある条件を満たせば、誰でも大量の魔法を使えるようになる。

 ──それこそが、契約か討伐だ。

 天使と悪魔は個別の種族名を持つ者が多いが、その一体毎が異なる性質を持つ。
 そして先のどちらかを満たすことで、条件達成者に性質に合わせた魔法が与えられる。


《罪悪感とか……あるか?》

「ううん、全然。殺そうとしたんだから、殺される覚悟もあると思う」

《覚悟は無いと思うぞ。けど、殺そうとする云々はその通りだな。もともと、俺たちの世界にちょっかいを出そうとしたんだ……すべては俺が許す、復讐しに来たら、全力で潰してやってくれ》


 ミシェルは悪魔魔法など使わないが、習得すれば間接的に俺も使えるようになる。
 先の悪魔にも個体名を得られる域まで成長してもらい、ミシェルに糧になってほしい。

 ──それこそが、彼にできる唯一の益だ。


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