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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り初日 その08
しおりを挟む《分かりやすく状況を説明すると、迷宮の中で下級悪魔を無尽蔵に生みだしている奴が居る。ネタバレをすると、さっきミシェルが半殺しにした奴》
「……殺した方がよかった?」
《うんにゃ。だからこそ、こうして祈念者たちが本気で戦ってくれている。彼らとしてもイベントポイントを稼げるんだから、損はしていないはずだ》
今は詳細の説明はしないが、バトルフィールドで使う勝ち抜きのポイント以外にも、参加者の行動に準じて与えられるポイントが今回のイベントでは用意されている。
ダンジョンフィールドの場合、迷宮の探索はもちろん、魔物の討伐や罠の解除、宝箱の発見などでも貰える……なので、悪魔を殺している今も、ポイントががっぽりだ。
眷属も今回はポイントが貰えるので、誰が一番ポイントを得るかで競っている。
……頼み事も依頼という形で追加ポイントが手に入るので、一石二鳥なわけだな。
《無尽蔵と言っても、迷宮から強引に魔力を奪って補給しているだけだ。面白そうだから最低限繋がせているけど、少しずつ抵抗力の向上って形でできないようにしている。だから次第に、数も減っていくぞ》
「じゃあ、こうしていればいいの?」
こうする、というのは二刀流で悪魔たちを刻む行為のことだろう。
時々迷宮内の上級悪魔が奮発して、中級悪魔を出すのが……対して抵抗できずに死ぬ。
聖なる刃は滅し、邪なる刃は呑み込む。
それに加え、現在の彼女は無数の職業を経て強さを得ている。
『ジネェエエエエエ!』
「邪魔──“焦迅光”」
『グギャァアアアアア!!』
体を焦がすほど、眩しい光を放つ魔法。
それでも悪魔の魔法耐性の前に、本来はただ目潰し程度にしかならなかった。
しかしミシェルの場合、【聖迅魔王】やその他魔法系の【魔王】をカンストしている。
職業能力は<勇魔王者>によって継承されており、『迅』を付けて強化可能だ。
今回だって、中級悪魔としてせっかく何人かの祈念者を倒していた個体だった。
しかしミシェルの方に来てしまったため、周囲の下級悪魔とセットで殺されることに。
チート級の強さを持つうちの眷属たちなのだが、ミシェルは経験を積むほど強くなる。
だからこそ封印が施され、職業にも就けない状態にされていたんだろうな。
《まあ、しばらくすれば勝手にPKK集団が迷宮の方に直接行くだろう。ミシェルはその間の漏れた悪魔の駆除、それに失敗したときのアフターケアを頼む》
「失敗するのかな?」
《うーん、そうじゃなくてだな。やっぱり悪魔なんだから、ただでは死なないとかそういうパターンだな……ここがイベント用のエリアじゃなかったら、大問題になってたかもしれないけど》
「……ああ、なるほど」
納得したようで、それ以降は黙々と悪魔たちを屠っていくミシェル。
それから数十分もすると、出てくる数が減るのでPKK集団が迷宮へ突入し出した。
《少し休むか? 突入したら、出てくる数もだいぶ減るはずだし》
「ううん、今できる内にやっておいた方が楽だから──“火迅槍”」
空に向けて飛ばした火の槍は、飛んでこの場を離れようとする悪魔たちを焼き焦がす。
普通は射出した距離に応じて、威力も減衰するのだが……そういうのはゼロである。
そりゃあ『迅』は【勇者】と【魔王】にしか許されない、攻撃の強化方法。
それを俺なんかとは違い正当に使っているのだから、半端な威力が出るわけだ。
ちなみに燃費の方だが、普通に魔法を使うよりは多めに支払っている。
しかしそれでも、性能に見合う燃費かと言われると全然違う……いい意味で、だ。
《……やっぱり休もうか。残っている祈念者たちも、大量ポイントを得るんじゃなくてこのフィールドを守ろうとしてくれている。その好意に甘えるのも、いいんじゃないか?》
「…………メルスがそう言うなら」
《ああ、そう言っているそう言っている。張り切り過ぎるのも、体には毒だっていつも言われているぞ。そっちに軽くつまめる物を転送するから、締めに入るまではいっしょに休みを取ろう》
「うん、分かった」
ミシェルは俺が送ったサンドイッチをつまみながら、殺伐とした戦場を眺める。
迷宮『悪徳の深淵』から半径1km圏内において、悪魔たちが暴れている光景を。
それ以上は眷属が処理しているので、悪魔たちもその中限定に絞ったようだ。
祈念者たちもそれを理解して、範囲ギリギリで待ち構える者が増えた。
中央ではミシェルが無双をしている以上、どこかに逃げるしか無いのだ。
1km圏内というのも、一度は行かないと分からない事実。
同族が自分の視界内で殺されて、ようやく分かる事実──自分たちは逃げられないと。
やけになってその周囲で暴れようとするところを、防衛することでポイント稼ぎ中だ。
《サンドイッチは美味しいか?》
「うん、中身って何?」
《よくぞ聞いてくれました! やっぱり力を付けるには肉かなって思いまして、奮発して位階が13級の魔物の肉をふんだんに使わせてもらいました!》
「……道理で美味しいわけだね」
魔物は基本、レベルが高いと旨いからな。
美味しくなるように導いた、そう言っても過言ではない魔物たち……うんうん、ツッコミを入れてもその笑みは隠せていないぞ。
尋常ではないバフが付く食事を取った後、それが解除されるまでは何もせずに待つ。
そしてそれが解除されたとき──ミシェルは再び、悪魔を狩りだすのだった。
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