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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り初日 その07

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 それからミシェルは、上級悪魔と戦うよりも緊張することになった。
 何があったかといえば……うんまあ、周りに言わなければならなかったのだ。


「……つまり、間もなく『悪徳の深淵』よりMPKの集団が現れると。。そういうことで合っているかな?」

「…………(コクリ)」

「分かった。証拠となるSSも撮ってきてくれてあるんだ、冗談ではないだろう。すぐに[掲示板]に挙げるが……情報主は、秘匿した方がいいんだね?」

「…………(ブンブン)!」


 ミシェルは極力口を動かさず、代わりに体で言葉を伝えていた。
 最初はどうにか口を動かしていたのだが、少しずつそれもできなくなっていく。

 そして今が最終段階なのだが、初期ならもう剣を抜くか逃げていたので……うん、立派に成長しているのだ。

 ──ただ、それもそろそろ限界らしい。


「では、専用のスレを立てておくから、君もそちらで確認を……って、君!?」

「も、もう無理──“聖迅脚”!」


 瞬間移動まで使って、ミシェルはこの場から逃げ去った。
 ポカンとしているとあるクランのリーダーの姿を、俺は俯瞰した視点から眺める。

 そして、同時にミシェルが移動した先の視界も把握した。
 どうやら自分でも反省しているようで、少し落ち込んでいるようだ。


《まあまあ、ミシェルはよくやってくれた方だよ。……事情説明と称して、実演するとか言いながら[PvP]を始めた戦闘狂に比べたらアイツらと比べたらな》

「……全然嬉しくない」

《うん、今のは俺の表現も悪かったよ。ともかく、絶対に会話をしない奴とかも世の中には居るんだ。話そうとする意思があって、必要なことをきちんと伝えられた時点で立派にやったと言えるぞ》


 まあ、俺の知り合い…………知・り・合・い! も、似たような感じだった。
 問題の答えなら筆記した物を見せればいいし、大抵の質問は縦横に首を振ればいい。

 だからこそ、あまり好ましくない奴が相手の時はそんな風にしていた……らしいぞ!


《まあ、次は全力でやってくれても構わないぞ。ちゃんと指定した通り、周りと協力できる準備はできたわけだし。やり方はミシェルに委ねる、全滅以外の方法で好きなように暴れてくれ》

「全部私がやるなら、この後もこのままで居られるのに……」

《さすがにそれはなぁ……ほら、カナタやアイリスみたいに知らない世界に飛ばされた時に、対処できなくなるぞ》

「うぅ……それは困るかも」


 あまりに確率が低いはずだが、ミシェルは『異端者イレギュラー』なので油断はできない。
 俺だって異世界転移……というより、アバター憑依をしているわけだしな。

 ミシェルが今の状態で異世界に行ってしまえば、間違いなくコミュ力で詰む。
 どこかの魔王のように、ロールプレイすらできないわけだし。


《独り言の体でもいい、まずは話してみろ。それから相手が会話に乗れば、そこからは意識して話すように励む。反応が無いなら、それは独り言ってことで割り切る。俺なりの考え方だが……どうだ?》

「それって、メルスの実体験?」

《…………チガウヨ。こほんっ。とにかくだな、大切なのは相手がそれをどう見るかだ。どれだけ話術が達者でも、相手が不快に思えば意味が無い。相手にとって好ましく思える振る舞い、それが大切らしいぞ》

「らしい……」


 自分でやれていないのだから、仮定でしか話すことができない。
 まあともかく、ミシェルは再び話をしている中でやる気を取り戻してくれた。


「頑張ってみる。だから、メルスもしっかりと見ててね」

《ああ、分かってるよ。相手は枷の外れた悪魔ぐらいだし、問題ないはずだ。できるだけ味方になってくれた奴が、被害を受けないように救ってやってくれ》


 守ってやるではなく、救ってやる。
 最終的な部分さえ良い結果なら、今回は過程を捨てることにしました。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──来たぞ、撃て!」


 PKK、そして迷宮好きたちダンジョンラバーズによる防衛軍が結成されてから一時間も経っていない。
 しかし、深淵の底から這いあがってきた悪魔たちは、外の世界で暴虐を振る舞う。

 それに負けないよう、彼らも出てきた直後に強力な攻撃を使って数を減らしていた。
 ……それでもなお、膨大な量の悪魔たちが迷宮の外へ出ていく。


「一班から三班は出てきたところを叩け。四班および五班は被害状況を確認し、現場で倒してくるんだ!」

『了解!』


 上手く統率された防衛軍は、先ほどミシェルが話した相手に指揮されて行動を始める。
 悪魔を引き続き減らす者、追いかけていく者で二パターン。


「──“聖迅剣”、“邪迅剣”」


 現在、ミシェルは二本の剣を巧みに振るって悪魔たちを殲滅している。
 彼らの手が届かない場所まで移動した悪魔たちを、陰ながら屠っているわけだ。

 ちなみにダンジョンフィールドから逃げようとする個体も居るのだが、そちらは即座に消されている。

 ここを守っているのはミシェルだけではない、他の眷属たちも守っているからな。
 防衛軍もそれなりに数が居るのだが、迷宮から出てくる悪魔はまだ尽きない。

 ……因果とはやはり、こうして繋がっていくものなんだな。
 過去にやった出来事は、いつだって未来へ影響を及ぼすのだ。


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