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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り初日 その04

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 イベントエリア ダンジョンフィールド


 視点を切り替えれば、イベントエリアすべてを俯瞰することができる。
 面白いモノを見つけ、その近くに眷属を向かわせるためだ。

 二―へ引き続き、問題児たちの処分を任せて、俺は迷宮のとある区画を訪れた。
 普段は国民、そして招いた祈念者しか使えない迷宮なども一気に開放している。


《だからこそ、ここもそれなりに問題が生じているんだよな。人って凄いよな、どんな場所でもそこに不満を覚え、争いを生むことができるんだから》


 何があるかといえば、迷宮の情報売買やら攻略順などの揉め事だ。
 虚偽の情報で殴り合い、誰が踏破するかで殴り合い……揉めてばかりである。

 さて、そんな暗殺とも違う喧嘩の舞台に立つのは一人の少女。
 朱色の髪に藍色の瞳、巻角などの特徴があるが……今はそれより何より顔が真っ青だ。


「うぅ……人が、いっぱい」

《ミシェル、本当に大丈夫か? ダメなら交替してもらってもいいんだが……》

「ううん、大丈夫……なんとかなる」


 何の因果か、人族不信にして魔物不信……何より生物不信に陥っていた少女が、この区画の担当になってしまっていた。

 今ではうちの国民とならある程度話せるようになっていたが、まだ外部の人々が相手となると、まだまだ精神力メンタルが足りない。

 他の眷属にもこの区画担当の者が居るが、今回は付いて……いや、憑いていた方がいいかなぁということで、ミシェルを通してこの区画の様子を見ている。


《ここの問題は、正直バトルフィールドのものより面倒臭い。なんせ、斬って解決というわけにはいかないからな。仲裁し、原因をどうにかしないといけない。ミシェルのことは誰にも認識できないとはいえ……》

「大丈夫。メルスがいるんだもん、ダメなことなんてないよ」

《グハッ……そ、そうか。幸い、問題児だらけのバトルフィールドと違って、ここは基本的に真面目な奴が多い。ミシェルに頼むことも、そんなに多くないはずだ》

「が、頑張る」


 まあ、そうは言っても他の眷属たちだってミシェルの事情は知っているわけで。
 彼女の負担を減らそうと、物凄い勢いで問題の仲裁を済ませている。

 なので特にやることはなく、今は予防である巡回ぐらいしかやることがない。


「メルス……私は何をすればいい?」

《まあ、とりあえず警邏だな。問題を見つけたら、ミシェルなりの方法でどうにかしてみてくれ。ダメだったらなんとかするし、成功したら儲けものって感じだ……言い方悪かったか?》

「ううん、分かってるから。今はメルスが居てくれるし……デート、かな?」

《…………》


 なお、この時俺の体は吐血をしてしまったとかしなかったとか……うん、血を出す体にしていたら、間違いなくしてました。


  ◆   □   ◆   □   ◆


《そういえば、ミシェルは魔導を使えるようになっていたよな? 自分だけの魔導とか、そういうのはもうできたか?》

「ううん、まだ……メルス、逆に魔導ってどうやって創るの?」

《特にこれってことは無いぞ。自分がこれ、と決めたらそれをイメージする。あとは、それに名前を付けるだけ。俺としてはこんな感じだが、そこは人それぞれだろうな》

「難しいな……」


 結局、ミシェルの探知範囲で揉め事は全然発生していない。
 まあ、俯瞰した情報は眷属全員に伝えているからな。

 視覚を借りている思考が一つなだけで、連絡用に無数の思考が働いている。
 とはいえ、そっちのスペックはスパコンレベル……対して、俺はただの凡人レベルだ。

 さて、そんな魔導だがどれだけ頭が良くても生みだせるわけではない。
 模倣の場合は、それでもいいんだが……基本的に魔導とは感性で創るものだ。


《ミシェルの場合は……そうだな、理想と現実を魔導にしたらいいと思うぞ。俺の場合、その内の現実部門は“普遍在りし凡人領域”だった。要するに、自分の在り方を他者に強要すればいいわけだ》

「うん、ありがとう」

《そんなに褒められたことでも無いから、別に気にする必要はないぞ。それに、そんなことしなくてもできる奴はできる……俺のはあくまで、才能の無い奴でもできる方法だ。才能がある奴はどんなことでもできるからな》

「メルスはそんな…………うん」


 妙な間は、おそらく何も思いつかなかったからだろう。
 スキルで適性を補うことはできても、俺自身はほとんど何にも変わっていないしな。

 ミシェルはその出自から、生まれ持った才能も優れていた。
 会ったばかりの頃は封印されていたその才覚も、今ではきちんと機能している。


《俺は俺、ミシェルはミシェルだ。自由にやるのが一番なん……っと、ついに来てしまったのか》

「!」

《気負わずとも、問題ないはずだ。今は忙しい眷属も、できるだけ早く終わらせて近くで待機するらしい。手は出さない、そこは変わらないが……近くに居てくれるってだけで、だいぶ安心できるだろう?》

「……うん、頑張る!」


 ミシェルもだいぶコミュ力を上げていた。
 問題なのは彼女自身が、国民以外の人々に幻像を重ねてしまっていること。

 これまでも少しずつ慣らしてきたが、今回はいつもよりも難易度が高めだ。
 さぁ、頑張ってくれ──ミシェル。


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