上 下
1,673 / 2,518
偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り初日 その04

しおりを挟む


 イベントエリア ダンジョンフィールド


 視点を切り替えれば、イベントエリアすべてを俯瞰することができる。
 面白いモノを見つけ、その近くに眷属を向かわせるためだ。

 二―へ引き続き、問題児たちの処分を任せて、俺は迷宮のとある区画を訪れた。
 普段は国民、そして招いた祈念者しか使えない迷宮なども一気に開放している。


《だからこそ、ここもそれなりに問題が生じているんだよな。人って凄いよな、どんな場所でもそこに不満を覚え、争いを生むことができるんだから》


 何があるかといえば、迷宮の情報売買やら攻略順などの揉め事だ。
 虚偽の情報で殴り合い、誰が踏破するかで殴り合い……揉めてばかりである。

 さて、そんな暗殺とも違う喧嘩の舞台に立つのは一人の少女。
 朱色の髪に藍色の瞳、巻角などの特徴があるが……今はそれより何より顔が真っ青だ。


「うぅ……人が、いっぱい」

《ミシェル、本当に大丈夫か? ダメなら交替してもらってもいいんだが……》

「ううん、大丈夫……なんとかなる」


 何の因果か、人族不信にして魔物不信……何より生物不信に陥っていた少女が、この区画の担当になってしまっていた。

 今ではうちの国民とならある程度話せるようになっていたが、まだ外部の人々が相手となると、まだまだ精神力メンタルが足りない。

 他の眷属にもこの区画担当の者が居るが、今回は付いて……いや、憑いていた方がいいかなぁということで、ミシェルを通してこの区画の様子を見ている。


《ここの問題は、正直バトルフィールドのものより面倒臭い。なんせ、斬って解決というわけにはいかないからな。仲裁し、原因をどうにかしないといけない。ミシェルのことは誰にも認識できないとはいえ……》

「大丈夫。メルスがいるんだもん、ダメなことなんてないよ」

《グハッ……そ、そうか。幸い、問題児だらけのバトルフィールドと違って、ここは基本的に真面目な奴が多い。ミシェルに頼むことも、そんなに多くないはずだ》

「が、頑張る」


 まあ、そうは言っても他の眷属たちだってミシェルの事情は知っているわけで。
 彼女の負担を減らそうと、物凄い勢いで問題の仲裁を済ませている。

 なので特にやることはなく、今は予防である巡回ぐらいしかやることがない。


「メルス……私は何をすればいい?」

《まあ、とりあえず警邏だな。問題を見つけたら、ミシェルなりの方法でどうにかしてみてくれ。ダメだったらなんとかするし、成功したら儲けものって感じだ……言い方悪かったか?》

「ううん、分かってるから。今はメルスが居てくれるし……デート、かな?」

《…………》


 なお、この時俺の体は吐血をしてしまったとかしなかったとか……うん、血を出す体にしていたら、間違いなくしてました。


  ◆   □   ◆   □   ◆


《そういえば、ミシェルは魔導を使えるようになっていたよな? 自分だけの魔導とか、そういうのはもうできたか?》

「ううん、まだ……メルス、逆に魔導ってどうやって創るの?」

《特にこれってことは無いぞ。自分がこれ、と決めたらそれをイメージする。あとは、それに名前を付けるだけ。俺としてはこんな感じだが、そこは人それぞれだろうな》

「難しいな……」


 結局、ミシェルの探知範囲で揉め事は全然発生していない。
 まあ、俯瞰した情報は眷属全員に伝えているからな。

 視覚を借りている思考が一つなだけで、連絡用に無数の思考が働いている。
 とはいえ、そっちのスペックはスパコンレベル……対して、俺はただの凡人レベルだ。

 さて、そんな魔導だがどれだけ頭が良くても生みだせるわけではない。
 模倣の場合は、それでもいいんだが……基本的に魔導とは感性で創るものだ。


《ミシェルの場合は……そうだな、理想と現実を魔導にしたらいいと思うぞ。俺の場合、その内の現実部門は“普遍在りし凡人領域”だった。要するに、自分の在り方を他者に強要すればいいわけだ》

「うん、ありがとう」

《そんなに褒められたことでも無いから、別に気にする必要はないぞ。それに、そんなことしなくてもできる奴はできる……俺のはあくまで、才能の無い奴でもできる方法だ。才能がある奴はどんなことでもできるからな》

「メルスはそんな…………うん」


 妙な間は、おそらく何も思いつかなかったからだろう。
 スキルで適性を補うことはできても、俺自身はほとんど何にも変わっていないしな。

 ミシェルはその出自から、生まれ持った才能も優れていた。
 会ったばかりの頃は封印されていたその才覚も、今ではきちんと機能している。


《俺は俺、ミシェルはミシェルだ。自由にやるのが一番なん……っと、ついに来てしまったのか》

「!」

《気負わずとも、問題ないはずだ。今は忙しい眷属も、できるだけ早く終わらせて近くで待機するらしい。手は出さない、そこは変わらないが……近くに居てくれるってだけで、だいぶ安心できるだろう?》

「……うん、頑張る!」


 ミシェルもだいぶコミュ力を上げていた。
 問題なのは彼女自身が、国民以外の人々に幻像を重ねてしまっていること。

 これまでも少しずつ慣らしてきたが、今回はいつもよりも難易度が高めだ。
 さぁ、頑張ってくれ──ミシェル。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...