1,670 / 2,518
偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り初日 その01
しおりを挟む『魔導解放──“世界欺く夢幻の霧”』
イベントエリアに転送され、何もない空間で響く誰かの宣告。
戸惑い揉めていた人々は、人種も身分も関係なくその声を耳にした。
そして、それを認識した頃にはすべてが変貌している。
視界に映るのは巨大な国、城門がそびえ橋が掛けられた都市だった。
『──余興には驚いていただけたかな? 我がイベントへようこそ、ここは三日天下の幻想郷。望む物がすべてが存在し、求める物すべてを得られる場所。何をするのもいいだろう、唯一定めた法を犯さぬのであれば』
突如、空は曇り雷が光る。
まるで世界の主の心情を表すように、冷気や暗さが世界を覆う。
『努々忘れるな、生き物は皆平等になることができると。この世界では我が意こそが理、現世での差など存在せぬ。平等であれ、こちらから望むのはこれだけだ……従わぬ者は、主として裁きを下すことになる』
空から一粒の雫が零れる。
ただしそれは、参加者全員が認識できるほど大きなもので、地面に触れた途端、溶けるように消えていった。
『──改めて、歓迎しよう。ここは誰もが自由を謳歌する世界。仮初ではあるが、もてなすつもりでいる……どうか、失望させてくれるなよ』
そうして声は途切れ、代わりに大量の花火が空に打ち上がる。
人々は一連の流れについて考察しながら、橋を渡り祭りへ参加するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
「いやー、恥ずかしかった……」
「お疲れ様です、メルス様」
「ああ、そうだな。けど、どんどん進めていかないと」
「すでに配置は済んでおり、接客もできております。また、足りなくなった物資も、他世界より補充がされておりますよ」
羞恥心を癒すために休むこと数時間、どうにか復帰した俺はアンに慰められている。
その間も念話やスキルで仕事はしていたのだが、体自体はいっさい動いていなかった。
ちなみに物資とは、バフ付きの料理やレアアイテムなど。
他の世界の生産職たちが、急ピッチでアイテムを作って送ってくれているぞ。
「で、アイツは動いたか?」
「そうですね、まだ五件ほどです」
「……速すぎないか? あれだけこっ恥ずかしい思いをして警告してやったのに、そんなに死ぬのか」
「そうではなく。祈念者同士で意図的に揉めて、討伐を目指したようです。禁句による召喚は、未だゼロですよ」
完全カスタマイズの人造ユニーク種は、とても忙しく働いているみたいだ。
条件を厳しくする気はないので、この調子で頑張ってもらいたい。
「他に報告は?」
「コロシアムは現在、三桁突破者が出現しました。四桁突入前に誰かを投入するつもりでしたが……いかがなされますか?」
「一度敗北はさせたいし、チャル辺りでいいと思うぞ。ちゃんと認識されないように装備は徹底させるんだぞ」
「承知しております」
国民にこのイベントへ参加させなかったように、眷属にもある程度規制がある。
GMや運営神(の一柱)と交渉を済ませ、細工もちゃんとしてもらっておいた。
具体的には写真や映像を[メニュー]や魔道具で撮っていても、[掲示板]などで情報の掲載をすることはできない。
他者に見せることもできないため、できるのはせいぜい鑑賞することぐらいだ。
……まあ、認識阻害のアイテムも渡してあるので、平気だとは思うが。
「バザーでは情報を求める者が多く、レシピが高値で売れています。オークションの参加条件が一定以上の購入ということもあり、大金が飛び交っていますよ」
「レシピは全部、基礎だけだから問題ないはずだし。一部はロストしていたみたいだが、生産神様の加護は便利だよな……」
「もっとも大衆の注目を集めているのはやはり、グレッド産の素材です。迷宮でのみ採取可能と情報を開示したところ、生産職が挙って向かわれました」
「システム的に赤色の素材も適応していたからな……一度市場に流せば、勝手に祈念者の【迷宮主】が利益と見て生成してくれるようになるだろう。ふっふっふ、すべては俺の計画通りに進んでいくな」
赤色の世界の民には、今回限られた場所でだが参加してもらっている。
しっかりと結界で守られた場所に限るが、いつかのための布石としてだ。
その情報に加えて、未知の新素材である。
分かる人には分かるのだが、まだ知られていないエリアという認識で赤色の世界は祈念者も把握できるわけだ。
それが何を意味するのか、俺自身にもまだ分かっていないんだけどな。
ただ、広めておいた方がいいと話し合いの結果、言われたのでそうしているだけだ。
「……なんで、広めるんだ? 今さら考えると、急に気になるもんだな」
「メルス様、運営神によって突如誤った情報が伝えられる可能性がございます。そうなる前に、祈念者同士で情報の正誤を認識できるようにする必要がありました」
「そこまでするのか、アイツらって」
「赤色の世界たるグレッドは、すでにメルス様の支配下と考えられるでしょう。嫌がらせの一環として、そのような流布が行われるかもしれません」
そういう誤解が無くなり、仲良くできるように仕込んでおくわけか。
なるほど、この祭りはたしかにピッタリなイベントなわけだ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる