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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り初日 その01

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『魔導解放──“世界欺く夢幻の霧”』

 イベントエリアに転送され、何もない空間で響く誰かの宣告。
 戸惑い揉めていた人々は、人種も身分も関係なくその声を耳にした。

 そして、それを認識した頃にはすべてが変貌している。
 視界に映るのは巨大な国、城門がそびえ橋が掛けられた都市だった。

『──余興には驚いていただけたかな? 我がイベントへようこそ、ここは三日天下の幻想郷。望む物がすべてが存在し、求める物すべてを得られる場所。何をするのもいいだろう、唯一定めた法を犯さぬのであれば』

 突如、空は曇り雷が光る。
 まるで世界の主の心情を表すように、冷気や暗さが世界を覆う。

『努々忘れるな、生き物は皆平等になることができると。この世界では我が意こそが理、現世での差など存在せぬ。平等であれ、こちらから望むのはこれだけだ……従わぬ者は、主として裁きを下すことになる』

 空から一粒の雫が零れる。
 ただしそれは、参加者全員が認識できるほど大きなもので、地面に触れた途端、溶けるように消えていった。

『──改めて、歓迎しよう。ここは誰もが自由を謳歌する世界。仮初ではあるが、もてなすつもりでいる……どうか、失望させてくれるなよ』

 そうして声は途切れ、代わりに大量の花火が空に打ち上がる。
 人々は一連の流れについて考察しながら、橋を渡り祭りへ参加するのだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「いやー、恥ずかしかった……」

「お疲れ様です、メルス様」

「ああ、そうだな。けど、どんどん進めていかないと」

「すでに配置は済んでおり、接客もできております。また、足りなくなった物資も、他世界より補充がされておりますよ」


 羞恥心を癒すために休むこと数時間、どうにか復帰した俺はアンに慰められている。
 その間も念話やスキルで仕事はしていたのだが、体自体はいっさい動いていなかった。

 ちなみに物資とは、バフ付きの料理やレアアイテムなど。
 他の世界の生産職たちが、急ピッチでアイテムを作って送ってくれているぞ。


「で、アイツは動いたか?」

「そうですね、まだ五件ほどです」

「……速すぎないか? あれだけこっ恥ずかしい思いをして警告してやったのに、そんなに死ぬのか」

「そうではなく。祈念者同士で意図的に揉めて、討伐を目指したようです。禁句による召喚は、未だゼロですよ」


 完全カスタマイズの人造ユニーク種は、とても忙しく働いているみたいだ。
 条件を厳しくする気はないので、この調子で頑張ってもらいたい。


「他に報告は?」

「コロシアムは現在、三桁突破者が出現しました。四桁突入前に誰かを投入するつもりでしたが……いかがなされますか?」

「一度敗北はさせたいし、チャル辺りでいいと思うぞ。ちゃんと認識されないように装備は徹底させるんだぞ」

「承知しております」


 国民にこのイベントへ参加させなかったように、眷属にもある程度規制がある。
 GMや運営神(の一柱)と交渉を済ませ、細工もちゃんとしてもらっておいた。

 具体的には写真や映像を[メニュー]や魔道具で撮っていても、[掲示板]などで情報の掲載をすることはできない。

 他者に見せることもできないため、できるのはせいぜい鑑賞することぐらいだ。
 ……まあ、認識阻害のアイテムも渡してあるので、平気だとは思うが。


「バザーでは情報を求める者が多く、レシピが高値で売れています。オークションの参加条件が一定以上の購入ということもあり、大金が飛び交っていますよ」

「レシピは全部、基礎だけだから問題ないはずだし。一部はロストしていたみたいだが、生産神様の加護は便利だよな……」

「もっとも大衆の注目を集めているのはやはり、グレッド産の素材です。迷宮でのみ採取可能と情報を開示したところ、生産職が挙って向かわれました」

「システム的に赤色の素材も適応していたからな……一度市場に流せば、勝手に祈念者の【迷宮主】が利益と見て生成してくれるようになるだろう。ふっふっふ、すべては俺の計画通りに進んでいくな」


 赤色の世界の民には、今回限られた場所でだが参加してもらっている。
 しっかりと結界で守られた場所に限るが、いつかのための布石としてだ。

 その情報に加えて、未知の新素材である。
 分かる人には分かるのだが、まだ知られていないエリアという認識で赤色の世界は祈念者も把握できるわけだ。

 それが何を意味するのか、俺自身にもまだ分かっていないんだけどな。
 ただ、広めておいた方がいいと話し合いの結果、言われたのでそうしているだけだ。


「……なんで、広めるんだ? 今さら考えると、急に気になるもんだな」

「メルス様、運営神によって突如誤った情報が伝えられる可能性がございます。そうなる前に、祈念者同士で情報の正誤を認識できるようにする必要がありました」

「そこまでするのか、アイツらって」

「赤色の世界たるグレッドは、すでにメルス様の支配下と考えられるでしょう。嫌がらせの一環として、そのような流布が行われるかもしれません」


 そういう誤解が無くなり、仲良くできるように仕込んでおくわけか。
 なるほど、この祭りはたしかにピッタリなイベントなわけだ。


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