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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と迷宮建築案 後篇
しおりを挟む「ふっ、未来ある若人をまた導いてしまったようだな。これもまた……導士となった性質なんだろうな」
「……急に何を言っているんだい、君は?」
「あっ、リア。いつから居たんだ?」
「居たのかって……いつからも何も、さっき君に意見を述べた子が部屋から出た後だよ」
めちゃくちゃ普通だった。
こういうときは、定番として最初から会話のすべてを聞いているのが定番だろうに。
銀髪の男装麗人であるリアは、せっかく決めた俺の台詞にジト目を向けている。
……まあ、俺も俺みたいなモブが似たようなことをやったら不審に思うしな。
──『キメた』のか、って。
「けど、よくもまあこんな場所を造ったね。ぼくもびっくりだよ」
「建設途中に機械要素が足りないと、場所を貸した分の借りを返せと、お願いだと言ってきたのはどこのどいつだったかな?」
「さて、誰のことだろうね」
「あえて言うぞ、お前だよ」
童話にそんな要素皆無だというのに、なぜか機械文明にド嵌りしたリア。
自作の機械を作り続けた結果、自分だけの機械工房を持ち合わせているほどだ。
そんな彼女の提案もあり、セントラルターミナルには機械要素が盛りだくさんである。
自動歩道とかエレベーターとか……まあ、転移とかの魔法的な仕組みもあるけど。
「そこは言及しないのが、男の甲斐性というものじゃないかい?」
「甲斐性があるのは、俺じゃなくて眷属だろうに。正直、お前らに器の広さで勝てたことなんて一度もないぞ」
「うん、そうかもね……けど、それでもぼくたちを救ったのは君さ。器なんかよりも、その行いを評価すべきだとぼくは思うよ」
「……上手く話しを逸らされた気もするが、今はそれでいいや。それで、わざわざここに来たってことは何か目的があるのか?」
リアはずっと居たのではなく、俺と若者の話が終わった頃に来たのだという。
俺も話に集中していたが、そういえば眷属も含めて全員退出させたはずだったし。
「そういえば、そうだったね。メルス、動力部の方で反応があったから教えておいた方がいいと思ってね」
「おっ、ようやくか……しかし、なんで解散した後にあそこに行くんだよ」
「当然、あの未知が溢れた機械を拝みに行くためだよ。そう思って見に行ったら、ちょうど君に教えておいた方がいいものを見つけたからついでにね」
「ついでかよ」
リアの機械好き。
最初は男として育てられて身に着けた感性と、少しずつ進んでいく機械の発展に嵌ってのものだった。
しかし、この世界にはスキルが存在し、俺や祈念者、そしてファンタジーな機人族などさまざまな機械の情報源が存在する。
それらを吸収していった結果が、今や地球の二十世紀レベルで機械技術を持つ天才。
……あまりに外観をぶち壊すから、機械をリアの国から回収したりもしたな。
◆ □ ◆ □ ◆
セントラルターミナル 動力室
無数の童話世界を繋ぐ、『中央結節点』。
それを支える場所こそが、最深部に置かれた動力室なのだ。
機械と魔力を織り交ぜて創られた動力源によって、エネルギーがセントラルターミナル全域に供給されている。
本来ならば困難な隔てた空間への転移も、そのエネルギーがあってこそ。
何より童話世界へ向かうための座標を、この場所では提供している。
「──まさか、ぼくたちの魔本を動力にしているとはね」
「リアの分は無かったから、あとでリュシルに作ってもらった物だけどな」
リアは魔本を作られず、作られない代わりに終焉の島へ飛ばされた稀有な存在だ。
それでも童話世界用の空間は用意されていたので、それを取り込んだ魔本を作った。
リュシルのお陰で完成したそれは、本物と遜色なく機能を発揮しているようだ。
……まあ、ある意味でこれも本物なので、当然と言えば当然なんだが。
「とはいえ、動力として使えるのは半永久的に使える魔本だけ。つまり、童話世界が内部に存在する魔本と……アレだけなんだよな」
「君が古の魔王城から拾ってきたという、例の手記だね。もう一冊もちゃんと供給源としては使えているようだし、いずれは繋がるんじゃないかな?」
「……だな。内部の時間は停滞しているし、絶対に開放したいとは思っているんだが。どうにも都合が合わないんだよな」
「焦らずとも、君が君のやりたいときにやればいい。君には責任も義務もない……とはいえ、こんなことに使っちゃっているから、必ず助けないといけないけどね」
他の祈念者……特に『選ばれし者』ならばすぐに救うところを、いろんな偽善を同時進行しているせいで全然解放できていないのだから、若干の罪悪感ぐらいは持っているさ。
「さて、リアの言っていたヤツだが……まだだな。定着はしたみたいだが、完全じゃないみたいだ」
「君が強引に押し付けたりするから、納得できていなかったってことだね」
「……だって、そっちの方がいろんな意味でイイだろう。偽善者なんだから、ただ救うだけじゃダメなんだよ」
そんな会話をしながら、俺たちは動力装置に浮かぶソレを見る。
通常の魔本よりも小さい、手記型の擬似魔本は昏い輝きを放っていた。
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