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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と迷宮建築案 中篇

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 暴走──つまりは『魔物たちの騒動モンスターリオット』と呼ばれる現象は、迷宮を放置したときなどによく発生する。

 内部で魔力が高まり、魔物が溢れ、外部へと放出される現象だ。
 たとえ駆除がしっかりと行われている迷宮でも、条件を満たしてしまうと発生する。


「──さて、資料にこの件を載せなかった理由はご理解いただけただろう。初めの内は、暴走を管理する。スキルで感知できるようになればいいが、人材は限られているからな。魔道具で補えるようにしよう」


 ただまあ、そんな異常現象なので魔物の量や質などですぐに気づくことも可能だ。
 問題は気づこうとしない、あるいは気づき方を忘れてしまうこと。

 そうならないためにも、何度か経験させることで恐ろしさを忘れさせないようにする。
 ……もし運営神や厄介な祈念者にバレて、意図的に暴走を起こされてもいいように。


「以上で素材に関する問題は終了とする。何か意見がある者は…………いないな。では、次の問題へ行くぞ」


 先ほどの勇敢な若者も、とりあえず納得してくれたようだ。
 いつも授業でも沈黙を貫いていた俺とは違い、ずいぶんとやる気に満ち溢れていたな。

 俺は否定意見を全部跳ね除ける気はない。
 しっかりと反論できる理由を用意しているなら、聞き入れて改善する……眷属が。

 当然ながら、俺にそんな才能は無いぞ。
 真面目に社会のことなんか考えたことは無いし、税金が増えれば増えるほど文句を言うが、結局は黙って従う羊系男子である。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 真面目な人々が考えた、至極真っ当な意見の数々を捌いていった。
 全部を鵜呑みにはできないと、眷属が纏めてくれた資料通りに読み上げるだけだが。

 大切なのは俺ではなく、この世界を統べる力の持ち主からの承認だ。
 要するに俺の意見じゃなくても、俺の言葉ならだいたい通る。

 そうして眷属の言葉を俺の言葉として偽りながら、会議を進めていく。
 眷属の素晴らしい意見に感動する彼らを見ると……少々、罪悪感が湧いていたな。


「──以上で、会議は終了だ。研修生には、後ほどお土産を渡す。それを受け取って……たしかレポートを書くんだったな。できるだけ、いい方向に書いてくれよ」


 冗談っぽく言うと、周りの者たちは笑ってくれる……半ば本気で言っているけど。
 お土産はセントラルターミナルに関する、本当に売っていそうな試供品を渡している。

 一人ひとり、お土産を受け取って部屋から出ていく。
 俺もようやく休める……と思っていたら、目の前に立っている者が。


「あ、あの!」

「……さっきのヤツか。まだ何か、言い足りないことがあるのか?」

「えっ? あっ……いえ! 自分、メルス様に言いたいことがあるんです!」

「へぇ、言いたいことねぇ。まあいいや、聞くだけ聞くぞ」


 思いっきり口調を崩し、態度は雑でもいいと言外に語るが……変わらなかった。
 まあ仕方ないかと肩を竦め、独り残った若者の話を聞く。


「お前はたしか……『ミティアス』の研修生だったよな」

「そうです、そして──孤児でした」

「イイと思うぞ、成り上がり。俺もある意味似たようなものだしな」

「め、メルス様がですか?」


 彼にとっての俺とは、いったいどれだけ凄い人物なんだろうか?
 ただのモブ、自称偽善者、自分がどういう目で見られるのかは分かっているつもりだ。

 ミティアスはリラの世界にあった街へ、新しく付けた名前である。
 あそこは身分制度ができていたため、孤児も居たのだろう。


「身分なんて与えられていなかった。あるのは暴力だけ、そこからなんやかんやあって世界を創れるようになって……こうなった」

「……え、えっと」

「だいぶ端折ったからな。常識も全然無く、スキルが無ければ字も書けなかった。そんな俺でも頼れる奴が居れば、こんな風に偉そうに踏ん反り返ることができるわけだしな」


 その点、俺の創造した世界において若者にはしっかりとした教育が施される。
 ……もちろん、ちゃんとした意味で将来のサポートをするぞ。


「お前はどういう存在になりたい? それを支えるために大人は居るし、叶えるために俺たちお偉い様が居る。好きなだけ望め、好きなだけ考えろ……好きなだけ挑め。自分で得た経験なら、人はだいたい納得できる」

「ありがとうございます……メルス様、俺は勉強だけでここまで来たんです。スキルも全然無くて、魔法の適性も無属性だけ。そんな俺でも……できる、でしょうか?」

「ああ、できるさ」


 自信満々に答えるのも、少しでも不安を抱かせないために必要なことだ。
 それに……彼は逸材だ、それに気づいていないだけで。


「たとえば、魔術という概念がある。普通は機人族にしか扱えないものだが、無属性にしか適性の無い者のみが扱うことができる」

「っ……!」

「どうだ、これだけでも【希望】が見える。知るか知らないか、違いはそれだけなんだ」


 たった一つの情報で、変わることができるのだ──これからも、精進してもらいたい。


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